エピローグ 暗躍
アメリカ合衆国、とある荒野のガソリンスタンド。
「何だオッサン。あんなオンボロトラックで旅してるのか?しかもあの荷台に乗っているのは?」
「オンボロで悪いな」
アメリカのガソスタは、コンビニと一緒になっていることが多い。買い物しながらなんてざらだろう。
「現金で良いか?」
「おいおい、贋札が出回って電子化したご時世に……おいこれ本物か?」
「贋札だったか?」
「いや、いやいや、本物だ。マジかよ久々に見たぜ」
「釣りはいらん。チップ代わりに受け取っててくれ」
男はコーヒーと菓子、そして、ジュースを持って車に戻っていった。
「これで良かったか?ムニ」
「ん だい じょうぶ い」
ムニがやられた日から数日経った。
あのままギフテッドシティに戻るつもりだった。のだが、男と【零落】には懸賞金をかけられていた。
生死は問わず。つまり死体でも構わないということだ。
表向きにはキングが懸賞金をかけたように見えるが、実際はギフテッドシティにどっぷりと使っている企業からだ。企業を釣るための技術や知識はマスターと呼ばれる男が提供した。そして、マスターは一部の技術や知識を出し渋っている。それはかつて男が所属していた組織の門外不出の代物だったからだ。
「さて、これからどうするか」
ガソリンを入れ終わりキャップを閉め運転席に戻りエンジンを付ける。
「とりあえずコイツを直さないとな」
トラックの荷台に積まれているのはムニが装着していた例の強化外骨格だ。
「なおる?」
「適切な設備があればな」
そんなものがこんな荒野にある筈ないのだが。
「昔の隠れ家に行くか」
「なんふん?」
「明日の夕方」
「……なんふん?」
「丸一日以上」
「わーお」
マスターが車を走らせようとすると何かが放物線を描いて二人の車線上に現れる。
「チィッ、もう追い付いたか!」
マスターが車から飛び降りると改造ハンドガンを構え土埃が晴れるのを待つ。
「ますたー!」
「ムニは引っ込んでなさい!」
「でも……」
「引っ込んでなさい!」
今の零落は背面部の機器が破損している。炉心を起動させ推進力を得れば肉体にダメージが入る。
敵の強さも分からないのに戦わせることはできないのだろう。
「みっけたぜぇ、敗北者」
「この人?あの懸賞金の人」
「あぁ、そうだぜ。初老のオッサンと、クソガキ。いいなぁ、俺らが一番乗りか」
息を巻く二人に対してマスターは問答無用でハンドガンをぶっぱなす。
だが……。
「【倍速】」
口が悪い男は二倍の速度で動きだし弾丸を避けた後マスターへ襲い掛かる。
「あの街で瞬間移動を除けば最速の俺にィ、弾丸なんて機わきゃねぇだろォ!」
「クソッ!」
倍速の男は懐からナイフを取り出し腹部を突き刺そうと構えた。零落は異能を使おうとして走る痛みで出遅れた。
「……やれやれ仕方がない」
ボクが助けてやるか。
親指を立てて、人差し指を伸ばし、それ以外の指は折り畳み、空気を圧縮する。
【大口径空気弾】
超圧縮し高速化で打ち出した空気の弾丸は口が悪い男に直撃、爆発と共に数メートル吹き飛んだ。
「いったぁ……誰だァ!」
「アニキ!」
透明化、静音、認識阻害……解除。
「名乗る程の者じゃない」
なんちゃって。
「カンナギ!」
「おいバラすな」
マスターがボクの名前を呼び、結果、相手に招待がバレた。
「カンナギ……あのカンナギか!教祖殺しの……」
「あぁ、そうだよ」
目付きが変わる。その瞳の奥に憎悪に似た熱を見た。
「ここであったが百年目!死ね!カンナギ!」
倍速の異能、だが、先んじて布石は打ってある。
「極小機器生成」
瞬間、男の異能が消え身体麻痺を引き起こした。
「何……でぇ……」
「ナノマシンを打ち込んだ。これで動けない筈だ」
もう一人にも同じことをしようとするが、瞬間、精神干渉が行われる。
「精神響鳴」
精神攻撃を数倍に増幅、そのまま相手に返す。
「あッ……」
相手はそのまま地面に倒れた。
「……さて、」
ボクはマスターの方を見る。
「怪我は無かった?唯一」
「……はぁ。お前は変わらないな。カンナギ」
溜め息混じりに観念したような態度でボクの名前を呼ぶ唯一に近寄ろうとして。
「お、おい。これはどう言った状況だ?」
コンビニ店員が焦りながら出てきた。
「あ、すみません。警察呼べます?」
「あ、ぁぁ、あぁ!そうだな、警察。警察呼ばなきゃな」
呆気に取られたコンビニ店員が中に入っていった。
「カメラの内容と店員さんの記憶をいじる。あの二人がこの場で戦闘をしたって。口裏合わせてな」
「……そうしよう」
不服そう。
そんな唯一の様子を見ながらボクは腰に手を当ててほくそ笑む。
「何だ」
「死んでなかったんだな唯一。あの日、鉄四肢のメンバーの一人として兄と一緒に死んだと思っていたが」
咳をしながら零落が這い出て来る。
唯一は車に背を預けて腰を落としてしまった。
「死んださ。オリジナルの唯一は、な」
「じゃあ、ここにいるお前は?」
そう言うと唯一は首下の皮膚に親指を入れて捲り上げた。
その下には、機械の体が剥き出しになった。
「今、ここにいる唯一は唯一という人間の記憶と人格を引き継いだアンドロイド、ロボットだ」
「……なるほど。兄の方は?」
「ない。死んだままだ」
唯一が指を外して首したまで皮を伸ばす。
「鉄四肢の汚点だからな。あんな未完成かつ不完全な人工知能を人工衛星に搭載するなんて」
「だからあんな無茶を?」
「そうだ」
腰を落とした唯一はボクの意図に気付いたのか笑いながら問いかけてきた。
「それで?また殺しに来たのか?」
「まさか。話があってきた」
「話?」
ボクは車から這い出て来た少女を見て提案する。
「その子、多分必要になるから貸してくれないか?」
「……具体的に」
「今年中に大きな戦闘で必要になる。参加させたい」
「…………………………ダメだと言ったら?」
「力ずく」
「…………………………フゥー」
唯一が怒り混じりの溜め息をしてボクを睨み付ける。だが……
「………………それはこの子の決断だ」
「え」
子供の意思を尊重する。そこは昔も今も変わらない。
「ムニ。どうする?」
ムニはボクと唯一の顔を交互に見て首を捻る。
「………………ますたー も いっ しょ?」
「君が望むなら」
「………………なら ますたー も」
「……はぁ」
「交渉成立だね」
ずっと、これが目的だった。アメリカに来た理由はこれだった。
零落を手に入れる。星を落とす力を手に入れる。それが、本来の目的。
「ではまず寿命問題を解決しようか。知り合いに良いドクター兼マッドサイエンティストが居るんだよ」
「どっかで聞いた肩書きだな」
「その人だよ」
「え?」
「え?」
何か鳩が豆鉄砲を食らった顔をして居る。
「それじゃあ、日本に行きますか。追手はなんかこう、うまく何とかしておく」
そうして、ボク、カンナギの真の目的と暗躍が上手く行った。
……全てはより良き未来のために。




