帰郷する流星
後日、改めて日本行きのチケットを買い、お世話になった人達に礼をしてから帰る準備をした。
古いプレパブ小屋を離れ、僕達は
「寂しくなるね」
「なんだかんだ言った三週間ぐらい居たからね」
「すぐ学校始まるから休みとは思えませんでしたけど」
僕達は空港を歩く。世界中の色んな国籍を持つ人々が行き交い、最初に降り立つ場所。アメリカの縮図。
『姫のローカルネットワークに接続出来るようにしといたから秘密通信とかしたかったら連絡してね』
「ありがとうございます、姫」
『ちゃんと姫って呼んでくれたの君だけだからねぇ。他はほら、恥ずかしがって呼んでくれないから』
照れるってのは脈アリなんじゃあ。
『特別に姫の王子様にしてあげよう、なんて』
「お気持ちだけ貰います」
僕はキャリーバッグを持って距離を取る。
「僕の女神はもう居ますので」
「……はは」
「フフッ」
『……あれ?今フラれた?コクってもないのに?』
「好きでもないのに粉かけるから」
僕達を見送りに来たルークとエイヴァさん、そして電脳のお姫様の三人に最後の礼をする。
「良い経験になりました。この三週間弱、ありがとうございました!」
感謝を述べて頭を下げた。
「……こちらこそ」
頭を上げるとエイヴァさんとルークは笑顔を浮かべ、姫は機械のアームで手を振っていた。
「それでは、フランとノエルをよろしく」
「はい」
僕の手を引く幼い少女、フランにも笑顔を浮かべて。
「……そろそろ時間だ」
「さすがに二回目は、ね」
『じゃあね。今度は宇宙の旅にご招待するよ』
「機会があれば」
僕の手を引いていたフランがじっと僕を見た後、大きく息を吸って元気な声を出した。
「行ってきます!」
「「『行ってらっしゃい』」」
フランはどれ程の時間がかかってもいつかこの地へと戻ってくる心持ちだ。
望郷、故郷を想い、懐かしみ、帰りたいと願う気持ち。どうか、その在り方が損なわれませんように。
「それでは」
僕は会釈をして彼ら彼女らへと背を向けた。
アメリカという大国を離れるための歩みを止めない。軽やかなようで重く、心地良いようで後ろ髪を引っ張ってくる。
得体の知れない何かが僕に絡み付いているようだった。
それはまるで、僕が嫌悪する────
「翔!」
その時、僕の後方から大きく、空港中に響き渡るんじゃないかってぐらい大きく、名前を呼ばれた。
振り替えるとルークが親指を立てて手を振っていた。
「頑張れ!」
僕は手を大きく振って、答える。
「You too」
遠く離れたこの地に僕と同じように苦しんで、それでもなお、前を向いて理想へ歩み続ける人を見つけた。
変わらないものはきっとある。せめて、この日この時、この瞬間はお互いの胸の中に刻まれると信じて。
展望デッキから彼らが乗った飛行機を見送る。
甲高いエンジン音と共に少しづつ機体が動き始めた。
「……世界は広いなぁ」
「ん?」
海を隔てた向こうに自分と同じように苦しんで、それでもなお、前を向いて夢に向かって走り続ける人を見つけた。
変わらないものはきっとあると、君は言った。そして、君は多くの事を吸収してなお、変わらなかった。
「……いつか日本に行こうか」
『お仕事で?』
「旅行で」
今度は勘定無しで。普通の人として。
いつか、世界が平和になったのなら。
飛行機が声すらも掻き消すほどの大きな音を立てながら滑走路を走り、少しづつ機体が浮いていく。
完全に地面から離れた機体は車輪を仕舞い空を飛んで行く。
ものの数秒で飛行機は見えなくなり、雲へ消えていった。
「……さて、帰ろ……」
言い切る前に通信が入る。
普通に嫌な予感がした。
「……はーい」
『【幻影】緊急出動だ』
「……はぁ」
溜め息が出る。仕方ないなぁ、という溜め息が。
いつもの日常、いつもの風景、いつもの……事件。
世界が平和に、は当分先の目標だな。
「お仕事だ。行こう」
自分達は走り出す。目先の幸福、多くの人の当たり前を守るために。




