表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第三部 揺蕩う心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/145

5th Battle【絶対的支配権】

 刹那、五重の障壁が押し出されるように発射される。原理は違うけどガウス加速器に似ていた。

 後には人がいる。避けずに受け止めるしかなかった。

 翼で障壁を受け止める。

 ぶつかった瞬間、まるで濁流のような衝撃が駆け抜けた。

「おっも……」

 全身の力を振り絞り攻撃を上に反らした。

 明らかに複数の異能を行使して、しかもその一つ一つに関連性はない。

 レイは複数の異能を保有している。

 外的要因か内的要因かは分からないが、だとしたらカンナギに似た戦い方をするかもしれない。

「……ッ!」

 地面に手を付き、翼を広げる。人が多い場所じゃ戦いづらい。

 僕は噴流を生み出し推力を以てレイに接近する。

「【身体強化】」

 突き出した拳が、鳩尾を狙った膝蹴りが、頭を狙った踵蹴りが、全て受け止められる。

「ふむ」

 冷静に、レイは僕を品定めしている。

「つくづく分からぬ。何故気を使う?」

 僕は腰に取り付けられたリールを回してワイヤーを射出し腕を絡み取る。

「むっ」

「使うとも。誰が進んで人を殺すか!」

 巻き取り引き寄せ、胴にしがみつく。

「何を!」

 僕はレイを掴んだまま翼を広げて上空に飛び出す。

「【硬質化】」

 レイの体が鋼鉄のような硬さになった。多分、僕がこのまま地面に落とすと考えたから。だけどそうはしない。

 音速を超えて雲を晴らしながら何もない上空に飛び出す。

「なるほど、自らが最も得意とする場所で……」

 僕は上空でレイを放り出し、自分は遥か彼方の空へと羽ばたく。十分な助走距離を取るために。

「【浮遊歩行】」

 レイは空中を漂い制止する。

「……良いだろう、貴様の誇り、撃ち抜いてくれる!」

 頭部に白銀の冠を出現させ輝く。

「集光、性質変化、形状変化、光子結合……【熱線射出機構(レーザーボウ)】」

 それは光の弓、空を翔る星よりも瞬く輝き、狙いを定めた弓は迫り来る脅威に照準を合わせる。

 放たれた光の矢は音を遥かに超え、瞬時に到達する。

 金属加工における代表的な方法の一つ、レーザー加工。人体に当たれば瞬時に黒焦げになる危険な代物。

 全身を翼の鋼で包んだところで高熱で溶かされて貫通する。でも、時間は稼げる!

 前方に展開した翼を形成する金属の盾を一秒足らずで貫通された刹那、体をねじって回転し回避する。

 空気を押し退け、轟音を置き去りにし、大量の噴流を吐き出し絶大な推力で対象に衝突する。

 これでもカインを打ち倒した時よりも威力は大きく落ちている。それでも、この一撃は致命傷になる。

 ……そう、僕は異能を使用した戦闘においてこの攻撃手段は常に成功してきた。成功してしまっていた。

 経験が浅い異能を用いた戦闘、故に、自身の弱点に今まで気付いていなかった。

「【瞬間移動】」

 レイが一瞬にして消え、僕の攻撃は空振りした。

「なん……ッ!」

「超人は真っ正面から受け止めてくれるだろう。力で捩じ伏せてこその強さだと思っているゆえな」

 僕の背後百メートルに現れたレイは再び光の矢をつがえる。

「長い溜めと、愚直な動き。本来の貴様なら相手の動きを止めてから使っていただろうに」

 放たれた矢を防ぐため翼の全てを防御に回し球体となる。が、斜め下に向かって飛んでいた為、地面に向かって音速で落ちていく。

 ぶつかれば街を破壊してしまう。

 頭に響く蝉の音を振り払って全霊を以て噴流を吐いて減速する。

 瞬間、守りを貫通して矢が頬スレスレを飛び、建物の貯水槽らしきものに矢がぶつかり爆発を起こした。

 僕はそのまま建物の屋上に不時着するように転がり落ちる。

「ハァ……ハァ……」

 ……過信した。僕を、僕の、この異能を……。

 空を飛ぶという全能感、今まで以上の事が出来るという高揚感、つまり、慢心。

「間違ってはおらぬ。異能を開花させたものならば誰もが通る道、いや、人ならば誰もが、だ」

 ……。

 レイは空中を階段を下るように此方に歩いてきていた。

「安心したぞ。貴様も、等身大の人なのだな」

「……クソッ」

 この力なら、この速度なら、あの人の背中に、父さんに、追い付けるって思ったのに。

「……辛かろう、苦しかろう、楽になればよい。凡人が大層な力を持っただけの話、全てかなぐり捨てて普通の人として生きろ」

「………………」

「余が、その道を照らしてやろう」

 心が軽くなる言葉、縋りたくなるような声、手を取りたくなるような気品、その全てが自然と揃っていた。

 まるで、王のように振る舞うその存在は僕に手を差し伸べた。

 あぁ……そうか、そういう……

「異能か……」

「……見破るか」

 僕が最初の言葉の命令を破れたのは対処法を知ってたから。だから、今度はじっくりと心を蝕むように、弱みや弱気に漬け込むように、文字通り言葉巧みに僕の心を掌握してきたんだ。

「こちらに来い、雨宮翔。息苦しいだろう、人の世界は」

「息苦しかろうと僕は飛べる。誰の背中を追いかけてきたと思ってるんだ」

 僕は手足に全霊を込めて立ち上がる。

「人の世界は醜いぞ」

「重々承知してるよ」

「貴様も……いつか飼い殺されるぞ」

「飼い慣らせるほど大人しくないし」

 戦いの才能がないのに父親の背中を追いかけて、人を助けられる才能がないのに手を差し伸べて、その果てで一人の女性を救えて、救ってもらった。

「ならば、何のために戦う?等身大の人間でありながら」

「……」

「部外者なのだろう、貴様は。この国に息づき、根付いた文化の外の人間なのだろう」

 それはそう。でも……

「それが、お前が犠牲にしようとした人達を助けない理由になるの?」

「……」

「……」

 再び光の矢をつがえ、僕に向ける。

「偽物の英雄だと思っていたが、そこまで昇華させたのならば本物だな」

「僕は英雄じゃないよ」

「どの口が」

「この口が」

 矢が放たれる刹那、僕は射線上から消える。いつもと変わらず、銃弾を避けるように。相手が卓越した射撃のプロでも無い限り破られることはないこの回避方法は父さんから教えてもらった技術の一つ。

 放たれた矢はビルを貫通し一階の床に当たって消えた。

 僕は飛行から加速に能力の使用方法を変えて機動力で勝負をかける。

「異能が通用しないと判断し持ち前の技術で戦う、か」

 フィジカルで敵わないからこそスキルを磨き、スキルを十全に発揮するためにメンタルを鍛える。三位一体はそうした考えから来た教訓。

「むッ!」

 縦横無尽に、一切速度を落とさずワイヤーで方向転換しながら奴の視線の外に出る。死角からの攻撃こそこの場における正解でもある。

 背後を取り、加速して蹴りを見舞う。だが、僅かな光と共に障壁が展開される。

「なんッ!?」

 確かに背後を取った。なのに反応された。

 が、レイは焦った表情をして振り向く。

「……」

 焦ってる?反応できた事に?違う……別の……。

「自動反射?気配探査?まさか!」

 合わせ技……なんって悪質なッ!

「見破られたか」

 笑いながらそう言われた。

 自動反射(オートマチック)、身体強化の一つ。文字通り超常と見紛う反射神経。

 気配探査(ピングセンサー)、体から微弱な電気を発して近寄ってきたものの気配を察知する異能。一応は電気系に属している。

 この二つを併用し常に全方位からの攻撃に備えている。加えて全然破れない溶けた鉄みたいな模様の障壁、事実上の絶対防御と言っても過言ではない。

 弱気になるな。僕の武器を思い出せ!

 技術じゃない、身体能力じゃない、異能でもない、全ては今まで学習してきた知識だ。

 全方位攻撃察知、なら、こうしてやれば良い!

 僕は障壁に弾かれると近くのビルの室内に入る。

「失礼します!」

 まだ何人か人がいる。ぶつからないように回避しながら反対側の窓から飛び出す。

「建物の中でも察知するのか」

 ずっとこっちを見ている。多分、二度と背後を取らせる気がないからだ。

 分かってる。それで良い。僕の方を見ていろ。

 僕は建物の間と間を縫うように飛び続ける。ワイヤーで方向転換し、時にはUターンし、ビルに突っ込んで飛び出してを繰り返す。

「なるほど、ワイヤーの……クモの巣」

 瞬間移動がある以上広範囲にワイヤーを展開しなければならない。良い装備を持ってきたのにもう底が尽きそうだ。

 それでも、お前を倒せるのなら。

 僕はワイヤーの一本を掴み弓の弦のようにしならせる。

「忘れたか。余にはこれがあると」

 光の弓を、矢をつがえまた僕に照準を合わせる。

「空中でさっきのように避けられるとでも!」

 なら、当たりに行かなければ良いだけ。

 僕はレイに直接当たりに行かず斜めに飛んで別のワイヤーを掴む。

 噴流による加速とワイヤーの機動力、至近距離を加速しながら飛び回る。

「なん……これでは」

 照準は合わせられない。さっきから当てやすい的にだけ撃ってる、射撃や遠距離攻撃が素人のお前には。

 僕は複数のワイヤーが重なった場所に飛び、溜め込んだエネルギーとワイヤーのしなり、放たれる刹那に二つを合わせてレイ目掛けて飛ぼうとする。

 向こうは体より先に目が反応していた。

「……お前を……」

 ……障壁には、限界がある。際限がない雫の障壁でも時間という一応の限界はあるし。

 もし仮に障壁の展開だけは手動だった場合、その出力を誤る可能性はある。例えば、その都度適切なリソースで障壁を展開しているわけではない、とか。

「発射……」

 ワイヤーで固定していたガラスの破片が一斉に射出される。留め具は僕の翼の金属。

 切り離されても液体化と固体化の操作だけは出来る。その機能を使ってレイを囲むように全方位からガラス片を撃ち出した。

 速度はボウガン程度、障壁を展開できるなら脅威じゃない。でも、展開した障壁は大きさや厚さが疎らで均等に展開できていなかった。

「ビンゴ」

 障壁を即座に張り直せない。もし出来るならもうしてる。

 僕はワイヤーを蹴って溜め込んだエネルギーを吐いて突っ込む。

 刹那、瞬間移動する。僕の背後に。

 光の矢をつがえ、さっきと同じように放つ。

 ………………想定内。

 僕は事前に張っておいたワイヤーを掴み後方へ向かって残っていたエネルギー全てを吐いて一気に飛ぶ。

「何ッ!?」

 放たれた矢はもう一度体を捩ってバレルロールを行いながら回避する。

 障壁は張り直せていない。

 さっきよりも薄く小さい障壁を展開し、僕の足底を敵に向けた蹴りは守りを容易く踏み砕く。

 胸部の僅か下、鳩尾に入った蹴りは確かに内臓を潰した。

 僕は空中で回転しながらレイを地面に向かって蹴り投げる。

 アスファルトの道路に衝突し、地面に亀裂が入った。

「ハァッ……ハァッ……」

 ……肩が痛い。外れてはないけど靭帯にかなりの負荷をかけたかも。

「これで……」

 僕は地上に降り立つと警戒しながらレイに向かって歩き出す。

 翼の金属で刃物を作って向ける。

「……ゴプッ」

 血を吐いているようだった。

「大人しく捕まってくれるなら治療する。もしまだ反抗するなら……」

「甘いな……」

「……」

「殺しておけば、被害は出んぞ」

「……人殺しは、思ってるよりメンタルキツいんだよ」

「それは……そうだな」

 あと十歩の距離だろうか、それ程近付いた時、レイの王冠が輝きだした。

 僕は止めを刺すよりも、何か起きた場合の守りを考えて行動が遅れた。

「【献上せよ】」

 瞬間、レイの体が再生し始めた。

「【余に遣える者共よ】」

 しまった、と思ったときには遅かった。

 見えない力で直立したまま体を起こし、こちらに指を向けられる。

「【止まれ】」

 体が動かなくなった。けど一秒あれば……その一秒が命取りだった。

 空は晴れ上空に巨大な王冠が形成され、発光するそれは目映い光を降り注がせる。

「異能には発現、覚醒の次に別の段階がある。人はそれを成長、あるいは深化と呼ぶそうな」

 体が動いて走り出す。距離にして十歩、僕の能力なら二秒とかからない。

 それでも……

「余の力は深化しておる」

 刃物を構え踏み込んだ刹那、向けられた指先が輝く。

「100万を超える異能を支配下に置く、これこそが余の真骨頂」

 瞬間、僕の推進力を真っ正面から跳ね返す強い力があった。


「【絶対的支配権(キングスオーダー)】」


 僕はその強い力に弾かれると同時に、周囲に建ち並ぶ建物が粉砕されていく。

 アスファルトの地面は捲れ、ガラスは破れ、コンクリートは粉々に砕け、鉄骨は折れ曲がり吹き飛ばされた。

「余の異能、その全力を出させたのは……個人であれば貴様が初めてだ」

 頭を瓦礫で強く打ち、朦朧とする意識の中で僕は目の当たりにする。

 多くの笑顔があったあの街が、多くの幸福が行き交い合ったあの都市が、1000メートルに渡って更地に変わったのを。

「あ……あぁ……」

 都市はどうでも良い。でもそこに住まう人々の笑顔は僕にとって目映いもの。それが、跡形もなく……。

「なん……でぇ……」

 ぶつかったビルが根本から崩れ、落ちてくる。

 僕は瓦礫の下敷きになって、そのまま意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ