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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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おまけ バイト始めました!

「よろしくお願いします!」

 私は深々と頭を下げてバイトの先輩とダウナーで綺麗な女性の店長さんに挨拶をする。

「よろしくねぇ。いやぁ初日から元気だねぇ」

「えっと、雪村さん……」

「雫で大丈夫です!」

「そ、そう?なら雫さん。早速……と言いたいんですけど」

「はい!」

「やること無いんだよね」

「……へ?」

 先輩がレジの方に指を向けると金属の骨がむき出しの上半身だけでレジと一体化したロボットが高速でお客さんを捌いていた。

「あーあれちょうだい」

「御注文ヲドウゾ」

「タバコだよタバコ。マルボロ」

「番号デオ願イシマス」

「マルボロっつったらマルボロだろぉが!」

「番号デイエッツッテンダロォ!オォン!」

 何あれ。人入ってない?

「まぁたヒューマンエラー起こしてる」

「平常運転だぁ」

 あれで!?

「あんな感じで機械が色々やってくれるから自分らはここの監視カメラの確認と品出し位しかやること無くてね」

「店長は発注あるけど必要な分はあの子が出してくれるから楽なんだわぁ」

「二度ト来ンナ!」

「お口わるわるだぁ」

 ……コンビニのバイト始めたけど、上手くやっていけるかな。




 そもそも、私はずっと神様として祭り上げられていて、身の回りの事は征四郎がやってくれていた。

 翔達と一緒に過ごすようになって色々するようになったし、大変なんだなぁって思ってた。

 はっきり言う。認識が甘かった。

 たった四時間のお仕事で私は魂が口から抜けているんじゃないかと錯覚するぐらい疲れはててしまって、休憩室の机に伏せていた。

「あーーーーーー……疲れた」

「お疲れ」

「お疲れだねぇ」

 腰痛い。翔と雷蔵の手助けありの家事がどれだけ楽だったのか思い知った。

「やることいっぱいあるじゃないですか……」

「そうだね。夕方は客入りが良いからその時間に合わせて品出ししないとだし」

 あんな目まぐるしく店内動き回るとは思わなかった。

「忙しい時間は過ぎたしここからは少しゆったり出来るかな」

「はい……」

 昔はもっと人がいたらしい。じゃないと回らないよこんなの。

「そろそろ六時だし、初日はこれで終わりね」

「はいぃ~」

 店長さんは笑顔でそう言っていた。

 ふと、見えてしまった。店長さんの首の後ろに指二つ分ぐらい大きい金属の板のようなものがくっついていることに。

「あの、首の後ろなんか付いてますよ」

「ん?んー、これね」

 店長さんは服を僅かに脱いでうなじ部分が見えるように髪を掻き分ける。

「これ、強化外骨格だよ」

「強化外骨格?」

「そそ。外部神経接続プラグ。もう塞いでるけどね」

「………………ん???」

「あれ?学校で習わなかった?サイボーグとか」

「学校の授業は色々あって……」

「んー、入院とかかな……高校行ってないって話だったし……仕方ない。少しお話ししてあげましょう」

 そう言うと店長さんは私の隣に座った。

培養機器の子供(カプセルチルドレン)、あるいは試験管ベイビーなのよ。これ付けてるのはね」

「試験管ベイビー?」

「一言で言えば機械から生まれたの」

 機械から、そう聞いて言葉がでなかった。

「二十五年前にテツシシ?とか言う組織が政府に提出した少子化問題を解決する方法がこれなんだけどね、IPS細胞から作った受精卵を人工子宮で培養、ある程度育つと薬を投与して一年ぐらいで十二歳から十五歳位の肉体になったら取り出して、これをつけられるの」

 首の金属を擦りながら店長さんは続ける。

「外に出た子供は体から薬が抜けるまで施設で育って、その間脳を電脳空間に接続して授業を受ける。この首の後ろの穴にプラグを差して電脳空間にダイブするの。時間が千倍に加速してる電脳空間なら二年ぐらいで外の人達と遜色無い知性と精神を育てられるし、カプセルから出て二年も経てば肉体年齢は十八前後になって、成人として社会に溶け込む。私達は国に作られた子供なの」

 そ、れは……

「えっと、あの……ごめんなさ、い?」

「謝らなくても良いよ。楽しく生きてるからね」

「楽しく?」

「ええ。幸せよこう見えて。これがあっても好きだって言ってくれる人がいるし。ねー」

「すいません見落としがないか見てきます」

 先輩が耳を真っ赤にして休憩室を後にした。

 ……あー。

「出自や出生が人生を作るんじゃない。見て、触れて、学んで、歩んだ足跡こそが人生なんだから、気にしてたってなにも始まらない。それが、培養機器の子供(わたしたち)全員の共通認識よ」

 なんと言うか、前向きて明るくて眩い生き方をしている。そんな風に見えた。

「この政策前は地方なんて過っ疎過疎だったんだから」

「でも機械ならあの子は……」

 私はレジ担当、エーアイの子を指して質問した。

「あの子一体作るのに三千万円維持費に年間五百万円、対してこっちは食費込みで三百万円、それに、出来ることは生身の人間の方がまだ多いから」

 十分の一の値段で高性能な労働力を量産できる。なら、そっちを取るのも頷ける。けど、なんかこう、上手く言葉に出来ないモヤモヤがある。

「えっと、それって良いこと……なんです?なんかこう、その方法で人を作るのはいけない気がして……」

「倫理観ってやつぅ?まぁ、やってるの日本だけだし、外国からめちゃくちゃ文句言われてるらしいから人としては正しくない方法なんだと思うよ」

 なら、と言いかけて、でも、と被る。

「人口増やしてから言えって話よね。人口回復させればそっちを習うわけだからさ」

 視線を落として店長さんはうなだれた。

「あくまでも私達は市民だからね。私達を生産した人達はちゃんと人として扱ってくれてる。尊厳は守ってくれてる。十分よ。これ以上は自分達で頑張らなきゃね」

 笑う店長さんに何故か翔の面影を見る。その心情、その生き方に似通ったものを感じたからかもしれない。

 精一杯生きる人の輝きを見た。

「お、もうお時間だね。今日はどうだった?」

 時計を見ると時間は既に六時を少し回っていた。

「……大変でした」

「だよねぇ~」

「でも、頑張りたいです」

「……フフっ。いいね、じゃあ明日もよろしく」

「はい!よろしくお願いします!」

 いつまでも翔におんぶにだっこだと格好がつかない。負担になりたくないし、私だって……。

 翔を支えたい。そう願った彼女にほら見たことかと言われないように。

 私の社会人への道は始まったばかりだ。

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