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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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13/145

君は英雄に非ず

 合流早々、横になった息絶え絶えの父さんからお説教を喰らった。

「バカ……この」

「ごめんなさい」

 ただこの時の父さんは強く言えなかったみたいで……。僕の後ろで腕をグルグルさせ今にも殴り掛かりそうな少女の姿があったらそうもなる。

「……誰?」

「保護対象の女の子」

 僕が振り返り雫を見る。やる気満々だ。

「お説教はその人にすればいいの?」

「今は勘弁して」

 むすーッとした不機嫌そうな彼女を宥める。だめだ、止まる気配が無い。

「今だけ、今だけ抑えて。ね?」

「……じゃあ、今だけ」

「ありがとう」

 父さんの方に向き直ると目を点にして僕と雫の顔を交互に見ながらどこか困惑している様子だった。

「……翔?」

「はい?」

「何も、してないよな?」

「何って?」

「何は……ナニだが」

「……?」

 溜息交じりに父さんはどこか呆れていた。

「分かった。話を戻す」

「うん」

 横になったままの父さんがゆっくりと話し出した。

「お前、何をしたのかわかってるのか?」

「……うん」

「分かってないな」

 僕は父さんを直視できず目が泳いだ。

 ずっと、父さんは僕に戦うなと言ってきた。身に付ける戦闘技術は必要最低限の身を守るだけの物と。だけど、僕はそれ以上を身に付けた。父さんの役に立ちたくて、自分一人でも生きていけるって証明して、安心させたくて。

 でも、父さんはどう見てもその事を良しとしていない。

 褒められるような事をした訳じゃないのは承知している。でも、そんな、落胆だけはして欲しくない。僕は僕の意思で、雫を守ったんだから。

「……あとはこっちが受け持つ。翔も、彼女も、どちらも保護する」

「……はい」

 眉間に皺を寄せた父さんに僕は何も言えなかった。

 でも、彼女は違った。違ったんだ。

「やだ」

「へ?」

「は?」

 僕と父さんは拒否の声の主、雫へ視線を向けた。堂々と、仁王立ちで誰よりも強く在る姿に僕は言葉が出なかった。

「お嬢さん。拒否をされても困る。君と、そして息子は自宅で襲われているんだ。命の危険がある。それに、我々は無能力だが奴ら相手に太刀打ちできる。守れるんだ。君を」

「それでも嫌だ。信頼が無いもの」

「信頼?」

 父さんと雫の問答が始まった。

「翔は、一度だけじゃない。最低でも三回は助けてくれた。対して貴方達は今出会ったばかり。しかも守るって言ってくれている貴方はどう見ても動ける状況じゃない」

「……守れないと?」

 父さんは温厚な性格だ。怒る時でも静かに怒る。そんな父さんの声音に怒気が混ざっていた。

 プライドがある。異能者相手に戦ってきた矜持、誇り、誓い、少なくとも出会ったばかりの少女に無下にされていいものではない。

 だが、父さんのプライドを根底からぶち壊す言葉を雫は容赦なく放つ。

「守れない。貴方は必ず翔を巻き込むから」

 瞬間、父さんは言葉が詰まり何も言えなくなってしまった。

「いや、だが、それは……」

 父さんが僕を救いを求めるように見て、僕は首を横に振った。何も言ってない。二回ほど僕が危険に晒された事。

「……まぁ、隊長今本当に動けないっスもんね」

 父さんの部下の男性が半笑いでやれやれといった感じで現れた。

「夜通しの警戒任務、正直ぶっ倒れそうなレベルの眠気、頭起きてませんし」

「……しかし」

「今の俺達に【超人】他二名を相手取って二人を安全な場所に護送する手段は無いっス。何で、プランBで行くっスよ」

 プランBと聞いて首を傾げる。つまりは最も安全な策を捨てるという事なのだから。

 それでも、自信あり気なその人は健やかに笑って見せた。

「作戦名は【翔君にも頑張ってもらう作戦】ッス」




 逃走から半刻、廃工場跡地。

 全速力で逃げた俺達は一息吐くためにここに姿を隠した。

「……畜生」

 楽しかった闘争は志波が負けた焦りで上書きされる。あいつは、そんらそこらの凡人に負けるような雑魚じゃない。

 雨宮翔、評価を改めなければならない。

「お腹減ったね」

「よーよー考えたらオレら全然飯食ってないし」

 デンコとボマーが廃材に腰掛けうなだれている。

 これからどうするか、それが今考えなければならない最優先事項。まず知るべきは、雨宮翔がどういった人間か、という事だ。

「ボマー」

「んあ?」

「お前、あれと戦った事があるんだろう?」

「ヒーローと?」

 ヒーローと呼び、俺は頷いた。

「どんな人間なんだ?強いのか?」

「んー」

 強いのかと聞かれ首を傾げている。

「強いかどうかと聞かれたら、訓練を受けた一般人ぐらいかな」

「それなら志波が負ける訳が……」

「ただ、オレはヒーローを前にした時『勝てない』って怖気付いた」

 何か言おうとして、ボマーの瞳に浮かんだ狂気と歪む口角に言葉が引っ込んだ。

「ひーろーはさあ、オレが金属製のごみ箱を爆破した時女の子守って、背中に大量の破片が食い込んで血だらけだったんだよ。なのにオレと対峙して、後ろに居る連中は希望に満ちた、安心しきった安堵の顔をしてたんだよ。なのに、オレを、オレを見るその眼は……」

 今にも高笑いをしそうな狂気的な笑みを浮かべ、ドン引きするデンコと俺はボマーの精神性を心配しながら冷えた目をしていた。

「まさしく、人殺しの目だ」

 悪が、対峙した存在に非人道を感じる。それは即ち悪を滅ぼすものと対峙しているという事。そういった存在と戦ったからこそボマーは雨宮翔をこう呼ぶのだ。【英雄(ヒーロー)】と。だが、あの男は本質的には英雄ではないし正義ではない。あの遠方、遥か彼方から俺達を睨みつけたあの時、唯一俺が確信したこと。

 雨宮翔は父親と似て非なる精神構造の在り方をしている。具体的にはまだ分からないが。

「だからヒーローなんだよ。彼は。あれと対峙して、敵と認識されたなら、オレは本物の悪に成れる」

「そうか、なら異能の方はどうだ?志波が言った通り異能を持ってるか?」

 瞬間、ボマーの顔がシュンッと真顔になって狂気が鳴りを潜めた。

「無い。少なくとも見た事は」

「……んー」

「もしかしてなんだけど、トラウマ持ち、の可能性は無い?」

 横からデンコが会話に交じってきた。

「トラウマ持ち?」

「あぁ~、トラウマ持ちってのは異能を覚醒させたが何かしらの要因によって異能に制限をかける、もしくは一切使えなくなる精神障害の事だ。心的外傷?だったか」

「へー」

 いや知っとけよボマー。

「ただ、だったとして、それなら戦闘自体嫌うだろ」

「可能性の一つだし。それに覚醒一歩手前状態の可能性もあるし」

「……」

 疑問が一つ生じる。それは異能者特有のある事だ。

「ボマー、アイツの身体能力はどうだ?」

「どうって、普通……だと思うけど」

「なら、それ以外は?」

「それ以外?」

 少し考えて、何か気付いたようにハッとする。

「バランス感覚が良い!」

「三半規管が発達してるってことだな」

「あと、上下左右前後めっちゃ飛ぶ!」

「空間把握能力があるってことだな」

「それがどうかしたの?」

「前提条件として異能者は異能を上手く使えるように一部の身体能力等が異常発達する。俺なら強化された身体能力に耐える肉体とかな」

「三半規管と空間把握能力だけで異能が発現してるとは言えないんじゃない?その二つは努力でどうにかなると思うし」

「まぁな」

 だとしても、志波の言葉は信頼に値する。異能があるかもしれない。最強以上の怪物になる。正解せずになんとするのか。

「とりあえず仮眠でもしたい。頭回んない」

「……じゃあ、二時間の仮眠をとるか。警戒は俺がしとく」

「あざーす」

「ありがとね」

 しゃーねぇ。切り替えて行くか。

 時間はたっぷりある。今のうちに雷蔵と翔の対策でも練っとくか。

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