人造の怪物
夜も更け、次善の策を詰める。
「無茶苦茶が過ぎる」
古い白熱電球一つだけが机を照す小さな部屋に作戦に関わる人間を集めて機能の戦闘データを見せる。余はその場にいた全員が愕然としていた空気に耐えられなくなり始めた。
「……どうだ?ムニ」
「やぁ ばぁ」
最高戦力予定のこの子ですらこれだ。
「そんなにか?」
ムニのマスターが口を開く。
「私から見てだが、能力面はキングの方が上だろう。百万の異能、どんなに雑に扱おうが並大抵の奴には勝てる」
余は内心穏やかではなかった。その言い方はまるで余には技能がないと言われているようなものなのだから。
「キングの戦い方は敵の弱点を的確に突きながら圧倒的火力で押し切る。これが最善かつ、無敵の戦法だろう」
「でも まけた」
「むっ」
だが、その通りだ。余は負けた。
「まけた りゆう は てきがじょういごかん だった から」
「上位互換?」
「膨大な経験と知識から異能の弱点を看破する観察眼、これが『流星』こと雨宮翔の最大の武器だとするならば、多彩かつ多様な手数の多さが戦闘方法の強みは敵に対して常に初見殺しを行っているようなものだ」
「決まった戦法を取らないと?ならこの上空に飛び、高速で降下してくるこの攻撃は?」
「彼も若い。何かしら成功体験があり、信用に値する戦法だったのだろう。まぁ、その必殺技をどこかの誰かが無傷で防いでしまったわけだが」
……もしかして余はあやつの慢心をへし折ってしまったか?唯一の隙を。
「敵の弱点を看破し的確に攻めながら自身の最大火力を長時間維持する。戦闘方法そのものへの理解が深いのは彼の方だろう」
そう言うとマスターはタブレットの画面をスライドし別の資料を映し出す。
「一つ質問なのだが、クリスマスの、『超人』カイン・シュダットと後の『流星』雨宮翔の戦闘映像だ。どこかの誰かがネットに流し、消えては再アップロードが繰り返されている」
「見たことあるが?」
「注視して見たか?超人は高揚と共に能力の出力が、いや、成長する。無限の成長だ。しかも、異様な速度で、自身よりも格上であったとしたも上からねじ伏せられるまで戦闘中に。雨宮翔は、追い付かれ、追い抜かれようとも勝ったんだ。キングの戦闘中にもあった、この黄金の光に守られてな」
「あぁ……その光は確かにあった。守ると言うよりかは退ける、に近かった気がしたが」
「私の知り合いがかつて提唱した【絶対守護領域】だ。究極の精神の守り、概念に干渉する唯一の能力が」
「なん……」
概念に干渉する?そんな、無法にも程がある。
「双方の動画とも短時間で霧散している所を見ると長時間維持し続けるのは無理なのだろう。対策としては一度展開させた後に制限時間まで耐え、消えた所で反撃だろう」
マスターが淡々と対策を出していき、それを聞いて【零落】は頷いている。
「でも ほんにん つよい よ?」
「あぁ。何か案はあるか?ムニ」
「はやくて かたくて つかまえ られない から」
「ふむ」
「あすとらいあ つかいたい」
「アストライアか」
聞き慣れない単語に余は聞き返す。
「アストライアとは?」
「ギリシャの正義の女神だ。天秤と短剣を持つ審判の……」
「語源の方ではなく」
「……あぁ、すまない。私が開発した強化外骨格の事だ」
「ほぉ」
「雨宮翔と違い今日まで確認されている炉心系能力者は体が持たないことが多い。ムニも例外ではない。アストライアは炉心の性能を十全に引き出しつつ、本人の負担を軽減するように設計したが、今はない」
視線を落としタブレットを置く。
「星落としの際に破損、修復できる場所もなければ気も無かった」
「では、場所と理由があれば?」
「明日の朝にでも直せるだろう」
「手配しよう。万全の状態にするがよい」
「……そうさせてもらおう、王様」
少なくとも彼ら彼女らには勝ち筋はあると認識しているらしい。ならば、流星はどうにか……
「なるほど、流星は極端に強いのか。能力も戦い方も向かってくる敵を無力化することに特化している。搦め手に対しても対応できると」
余が声をした方を振り向くと、車椅子に乗り、人工呼吸器を付けたモルが瞬間移動で入ってきた。
「お連れしました」
「ありがとう」
首にコルセットを付けているヘルマがモルを連れてきてくれた。
余はかつての童心に戻って話し始める。
「七対一で制圧しかけた怪物だよ」
見ている事しかできなかったヘルマ達の戦闘を思い出す。
考えたくはないが、雨宮翔の基礎的な戦闘能力は異能込みならば父親の雨宮雷蔵を既に越えている。
「……彼を連れてきた奴は分かってる」
「え?」
「搦め手に強く抑止力だが制圧力に欠けるルークこと幻影と、制圧力があり不足の事態も対応出来るが現地のことをよく知らずまたカリスマもない雨宮翔こと流星はお互いを補い合い弱点を帳消しに出来る」
足りないところを補い合える、か。
「なるほど、だからシックスか」
「お初にお目にかかるよ、零落のマスター。あなたのお陰で今日まで生きてこれた。ありがとう」
「礼には及ばない。感謝するのなら話を持ち掛けた王様に」
「あんがとう、レイ」
「は、話進まないから!」
ぼ……余は折れた腰を元に戻しつつ元の話に軌道修正する。
「作戦の骨は分断作戦が主になる。ルークと雨宮翔を分断し各個撃破する。問題はどう引き離すかだ」
「では、このヘルマが」
「ダメだ。雨宮翔もルークも認知している上に不意討ちですら警戒してくるだろう」
特に雨宮翔の警戒能力は高い。相当後ろから尾行していた余に気付くのだから。今ですらどう攻め込まれるかシミュレートしているかもしれない。
「一度スイッチが入ったあれに二度目はない」
初見殺しをいなし、二度目は完全に対処する。これを異能ではなく技能として獲得している。
思考力の速度と土台が違う。同じ策はおろか似通った策すら効くかどうか怪しい。
「個人的には遠方から攻撃し、即座に対応できる雨宮が追いかけ、残った奴らを精鋭で叩く、これが確実だと思うが?」
「可能か?」
「だい じょう ぶい」
「……この子なら百キロからの狙撃が可能だ。無論見せる以上、星落としは使えない」
零落の本領を囮で使うのか。
「他に倒す算段はあるのか?」
「ある」
「分かった。任せよう」
真っ直ぐと余を見る自信満々な瞳に全てを賭けよう。
「では、ルークだが……」
「……」
「……」
「……まぁ、策なんて無いわなぁ」
「前提として自身を中心とした超広範囲の改変能力を凌ぐ術がない。本人の心情で人体を直接弄らないとはいえ、だ」
この場にいる面子で拮抗できるのは余だけ。誰に任せても基本的にすぐ負ける。
複数人や不意討ちならどうにかなるかもしれないが……。
「それなんだけども」
ふと、モルが手を上げて意見する。
「いくつか先手は打っておいた。後はそこそこの距離から攻撃できる手段を持つ異能者を三人ぐらい用意してくれれば、上手く行けば彼を殺せるが……」
「……本当に?」
「復活も込みで三回は無力化できる」
「狙撃銃やアサルトライフルではダメか?」
「火力が足りない、バレた後の継戦能力の方が重要だから」
頼もしい宣言であると共に、どうして事前に何かをする余裕があったのだろうかと、そう思った。
「モル……いつからその、仕込んでいたんだ?」
「……強いて言うなら……あの悲劇の後すぐから」
「ずっと?」
「ばら蒔いただけ。どのみち能力を十全に発揮するには時間がかかる」
つまりは、いつでも反撃できる準備はしていたのか。
「これでシックスの戦いは終わる。表沙汰にすれば確実に対策を取られるからね。だから、この一回で確実に傷痕を残す。いいね?」
「……分かった。用意する」
「ありがとう」
はてさてと、準備は全て終わった。後は明日の朝に実行するのみ。
「皆、健闘を祈る」
例え敗れるのだとしても残るものがある戦いであると信じて。




