絶えぬ意志
「どう?車動きそう?」
「無理です。ドライブシャフトが折れてますね」
「レッカー呼びましょう。請求はカンナギに」
『……それいくらの車?』
「日本円で四桁万ですね」
『えぇ……高級車ぁ……』
警察も去り、僕達はミサイルランチャーを撃ち込まれた車を応急処置しようとして、致命傷であることを確認した。
「移動どうします?僕お二人運びましょうか?」
「いや、知り合い呼んだから大丈夫。すぐ来るでしょ」
「知り合い?」
「……ええ。高飛車なお姫様」
『だぁれが高飛車かぁ!』
スピーカーから響く機械に似た酷く感情的な女性の音声。
人員輸送無人機、超大型のドローンが僕達の真上から目の前の平らな道路に着地した。
「遅い。後、なんか食べるもの用意した?」
『うッさいなぁ!用意してありますぅー!死なれても困るからね!』
喧嘩……と言うわけでもないし。
「どういう関係で?」
「『仕事仲間』」
……にしては仲が悪い。
『っと、君がカンナギの言ってた応援かな?』
「はい。雨宮翔です。よろしくお願いします」
『あいあい!よろしく!姫の事は姫って呼んでね』
僕は翻訳アプリから聞いた自己紹介を上手く理解できずに固まる。
「……誤訳?」
『誤訳じゃなぁーい!』
……あっ、そういう。
「よろしくお願いします。姫」
『お、おぉ!良いね!ンフフフフフフ。よし!君のためにエイヴァ秘蔵のお菓子をあげようじゃないか!』
「おいこら」
機械のアームが取り出した甘そうなお菓子をエイヴァが横取りする。
「年下の男の子にお姫様呼びさせて悦に浸るなんて良い趣味してんじゃないの。あとあたいのお菓子勝手にあげるな!」
『一つぐらい良いでしょ!あと悦に浸ってないから!』
……何て言うか、うん。
「死活問題だから!」
『だからって高いもの食べすぎ!』
機械のアームと揉み合って喧嘩してる……仲がよろしいようで……。
「行きましょうか運転手さん」
「行きましょう」
巨大ドローンに乗ってここから少し離れた場所にある病院に向かっていく。
「ああいうのは良くあるんですか?」
僕はさっきの改造人間による強襲が頻繁に起きるのか、その質問を甘いドーナツを物凄い勢いで食べるエイヴァに質問した。
「ルークが倒れるまでは月一だったけど、今日だけだともう二件目かな」
「飲み込んでから喋ってください」
僕のその言葉に少しムッとして、そしてしっかり飲み込んでから口を開く。
「もともとルークの【幻影】自体がサイボーグに対して絶対的有利を取れるから基本完封だったし」
『完全に人の眼を騙せるからね。同士討ち……は好まないからしないけど、能力上擬似的な透明人間になれるから戦闘中に不意打ちするとかいつもやってるし』
「敵だと思ってたものが瓦礫の山で、気が付けば後ろにいる。しかも隣を無警戒で通って。もし敵に回ったとしたら……それだけは考えたくない」
【幻影】プロジェクションマッピングとか、ホログラムとか、パーティー用とか言われているがその実殺傷能力を持たない異能の中で最も強い。本人の資質が問われるけど、この様子だと資質すら兼ね備えていたみたいだ。
そして、それほどの相手を無力化した正体不明の異能。流石に専門外だから考えたって仕方がないけど、ネタが割れなければ対処のしようがない。
と、そうこうしている間に病院へ到着した。
駐車場に止まったドローンは車を止めるスペース二つを占領している。
「怒られそう」
『んじゃ待ってるからね~』
「お気を付けて」
運転手さんと遠隔操作している姫はドローンに残り僕とエイヴァは指定された病室に向かう。
恐らくだけどカンナギは【幻影】と一緒にいる。じゃなきゃ病院に来い何て言わない。
「幻影……ルークさんは容態はどうなんですか?」
「動けないほどじゃなくて、かといって万全でもない。良くもなければ悪くもないってやつだ」
直感的にそれなりに深手を負ったんだと悟った。足を負傷したわけじゃないんだから動けるのは動ける。のに万全じゃない。十分重傷だと思う。
エレベーターにのり、指定された病室がある階に着くと少しばかり騒がしかった。
「……ーク……ルークさん!」
僕達は早足で騒がしくしている廊下に向かうと、数人の看護師に止められながらも進もうとする少年の姿があった。
「ルーク!」
「エイヴァ……なんでここに」
「お前こそ何動き回ってんだよ!まだ傷口塞がってないだろ!」
「でも……行かないと」
強い、意志の宿る眼。父さんと同じ英雄の眼。
それでも周りの人達は彼を必死に説得して病室に引き連れようとする。
「お、来たな翔」
「あ、カンナギ」
ジュース数本を持ってカンナギが現れた。多分買いに行ってたんだ。
「騒がしいな。なんかあっ……」
カンナギが無理に動こうとする少年を見て血相を変える。
「バカ!何やってんだよ!」
「やっべ帰ってきた」
カンナギが居ない隙に出ていこうとしたのか。
「病室に戻れ!今のお前に何ができるんだよ!そんな怪我で現場に出られたら周りが気ィ遣うわ!」
カンナギが怒鳴りながら少年に近づく。
「でも……誰かがやらなきゃ……」
「応援ならとびっきり良い奴連れてきたから!世界で一番すごい奴だぞ!」
「誇張しすぎ!」
良く見れば脂汗をかき今にも倒れそうなほどフラフラしている。
「今ボクの仲間が原因を調査してる。それが終われば、また活動できるようになる筈だから。な?」
「でも……」
少年が視線を向けた先にテレビがあり、急増した異能犯罪と例のサイボーグ犯罪のニュースが取り上げられていた。
「能力が使えなくても……無事だって示すだけでも……違う筈だ」
「……」
「そうは言っても」
……意志の宿っている瞳はしかし、それだけが生きている状態だった。
僕は歩きながら彼の状態を口にする。
「真っ青な顔に、覚束ない足元、手すりがなければ真っ直ぐ歩けない」
「……君は……?」
「雨宮翔。貴方の代打です」
申し訳ないけど、貴方のような無理をする人間を説得するのはこれまでもやってきた。
真っ直ぐと意志の宿っている眼を見てはっきりと伝える。
「とても大丈夫と言える状態じゃない。そんなので人前に出ようものならかえって人々を不安にさせます。今は療養するのが一番かと」
「でも」
「でももこうもありません。もし、貴方が戦えないと知れば今この画面に映ってる奴らはむしろ調子にのります」
「……」
「本当に人々の事を思うのなら、問題ないと人々に知らしめる方が大事かと」
「………………分かってる……分かってる……けど……」
「貴方が休めるために、今ここに僕がいる。信用も信頼もないかもしれませんが、死力を尽くすと約束します」
また怒られるかもしれないけど。
でも、そうしないと今目の前にいるこの人が死んでしまいそうだった。最悪の形で。
「……でも……」
「この子の言う通りだよルーク。休まないと、ちゃんと戦えない。いつもいってんでしょ」
「……わ……かった……」
渋々、というよりは嫌々頷いた感じだった。
看護師の肩を借りて病室に戻る少年に付いて行かず、僕の元へエイヴァがやって来た。
「……ありがとう。ああ言ってくれたから納得してくれたんだと思う」
「いえ、ああいった頑固者にはとても心当たりがあるので」
父さんの後ろ姿を思い出す。本当はずっとあの頑固さに負けていたけど今なら真正面から言える気がする。休んで欲しいって。
「何を犠牲にしても……か」
……知っている。ヒーローが真っ先に犠牲にするもの。それは自分だから。
「おーい、行くぞ」
僕達はカンナギに言われて少年の病室に向かう。




