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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第三部 揺蕩う心

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流星落とし

 フランは何も出来ない。

 これだけの悲鳴を聞いて、これだけの絶望を見て、もしもこの体に残る兄だったものを放てば解決するかもしれないのに、また膨れ上がる音に怯えて何もできない。

 看護師さんが右往左往する。お医者さんが慌てふためく。患者さんが倒れて血反吐を吐いていた。

 フランは……フランは……助けられる。のに、フランは……自分可愛さになにもしなかった……。

「フランちゃん!」

 後ろから男の声がした。彼がとても焦った顔でフランを探していたみたいだ。

「どうしたの?」

「……ルークのところに病巣が現れたって」

「え……」

 その表情には焦りが見えた。その心はとても揺れている音を発していた。

「僕は行かなきゃいけない。フランちゃんは……」

 とっさにフランはしがみつく。

「フランも行く」

「……ダメ、ダメだ」

 彼は片膝をついて目線を合わせてフランを説得する。

「死ぬかもしれない。僕は、君の命も最優先なんだ」

「フランは……」

 暖かい手が肩に置かれる。優しい音がずっと聞こえる。

「ぅぐ……」

 浅ましいと思っている。フランはフランが抱くこの気持ちに嫌悪感すら抱いている。

 それでも……

「助けられる……かも……知らないから」

「え?」

 心臓から、胸の中心から兄だったものを取り出す。

「お兄ちゃんなら助けられるから」

「……」

「ルークを……死なせたくない」

 酷い話だとフランは分かってる。見知らぬ誰かの為には動けないのに、知ってる大好きな人達の為なら動けてしまえる自分がどれ程醜いか。

 そんなフランをカケルは優しい瞳で見ている。

「……そうだよね。ここで動かなかったら後悔するもんね」

「……うん」

 優しく抱き締めてくれる彼は暖かく、心の音はノイズが消えてはっきりと聞こえる。

 誰もが最初の一歩は手が届く範囲の人、だと。

「行こう。君の力で誰かを助けるために」

 フランは力強く頷いた。目の前の人の足跡を追うように。

 同時に、この心を蝕む何かが背筋を這い登る。まるで自覚症状がない病のように。




「連れていくのか?」

 病院の屋上、僕はワイヤーと液体金属で即席のハーネスを作り、フランちゃんを抱えようとしていると、ジョンさんは僕がフランを連れて行くことに反対した。

 でも……

「殺しは僕の矜持に反します。彼女が殺す以外での解決方法を提示した以上、僕はその手段を試します」

「安全はどうする」

「全霊を以て、僕が保証します」

「……」

 一言、いや二言ぐらいは言いたげな顔をしていたが溜め息と共に肩を落とした。

「子供だ、と言いたかったが今更だな」

「僕も子供ですからね」

「あぁ」

 皮肉混じりに返すもジョンさんはまっすぐと受け止めた。

「……一つ問う」

「はい」

 僕は話を聞きながら準備を進める。

「これから先、人類の覇権を取るのは異能者か?」

「多分違います」

 僕は彼の問いに即答した。

「その理由は?」

「さぁ?でも、僕には確信があります」

「ほう?」

 僕は空を見上げて今だ見えない星を見つめる。

「人類はいつか、この地球(ほし)を飛び出すって」

「……そうか」

「はい」

 僕はフランちゃんを抱えてハーネスを固定する。

「それでは」

「……あぁ」

 僕は液体金属で翼を作り炉心を起動させ噴流を吐き出す。

 ジョンさんは数歩下がり僕に聞こえるように声を大にして叫ぶ。

「この国では飛び立つ者にこの言葉を贈るものだ」

「?」

幸運を祈る(グッドラック)

 僕はジョンさんを見て、会釈する。

 その言葉に恥じないよう、全霊を尽くします。

 翼を羽ばたかせ僕は上空に向かって飛ぶ。衝撃波による被害を気にして高い位置で飛行する。


 故に、対空狙撃の格好の的となる。


 刹那、遠くで光が瞬き、次の瞬間、閃光が僕の頭部があった場所を通りすぎる。

「危なッ!」

 とっさの回避がギリギリ間に合った。が、もし仮に当たっていたらこの体は骨の髄まで炭と化していたかもしれない。いや、熱に耐性はあるけれど僕よりフランちゃんのほうが……。

 やっぱり置いてきたほうが……

「大丈夫、フランがんばる」

「……わかった。しっかり掴まっててね!」

 病院の方向から撃たれたということは既に制圧済み?それとも、何かの防衛兵器か?

 いや、それよりも今は彼女を病院に届けることが先決。即ち、当たらないように回避しながら飛ぶしかない。

「唾は飲み込まないように。鼓膜破けるからね」

「うん!」

 連射してこない。一発一発に充填が必要。

 閃光のコンマ一秒以下で弾丸らしき物が通りすぎたことを考えると物体の速度は音速以上、いや、光速か。レーザー兵器。発射の時、一瞬光が漏れてから射出される。その光が回避の合図……。

「やるしかない」

 液体金属で体を包み、空気の壁を破るための装甲を作り出す。

 自らを弾丸とし、音の数倍の速度で飛翔するために。

「行くよ!」

「うんッ!」

 刹那、再び彼方が光る。




『ムニ、機体の調子はどうだ?』

「りょーこう」

『体の方は?』

「りょーこう」

『そうか。作戦の方は?』

「やらかした」

 遥か彼方から迫り来る青白い星、いくら撃ち込んでもその全てを回避する。

 視界に映る電子の情報、風速、湿度、気温を処理しながら視線を動かす。その全てが光線を威力を減退させたり射線を歪ませる。

「そげき はじめ から かいひ」

『昔から小さな違和感に良く気付く子だと思っていたが、雷蔵の英才教育と相まって狙撃すら回避するようになるとは……。夜奏め、怪物を発掘したな』

「あと 三十びょう で とうちゃく。どうする?これ すてる?」

『ああ。【零落】は捨てておけ。この作戦ではお荷物だろう』

「あい」

『その後は作戦通りちょっかいをかけながら流星と幻影を離す。お前はその為の囮だ』

「うい」

『その後は砂漠の方へ誘導しろ。なに、お前なら存分に戦える』

「……あれ?」

『どうした?』

「りゅーせい びょういん ちゃくりく」

『何?』

 ちょっかいがてら頭部目掛けて光線を放つと容易く回避された。

 僅かに体が小さくなってる。

「だれか はこんでた?」

『……いや、あちらは病巣に任せよう。我々は役目を遂行するぞ』

「りょーかい」

 電子スコープの先に空を飛ぶ流星が見えた。射撃はバレルロールで回避される。きっと決め手は接近戦になる。

「さいご に くらえ」

 零落のエネルギー充填率を限界振り切って装填し、砲身が砕け散る威力で光線を放つ。

 タイミングが掴めないこの攻撃も容易く回避された。

「マスター」

『わかった』

 立ち上がり装備の起動を始める。

『炉心補助機構アストライア起動』

 紅い炉心を起動させ紅い噴流を背中から漏れ、背中に埋め込んだアストライアが肉体にもたらす負担を軽減する。

 同時に、強化外骨格にエネルギーが流れる。

『炉心接続型決戦拡張装甲【オリュンポス】起動完了』

 零落を外し身に纏った鎧の全容を晒す。

 背部に接続、固定された鋼鉄の人型パワードスーツ。全長四メートル超の鎧は身体の動きと連動し、思いのままに動かせる。

「ひこうほじょ」

 本来、一瞬しか推力を得られない異能、でも、アストライアとこの強化外骨格があれば音速を越えて空を飛べる。

 この炉心(コア)は星に迫る。

「こい りゅーせい」

 吸い上げられた炉心のエネルギーは強化外骨格のスラスターから吐き出され、鋼鉄の巨体が宙に浮かんだ。

「おまえ を こえてやる」

 流星が、着弾する。空気の壁を突き破り、こちら目掛けて衝突する。自動防御障壁【アフロディーテ】を展開しその攻撃を完全に防ぐ。

 異様なことに、流星は衝撃波を発生させていなかった。

「どいつもこいつもエネルギー障壁使いやがって!」

「コスパ」

 流星を弾き近くの建物の上に着地した。

「さっきからちょっかいかけてきたの君?全部即死しそうだったんだけど」

「ころすき だったから」

「……そう」

 後ろの病院で起きている出来事に意識を向けていない。

「げんえい みすてた?」

「見捨ててない。ただ、任せてって言われたから」

 さっき降ろした奴の事か。そっち狙っておけば良かった。

「まぁ いいや」

 全機能を使ってお前を超える。それがマスターに返せる唯一の恩返し。

 明日の陽の目を見ることすら出来なかったはずなのに与えられた唯一の奇跡。だからこそ、示す。

 この空に、星は二つも要らないんだから。

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