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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第三部 揺蕩う心

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幻と心と、星と

 日が沈み、空は暗闇に包まれる。

 トタン屋根の家屋から外に出て僕は空を見上げていた。暗闇に浮かぶ小さな光を見るために。

 星空を見上げるとゆっくりと動く小さな光の群れがある。人工衛星、あるいは、宇宙実験居住区。

 スペースコロニーの問題点として重力をどう再現するか、というのがある。今は筒状にして回転させることで遠心力を重力の代わりにしているが、少し前に画期的な技術が開発された。

 異能である重力操作を参考に作られた重力発生装置、それが搭載されたコロニーも建造中。姫がそう言っていた。

 人類は地上から離れ宇宙に向かって文明を開拓していく。それが人の業、人の性、人の夢。人の帰路……。

 誰がそんなことを言ったのか忘れたけれど……

 初めから知っていたのかもしれないけれど……

 それが、人類総意の願いだった。

「……難しい顔してる」

「ん?」

 真後ろから声が聞こえて振り向くとフランが立っていた。

「……空に何があるの?」

 彼女が隣に立って同じ空を見上げる。

「んー、星、かなぁ」

「見れば分かるそんなの」

 街明かりが憎たらしい。山の中ならもっと綺麗に見えるのに。

「……どうしたの?」

 僕は星空からフランに目を向けて、視線を合わせて話しかけた。

 彼女は不服そうに少し俯いて、視線を合わせずに話し出す。

「……どうして……あの王様を敵として見てないの?」

 それは少女の疑問だった。

「あの時、たくさんの人が悲鳴を上げてた。この場所からでも声や音が聞こえなくなる人が居た……」

「うん……」

「誰よりも悪い人なのに、貴方の心は怒りの音よりも同情の音の方が大きかった」

「……そう……だね」

 同情……あぁそっか。僕はレイに対して同情してたのか。でもそれは彼の過去を聞いたから。

「同情しちゃダメだよ、ヒーロー。あの王様は沢山の人を殺したんだから」

「手厳しいね、フランは」

 ……何を考えても彼女は読み取る。なら、隠すことも取り繕うこともない。彼女がどう思うかは分からないけど、隠し事をしている、という感覚は不信感を抱かせるには十分な筈だから。

「僕はね、本当は悪い化け物なんだ」

 彼女は目を見開き驚いた表情で僕を見る。

「え?」

「本当は英雄が最初に殺さないといけない怪物で、その在り方は未来永劫変わらない」

 そう、僕は……

「……きっかけさえあれば人を沢山殺してたかもしれない」

「そんな筈無いッ!だって……貴方は……フランを……助けてくれた。お兄ちゃんを止めてくれたから……」

「フラン……」

 僕は真っ直ぐ彼女を見て、真正面を向いて落ち着ける。

「僕はどうしようもない悪い怪物だけど、ただ悪い事をする前に善い人達に育てて貰ったから、そんな人達になりたくて頑張ってる」

 とても困惑している彼女はそれでも僕を真っ直ぐ見てくれる。

「人は善人になれるし、悪人になってしまう事もある。それはレイも僕も同じ、何かきっかけがあれば悪いことをしなくて済んだかもしれない。そこに、無辜の人々と僕達に差はないんだと思ってる」

「……本当はわるい人じゃない?」

「ううん、結果的に悪い人になってしまったんだ」

 見てきたから分かる、悪意を孕んだ邪悪を。

「悪意で人を害する存在は有無を言わず悪人だ。でも、レイからは悪意を感じなかった。人を人とも思ってない彼が、悪意以外の何かで人を害していた。僕には使命に突き動かされていたように見えたんだ」

「使命……」

「うん。だからね悪いことをしたから無下にするっていうのは、僕はしたくないんだ」

「……わるい人も助けるの?」

「助けを求めてるのなら」

 それが、父さんという英雄を目指したきっかけ。誰からも理解されない星を目指す旅路の始まり。

 天幕の外を夢見た流星の行く末だ。

「……本当の音だ」

「うん」

 彼女はうつむいたまま自分の胸に手を当てていた。

 縦に残る手術痕、彼女は心臓移植を受けている。

「……お兄ちゃんも、そうだったの?」

「ん?」

「お兄ちゃんも、ずっと羽音がしてて、声が聞こえなかった。お兄ちゃんも悪い化け物で、でも、いい人になろうとしたのかな?」

「……僕はノエルの人となりを知らないから分からないけど、でも、フランはどう思った?」

「ヒーローだよ。ずっと、フランの事を守ってくれたから」

「なら、フランのヒーローだった事は変わらない。人の心は人生が形作る。例え生れつきどうしようもない悪人でも、生涯悪事を働かず、善行を重ねたのなら、その人は善人だ」

「……でも、いいことって、人によって違うよね?」

 ……それはそう。と、僕は小さく笑って答えた。

 でも僕達は知っている。絶対に変わらない善行に出会っている。

「お腹が空いている人に食べ物を与えること、例え自分がひもじくても。それは僕達が一番最初に出会うヒーローの信念だから」

「そうなの?」

「うん」

 善悪の基準は人それぞれだけど一つだけ確かなことが言える。

「困ってる人がありがとうと言ってくれたのなら、それは善行だよ」

 いつか、僕は現実と対峙しなければならない。理想とは真逆の英雄だった父さんと……。

 ただそれは少し先の話し、ここでする話しじゃない。

「納得してくれた?」

「……少し」

「そっか」

 少しでも彼女の中に言葉が残ったのなら何か意味が産まれる筈だ。

「少し寒くなってきたね。中入る?」

 彼女は首を横に振って空を見上げた。

「一緒に星を見よう」

 満点の星空を見上げていた。僕も、彼女も。




「懐いてんね~」

『懐いてるね~』

 自分は中で食器洗いを行っていた。彼はまだ傷がしっかり癒えていないから手伝いをさせるわけにはいかない。

 二人は外で星を見上げているカケルとフランちゃんを見ていた。

「手料理気に入ってくれたかな?」

『肉肉しいあの料理は見ているだけで胃もたれしそうでしたけどねッ!』

「うっさい!そのドローンのバッテリー抜くぞ!」

「また喧嘩ぁ?」

 仲が良いのか悪いのか、意見や価値観は合うのにいがみ合う。同族嫌悪かなぁ。

『カケルが甘いもの用意してなきゃ確実に不満だったぞう!あの顔は!』

「ぐぬぬ」

 珍しくエイヴァが圧されている。

「はい喧嘩終わり。いがみ合ってるとまた嫌われるぞ二人とも」

「『一番嫌われてるのお前だぞ』」

「知ってる」

 フランちゃんとは一度も話したこと無い気がする。

「人の心が聞こえる彼女にとって自分は聞こえてくる声と実際の言葉が全て嘘っぽく聞こえてる筈、正直気持ち悪いだろうね」

「どう?」

『そんなことはないけど』

 嘘を吐いているつもりはない。ただ嘘っぽく聞こえる。心の声と一緒に聞けばの話だけど。

「だぁー。ほら、シャワー浴びてきて。後がつっかえるから」

「はぁ」

 自分は皿洗いを終えてアンティークのコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。

「……それで?何でいきなりご飯作るなんて言い出したんだ?」

 今日、いきなり手料理を振る舞うと言って食材を買ってきた二人の言い出しっぺっぽい方を問い詰める。

『んだよ。悪いかぁ?』

「悪くはないけどさぁ。手伝いぐらいするよ?」

『純粋に落ち込んでると思ったんだ。ルークがさ』

「……なんでぇ」

『レイに負けて』

「そりゃぁ、あれだけ被害が出れば落ち込む」

『嘘』

「嘘じゃないよ」

『じゃあ言ってないことあるだろ』

「…………………………あるけど」

『何?姫の事信用できない?黙っててあげるから喋りなぁ』

「………………まぁ、カンナギが連れてきたんだからそうだろうなぁって思っていたけど……」

 自分は淹れたコーヒーを一口含み、外で星を指差している二人を見ながら飲み込んだ。

「……本物のヒーローは違うね。王を真正面から倒してしまうなんて」

『ルーク……』

「些細なことで良かったのに……迷子の手を引く程度の小さな行いでも」

 誰でも出来る小さな善行が積もり重なり、いつか世界を変える。そう、信じてる。

 でもその道のりは遠い。皆が皆、他人を気にかける暇がない。

 世界には精神的な余裕がない。

「……そういえば、カケルとテセウスの船の話をしたんだけど、彼は全部変わっても同じものだと言ってたよ」

『へぇ』

「きっと変わらないものがある。らしい」

『……』

 その考え方事態は好きだ。でも、人からは大きく外れて……

『結構普通だね』

「へ?」

 自分は間の抜けたような返事をしてしまった。

「普通?」

『普通だろ?どれ程変わってしても変わらないものがあるって、ロマンチックでキザだけど普通の事だろ?』

 いやでも、全てのパーツは違うもので……。

『それってつまり、人の心を愛してるって事じゃない?』

 ……

 …………

 ………………

 人の…………心?

「……あぁ、そっか」

『ん?ルーク?』

 人の全てが置き換わったとして、心はそれに耐えられない。心は不定形、定まった形はない。

 自分には再現できないものだ。

「ずっと、心を……自分は……」

 やっと理解できた。自分に足りないもの、失ってしまったもの或いは、無かったもの。

「……姫」

『んあ?』

「ありがとう」

『~~~~~~~~~ッッッッッッッッッ!?!?!!!?!??!???!』

 言葉になら無い悲鳴を上げてドローンは墜落した。

「姫?姫ぇ?」

 重いだけのドローンを自分は抱え、エイヴァが帰ってくるまでその体勢を維持していた。

「おッも!ちょっ、誰かヘルプ!」

 でも誰も来ない。

「誰かぁ!」

 悲鳴むなしく、キッツい体勢を解いてドローンが動き出したのはネットワークを復帰させてからだった。

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