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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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刃と鋼鉄と信号2

 加速する。加速する。加速する。思考が加速する。残念ながらこの速さに肉体は追いつかない。しかし、この四肢は違う。幼少期の時に失われた手足は機械へと変わり、唯一加速した思考についてくる。

 結果、人の目では追いつけない速度で刃を振るう怪物となった。

 思考の加速は義肢のラグを無くすために脳へ埋め込んだインプラントチップによって起きている副作用のようなもの。今出来ている挙動はむしろバグだ。

 それでも利用できるものはすべて使う。お前が……あの子に害をなすというのならば。




 追いつけない。これが【加速】という名を付けられた人工の異能。

 人の速さじゃない!超人(おれ)ですら間に合わないぞ!

 全身の切り傷が押し負けている事を証明する。

 これが、最強。

 楽しい!

『止まれ!超人!』

 耳に届いたのはボマーの声だ。

「なん……」

『志波がやられた!』

 志波が……やられた?

「誰に!」

『翔!雨宮翔だ!』

 束の間、攻撃が止む。

「仲間がやられて狼狽えるとは、君の方が人の血が通っているね」

 今までとは別種の感情が渦巻く。これは、焦りだ。

「あ、あいつは強い。そんらそこらの無能に負ける訳ないだろう!」

「だから言っただろう。息子の心配などしていないと」

 信頼故の、冷酷さ。こいつは最初から俺達の仲間が負けると確信して動いていたんだ。

 俺はどう動くべきだ?俺達が受け持った任務は二つ。御神体の回収と、こいつの行動不能化。雷蔵の足止めは俺以外任せられない。

 最優先は…………御神体の回収だ。

 ここは逃げの一手。

「すまん、志波。お前を助ける」

 しゃがみ、俺は高く跳ぼうと準備する。

「させない」

 最強の切っ先が迫る。だが、上から降り注いだゴムボールが足を止めさせた。

『着火』

 ゴムボールはボマーが愛用する簡易爆弾。即ち、即席閃光爆弾。

 辺りを包んだ閃光は最強の目を数秒潰し……ていない!迷いなく俺を切り殺そうと突っ込んでくる。だが、少しでも足を止めさせたことが幸いして俺は斬撃が届くよりも早くビルの屋上に跳んで逃げられた。

「志波は!」

「あっちの駅前!」

 跳んだ先に二人が居た。

「急ぐぞ」

「うおッ」

「あら」

 二人を抱え俺は高層ビルの屋上を飛ぶ。だが遠方、確かに何かが光り輝いて、気付いた時には弾丸が目の前まで飛んできた。人を二人も抱えたまま俺の頭部に直撃する。生憎、俺の骨と皮膚は弾丸如きでは傷付かない。弾かれた弾丸は近くの給水塔に風穴を開け水をチョロチョロと垂れ流していた。

「スナイパーか」

 だが直撃した衝撃は脳を揺らし意識を薄くする。

「クッソ……」

 ビルの屋上、片膝を付いて止まってしまう。

 行かなければ、アイツの頭脳は俺達に必要だ。気が優しくて良いやつなんだ、アイツは。だから、一人にしたままに出来るか!

『……超人……』

「ッ!?志波か!?大丈夫かお前?」

 志波からの通信が入ってくる。通信できているという事は逃げたという事だろうか?

『隙を見て建物ごと拘束を解いたんだけど、ごめん、またすぐ捕まりそう』

 遠くで建物一つが浮き、広範囲に糸を張り巡らせている誰かが視界に映った。

「待ってろ、すぐに助けに」

『良い。それより先に、やるべきことを伝える。まず潰すべきは雨宮翔。こいつが想像以上の曲者、だ』

「無能力だろそいつ!」

『……本当に、無能力ならね』

 音声の向こうで誰かの叫び声が聞こえる。その声がおそらく雨宮翔だ。

「ヒーロー……」

 ボマーが震える声で奴の事をヒーローと口にした。

『早めにこいつを潰せ!早くしないと……雨宮雷蔵以上の怪物になるッ!』

 轟音、建物が落ち、砂埃を上げる。なのに叫び声は無い。落ちる位置と角度を糸で調整し、死傷者が出ないようにしたんだ。

『今は逃げて態勢を──』

 酷いノイズと共に、通信は破壊音がして切れた。

「志波!おいッ!」

 最強以上の脅威なんて考えもしなかった。

 遥か遠く、崩れた建物の上、俺の視力で確認できる人影があった。英雄の面影、さっき体験した恐怖の象徴に重なる怪物の姿が確かに俺を睨んだ。

「……クソッ!逃げるぞ!」

 正直我欲を優先したかった。だが、俺は、志波の要望を優先する。あいつには恩があるから。

 再び飛んでくる弾丸を投げ返し、狙撃銃を破壊し、もう一度二人を抱えて逃げる。

 やるべきことを、やり果たすために。




 少しして、僕の元へ父さんたちがやってきた。

 父さんは夜通し異能を使っていたため義肢のメンテナンスと脳を休む事も兼ねて十時間の休憩、父さんの部下たちが【念力場】の回収に当たった。

「……末恐ろしいな」

 そう呟いて現場の後始末と確保に動いた。

 バラバラになった瓦礫を糸で繋いで複数の糸で宙に吊った拘束の重りとし、その上で能力の範囲外である心臓から十メートル以内には何も置かない。地面にも接地させない。

 誰一人の被害者を出さず、僕は一人の異能者を完全無力化した。

 それが、父さんにとってどれほどして欲しくない事なのか、その真意を知るのはもっと後の事になる。

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