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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第三部 揺蕩う心

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越境する流星

 僕は飛行機から降り、通路を渡ってコンベアで運ばれてくる旅行鞄を持って空港のエントランスに出る。

「……初……海外……アメリカ……」

 緩む頬を戻そうとして戻せなくて、ニヤケ顔が隠せなかった。

「ぃぃいやったぁ!」

 出来るだけ小さく歓声をあげてしまった。

 アメリカ合衆国はカルフォルニア、サンフランシスコ。つまりはハリウッド!

 ただ……。

『あー、喜んでるところ悪いけど観光じゃないからな。星形のサングラス買うなよ恥ずかしい』

 お仕事です。

 チョーカー型の拡張現実通信デバイス、オーグフォン。略してオグフォは多種多様な機能を備え付けている。今はカンナギと言う名の上司に繋がっていた。

「少しだけ……ダメ?」

『ダメ。移動の風景なら許す』

 折角の海外……。

「……う……グゥ」

『ほら、迎え呼んであるからちゃっちゃと移動して。早くしないと日が暮れちゃうぞ』

「その言い方やめて。腹が立つ」

『ゴメンて』

 観念して僕は旅行鞄を持って……持って……

「……あれ?」

 旅行鞄が消えた。

 さっきまで近くに置いといた筈なのに。

 もしやこれって……

「置き引き?」

『は?』

「鞄……無いなった」

『……パスポートは?』

「……鞄に……」

『バカッ!今すぐ探せ!』

 焦って周りを見渡しても見覚えのある鞄なんて何処にもない。

「お探しの鞄はこれ?」

 通信デバイスの通訳機能が起動し、発言者のちょっとした癖すらも自然に聞こえるように翻訳された機械音声がイヤホンから流れた。

『ん?この声……』

 僕が振り返るとそこには……日本人なら中学生ぐらいで切り揃えられた金髪のショートヘアの女の子が三十代ぐらいの男性を取っ捕まえて僕の鞄と一緒に引きずっていた。

「サンフランシスコは比較的治安は良いけど日本と比べて油断は出来ないから。気を付けて」

 そう言って僕の鞄を差し出した。

「あっ、ハイ。ありがとうございます」

「礼は後。行くよ」

 捕まえていた男性を地面に落とし踵を返して背を向ける。

 見た目に反してかなり落ち着いていている。どことなく安心できて頼れる、姐御気質、と言うのだろうか。そんな雰囲気を感じた。

「ほら早く」

「すみません今行きます!」

 借りてきた猫のように彼女の後を着いていく。

「お名前お聞きして良いですか?」

「あたいの?」

「はい」

 少しの間沈黙が続き、ぼんやりと考えていた彼女が答えた。

「エイヴァ。エイヴァ・グラトニー。【暴食強化(グラトニーベール)】の方が聞き馴染みあるかも」

「エヴァ?」

「エ、イ、ヴァ!発音違う!」

 めっちゃ怒られた。多分何回も同じ間違われ方したんだと思う。某アニメの発音に慣れてるから。

「ごめんなさい……」

「……そういえばそっちの名前聞いてなかったわ。名前は?」

雨宮翔あまみやかけるです」

「カケルアマミヤ……わかった」

 フルネームで毎度呼ばれそう。

 彼女の後に着いていって空港を出ていく。

 僅かに流れる雲、強い日差し、そして見知らぬ街並み。

「改めて。ようこそサンフランシスコへ」

 僕の人生で初めての海外。胸にざわつくものを抱えながら高揚した気分で一歩を踏み出した。




『いやぁ、ありがとうねエイヴァ。迎え寄越してくれて。もう少しで違法出国させるところだったよ』

「逆に何で一人でも大丈夫だと思ったんだ?まだ子供じゃんかこの子」

『いやぁ、まぁ……正直舐めてたかな』

「おい」

「……」

 防弾仕様の強化ガラスと装甲を着けた車両で僕達は移動する。

 窓から見える景色に一喜一憂する僕のとなりでエイヴァとカンナギが話し合っていた。

「どこまで教えてるのこの子に」

『何も。緊急だから来てって言っただけ』

「バーカ。もう少し考えろよ」

『仕方ないだろう、やっと落ち着いたんだから。それとも【幻影】の治療はしなくて良かったかい?』

「……クソが」

 その表情から苛立ちが見える。ただ、カンナギに対してではなくもっとこう、やるせない感じの。

 アメリカの事情は何となく察せられる。

 ニュースで【幻影】が重傷を負い入院中である、と。

【幻影】は無血伝説で有名だ。怪我はしないし、怪我させないし、そもそも血を流させない。自分も人質も敵さえも。

 そしてその功績にふんぞり返るのではなく謙虚に、でもどこか年相応の少年らしさを残す彼は親近感を持って接せれる英雄として市民から絶大な支持を受けている。

 そんな彼が怪我をした。掠り傷や擦り傷じゃない。背中を裂かれる重傷。

 英雄の居ない街。英雄がいなければならない街。どうなるかなんて……想像にかたくない。

「……わかってる。あたいらがこれまで以上に頑張らないと」

「カンナギ」

『ん?』

 僕は街を見ながら、活気の無いその情景を心に刻む。

 正直気は乗らない。心の奥底で衝動がざわめく。ここは僕が帰りたい街ではない。それでも……

「雫も来たかったって言ってた」

「こんな時に」

 エイヴァは呆れたように溜め息を吐いたが、カンナギは少し笑っていた。

『そっか。なら、いつか連れてきてあげなきゃな』

「……うん」

 いつか雫と一緒に来たい。雫がどこまでも好きな場所に行けるように、この翼を広げて行けるように。

 少し時間はかかったけれど覚悟は出来た。観光の時間は終わり。

 僕は前を向く。

「……仕事の話をしよう」

『よし来た。んじゃあ一気に説明するぞ』

 視界に広がる拡張現実の光が通信相手の顔写真を映す。

『まず、大前提としてボク達【天ノ川】はその国の法律に則り行動する。その為、違法なことは極力しない方向だ』

「極力?」

『その国の政府の理念に寄るってことだ。個人の正義ではなく国が定めた正義として。公的機関ではないけどね』

 これまでのカンナギの働きがあるからこそ【天ノ川】はアメリカでの活動許可を持っている。国家転覆を直前で阻止したその功績は誰に言われようと多大なる被害を出さなかった英雄の奇跡そのもの。

『ここからが本題だ。【幻影】が傷を負った。この事実は二つの意味で社会に衝撃を与えている。一つは抑止力の不在。無血だろうがなんだろうが犯罪をほぼ確実に取り締まれる存在は抑止力になる。抑止力が居れば犯罪は減少する。その代わり無敵の人の犯罪は目立つけど』

「ふんふん……」

『もう一つが【幻影】を傷付けられる存在の発生だ』

「方法は分からないけど無血を貫いてきた【幻影】に対抗できる存在ってこと?」

『うん。と言うか、多分お前でも初見なら太刀打ちできないと思う。出来るのは雷蔵ぐらいだろう。能力の詳細は分からないけど一つだけ確実な事実はあるから』

「なに?」

『【幻影】は今、能力を使えなくなっている』

「それって……」

 無力化、あるいは無効化。希少なんてレベルじゃない。過去に同種の異能を持っていたのは二人だけだ。ただし、永続はしなかった。

「今もって事?なら、それは消去や除去に近いんじゃ」

『うん。その通り。原理は分からないけど傷付けた相手をほぼ永久的に異能を使用できなくする。こんな感じだと思う』

「傷を負って、なおかつ異能が機能しない……」

 ……僕を呼んだ意味が分かった気がした。これは争奪戦になる。そうなればこの街は戦場になる。そうなる前に見付け出して保護しなくてはいけない。数少ない飛行能力、その中でも応用ではなく実用での機能を持っている僕なら追い付ける異能者はいない。

「……つまり【幻影】の代わりに僕が抑止力になり……」

『この無力化異能者を見付け出し保護する。これが今回する天ノ川の仕事だ。初仕事で荷が重いかもしれないけどがんばれー』

「……わかった。頑張ります」

 もう出来ていたが、改めて覚悟を決める。目標が提示されたことで実感が湧いた。

「まずはどうしたら良い?」

『とりあえず病院まで来て。引き継ぎしてもらうから』

「仕事の基本だぁ」

『んじゃあ待ってる。エイヴァ、翔をよろしく』

「わかってるわよ」

 車は高速に乗り町外れの病院に向かう。

 車には僕とエイヴァ。そして運転席で初老の男性がハンドルを握る。

 時折僕達を追い抜いていく車があった。

「……」

「……」

「……ねぇ。これまずくないかしら」

「ん?」

「ええ。そうですね」

 僕は前のめりになって話を聞く。

「後ろの車、空港からずっとつけてますね」

「えっ……」

 一瞬振り向きそうになって固まる。今振り返ったら気付いたことに気付かれる。

「どう……します?」

「もう遅いですね。この先で戦闘になるかと」

「何で?」

「だって逃げ場無いし」

 走る車が真っ赤な橋に出る。

 ゴールデン・ゲート・ブリッジ。観光名所の一つ。

 逃げ場は……確かに無い。周りは海だ。

「……やろうか。カケルアマミヤ」

「……はい」

 天ノ川の活動許可は出ている。もちろん、僕も。

「開きます!」

 車の天井に付けられた扉が開く。

 同時、真後ろの車からミサイルランチャーの弾が飛んできた。

「「ハァ!?」」

 街中で何ブッぱなしてんだ!

 車の後ろにぶつかり爆風が車を吹き飛ばす。

 瞬時に二人を掴み車の天井窓から飛び出して逃げる。

「怪我は!」

 僕は空中で二人の状況を確認する。

「無い」

「ありません」

「運転手さん戦えますか?」

「いえ……」

 ならこのまま飛んで逃げた方が確実。そう思った矢先、敵は後先考えずに銃を乱射し周りに被害が出始める。

「コイツら……」

「ここで止めないと追いかけてきて被害が……」

 僕を狙うならまだ良い。他人まで巻き添えにするなよ。

「下ろしたら物陰に隠れてください。後は僕が……」

「あたいは戦えるし」

「……僕達が対処します」

「わかりました」

 無差別に撃ち出される弾丸を掻い潜り物陰に着陸、運転手さんは物陰に隠れ、僕達は前に出る。

 そうこうしている内に囲まれていた。

 ざっと二十人。

「さて、お手並み拝見といこうか、【流星】」

「足手まといにならないよう頑張ります」

 僕の最も得意とする得物、対異能制圧用鉄糸。腰につけたリールから糸の一部が射出され僕の周りに漂い僕はそれを掴む。

「おいおい、銃に糸で挑むのかよ」

 常に冷静に、挑発には乗っちゃいけない。

 異能を起動させ液状の金属を背面から出し翼の形状にして固定する。片翼十メートルの羽は守りにも攻撃にも使える。そして……

「これが炉心……」

 胸部が青く光り、膨大なエネルギーを全て噴流へと変換、周囲を吹き飛ばしかねない推力を生み出す。

 まだ慣れない。眼からエネルギーの一部が青い炎みたいになって漏れ出す。

「戦闘……開始……」

福沢諭吉って斬撃飛ばすんですね。

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