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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第三部 揺蕩う心

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激務、英雄のお仕事

 深夜一時、車の墓場のような場所にある廃屋のようなトタン屋根の整備屋に帰ってきた。外壁は錆び快適そうには見えない外見とは裏腹に、屋内はかなり手が行き届いており、そこらの家よりも良い生活ができそうだった。

 僕は風呂にも入らずベッドに頭からダイブする。

「………………疲れた」

 こんな夜中まで騒ぎを起こすなよ。

「お疲れ。御飯食べる?」

「…………食べます。胃になんか入れないと明日動けそうに無いので」

 ここは【幻影】の事務所。機械いじりが趣味らしくここに居を構えているそう。

「はい、ハンバーガー」

「本場のやつでっかぁ」

 紙に包まれたハンバーガーはどう見ても日本のより大きかった。紙包みを開いてハンバーガーにかぶり付く。

 ガツンと来る肉の旨味と歯応えのある食感、レタスの風味とトマトとチーズの酸味、後に引くバンズの香りがより食欲を誘う。

 とても食べ応えのあるハンバーガーだ。

「ん、美味しい」

「手作りだもの」

「お店開けるんじゃ……」

「開いてるよ。結構人気」

 あまりに驚きすぎて手と口が止まって、口元を押さえながら口を開く。

「副業ですか?」

「本業。というかヒーローとかほぼボランティアだし」

「稼げてるカンナギが例外なのか……」

 天之川の設立もそうだけどやり手だな本当に。今の状況を考えれば未来視で事前に大金が必要だと分かってたからだろうけど。

「元々食べるのが趣味だったし、この異能のせいで人より食べないと死んじゃうし、だったら美味しいものをって」

 僅かに俯く顔に落胆が見えた。

「……良いことだと思います。僕は」

『えー、姫も食べたいなぁ』

「店に来たら食べさせてやるよ」

 家の奥から反重力装置を搭載した人の上半身程あるドローンが出てきた。

『姫はまた携帯保存食だよ。これ味無いんだよぉ?』

「だったら味気あるもんくれって言えば?」

『言ってくれるような人達じゃないんですー!資源は限られてるから……この栄養だけは完璧な食料しかなくて……』

「かわいそ」

『だから姫もハンバーガーたべたぁいぃ!』

 結構切実な願いだった。食事は人間が生きる上で比較的簡単に得られる娯楽の一つ。それが手に入らないとなればストレスはとてつもない速度で溜まっていく。

 姫の置かれている状況は想像以上に過酷なのかもしれない。

 そんなお姫様を横目に僕はハンバーガーにかぶり付く。めっちゃおいしい。

 と、食べ終えた辺りで電話が入ってきた。

「ん、雫から」

 僕は立ち上がって誰もいない部屋に移動する。

「ちょっと失礼しまーす」

 電話に出ると元気一杯な声が聞こえてきた。

『もしもーし、聞こえてる?』

「聞こえてるよ」

 雫の後ろからは立花博士とサロメさんの話し声が聞こえる。天之川の事務所かな?

「ごめんね、いきなり留守にして。博士に変な事されてない?採血とか」

『今のところは大丈夫。サロメさんが守ってくれてる』

「娘の言うことは流石に聞くか、あの人も」

 本当に、ひねくれた親子だよ。捨てたくせに愛情は人一倍持っている親と、嫌いで、憎んですらいる母の功績と足跡を追いかける娘。歪で、それでも成り立っている親子の絆だ。

『そっちはどう?アメリカはカルフォルニア?だっけ?』

「うん。当たり前だけど雰囲気も街並みも日本とは違う。オンリーワンだよ、この国は」

 僕は腰に手を当てて深呼吸をする。錆の匂いが鼻の奥を突いた。

「仕事はまだかかりそうだけど、春休みが明けるまでには終わらせる。その時は埋め合わせ、させてね」

『わかった、楽しみにしとく』

 微かに笑う声が聞こえ、弾んだ声が発せられる。

『翔の声聞けて良かった』

「寂しかった?」

『うん、寂しい。凄く』

 ほんの少し落胆した声が胸を締め付ける。

「……出来るだけ早く帰るよ」

『焦ったら失敗しちゃうのが翔でしょ。だから焦らなくて良いよ。でも、ちゃんと帰ってきてね』

「……もちろん」

 その言葉が何よりも励みになる。僕にとって帰る場所があるってことは、生きる理由でもあるのだから。

『なら、うん、良いよ。気を付けて、埋め合わせと土産話楽しみにしておくね』

「うん。お休み」

『……?こっちまだお昼だよ』

「こっち深夜だよ」

 沈黙が訪れ、雫のハッとした声と共に破られた。

『……はァッ!ゴメン!寝てた?』

「今から」

『ゴメン!おやすみ!』

 そのまま通話が切れた。

 時差って大変だなぁ。

「……お風呂入らなきゃ」

 臭いのは雫に嫌われる。それは嫌だ。

 僕が振り返りお風呂を借りようとエイヴァに声をかけようとして、目があった。

「……ガールフレンド?」

「……」

 僕は止まりかけた呼吸をして頭をフル回転させ必死こいてはぐらかそうとして……

「どこまで行ったの?○○○(ピー)はもうした?」

 避けようがない話題をぶっ込んできた。

「すいません不適切発言は翻訳できないんで分かるけど使わないでくれます?」

「なぁんでよぉ!若い子の恋愛事情を肴にお酒飲むのが一番美味しいんだから!」

『知ってる!下世話って言うんだこういうの!』

 エイヴァがニヤケ顔で迫る。

「どういう仲?馴れ初めは?どんな子?」

『あっ、それは気になる。どんな子なの?』

「いや、あの……」

 ドローンも近付いてきた。

「写真の一枚ぐらいあるでしょうが」

『さっさとゲロっちゃいなよ、楽になれるぜぇ』

 結局、僕は彼女達の押しに負け、雫と僕のツーショット写真を見せる事になり、その後彼女の事を根掘り葉掘り質問されるはめになって、気付いた時には朝日が昇っていた。




「かけるー!遊んでー!」

 少しの仮眠の後、僕は病院に居た。もう一度力の使い方を教えてあげてほしいと言われ、何故か子供達の遊び相手になっていた。

「はいはーい、何して遊ぶ?」

「鬼ごっこ!」

「院内は走ったらいけないぞ」

「わー!」

「あっ、こら!」

 走り回る子供に一瞬で追い付き抱えあげる。

「走っちゃダメって言ったでしょ」

「でも走りたい」

「なら外で……外出て良いのかな?」

 例の女医さんの姿が見当たらない以上勝手にここから出しちゃいけない……はず。

「お外は出ちゃダメなんだって」

「なら走っちゃダメだよ」

「「「えぇー!」」」

 ぶーぶー言っても怪我したら僕に責任は取れないからね。

「けちー!」

「けちで結構」

 子供達は各々数人のグループを作って遊び始めた。

 今日はカンナギに会いに来た。昨日の朝にルークさんへナノマシン除去用ナノマシンを注射しその様子見でカンナギが会いに行っているはずだから。

 後で行くから待ってろと言われたけど、後どれだけ待っていれば良いのか……。

 ふと、辺りを見渡した。笑い声が聞こえる。笑顔が見える。幸福がそこにはあった。

「……ふふ」

 穏やかな時間だった。誰もが心に傷を負っていて、悩んでいて、苦しんでいて、それでもこれからを歩めるように。

 だから、一人だけジッとしてニュースを見ている少女が目に留まった。

「……」

 年齢は……十歳、いやそれよりも下かもしれない。それぐらい小柄だった。

 白に近い金髪、真っ白な肌、手の甲に付けられた点滴の管と病院服。顔は今いる場所からは見えなかった。

「……」

 何故、と言われたら分からないと答える。ただ、その時の僕は、彼女が寂しそうに見えてしまった。

「……こんにちは」

 僕は彼女の側に寄って目線を合わせて声をかけた。

 彼女の視線が僕に向く。雰囲気通りの幼い顔立ちと、特異な目、七色、或いは遊色の瞳を見た。

「……?」

「あ、あれ?」

 彼女は僕が言ったことが分からなかったらしい。良く見れば彼女はオーグフォンを取り付けていない。日本語で話しかけても翻訳されないから意志疎通が出来ない。

「えと、えっと、あ、アイアム、カケル。えっと、ユアネーム」

「………………ノエル」

「ノエル?」

 ……あれ?ノエルって男性名だよな?

「フランちゃん!勝手に出歩いちゃダメじゃないか!!」

 結構大きめな声で彼女の元へ女医さんが詰め寄ってきた。

「手術終わったばっかりなんだから安静にしてなきゃダメじゃないか」

 女医さんが肩を掴み真っ直ぐと見ている。

「………………ごめんなさい」

「……ここに居たい?」

 少女は頷くとまたテレビを見始める。

「……じゃあ」

 僕の方を見て何か言いたげだった。多分そういうことだ。

「僕が見ておきます。何かあったらすぐお呼びしますので」

「……いや、すぐに連れて来て。ここに」

 そう言って僕に病院のマップデータが送られ、マップに緊急時に連れてくる場所のマーカーが付けられた。

「よろしくお願いするよ」

「任されました」

 疲れ果てたように女医さんはよろよろしながらその場を後にした。

 やることはなく、僕は小さな少女、ノエル、或いはフランと一緒にニュースをぼんやりと見続けていた。

「……」

「……」

「……チェス」

「ん?」

 小さく呟いた少女は僕の方をゆっくりと向いた。

「チェス……やりたい」

 角度によって色が変わる瞳が僕を捉え、ほのかに笑っていように見えた。

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