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閑話:陸軍航空士官学校 その2

日間ランキング12位、週刊ランキング28位となり、気を大きくして続きを書きました。

陸軍航空士官学校でのお話をもう一話入れました。

次回は、中国戦線へ復帰いたします。

出張の帰りの機内サービスで、トップ・ガン マーヴェリックを観ました。国内なので全編観ることは叶いませんでしたが、今後の作中に取り入れたいなと思いました。

今後も生暖かい目でご覧になっていただけますと幸いです。

1942年3月、寺内寿一陸軍大将の欧米視察旅行、その随行から帰国した加藤建夫少佐が航空士官学校を訪れていた。


訪独時には、既に第二次世界大戦の火蓋が切られている東部戦線ポーランド・西部戦線の両戦線を帝国陸軍一行共々視察し、加藤は戦闘機操縦者として先進ドイツ空軍の航空事情を調査し、最新鋭のメッサーシュミット Bf 109に搭乗する機会を得ていた。


加藤少佐は、欧米の視察、特に東部戦線ポーランド・西部戦線の両戦線の視察により、これからの戦闘機は重戦であるべきと考え、陸軍に蔓延する軽戦至上主義を打破しようと帰国の途中に思い描いていた。

帰国してみれば、キ44が次期主力戦闘機として制式化され、一式戦闘機「鍾馗」が97式戦闘機に代わるべく生産を始めていた。

加藤少佐は、どうしてこうなった? と思い、その原因が陸軍航空士官学校に入学していたノモンハンのエースパイロット達であると知り、興味を深めて会いに来ることになった。


面談場所の航空士官学校の会議室には、篠原、加藤、樫出、上坊、乾の航空士官学校の少尉候補生*1が、集められていた。更に教官の黒江大尉*2も列席していた。

窓際の席に黒メガネで、机に手を組んだ肘を乗せている加藤少佐と、隣の直立不動の副官と逆光のせいも有り、悪の組織の親玉にしか見えなかった……


「15年ぶりだな。篠原」


「ああ、その通りです。と、言いたいところですが、誰とお間違えですか? 15年前は、まだ皆中学生か小学生ですが……」


「うーん、何故か今このセリフを言わなくてはならないような気がしてな」


「……」


「さては何より、今回の訪問の真意をお聞かせください」


「まあ、そう構えることは無い。私は、先の欧米視察旅行にて、欧米の戦闘機を見分し、ヨーロッパの東部戦線・西部戦線の両戦線を視察して来た。視察の結果として、これからの戦闘機は速度と防御力、そして強力な武装が必須だという結論に達した。それに対して、97式戦闘機の様に格闘戦に長けた軽戦闘機を望む声が、残念ながら多数だった。それを君たちが、そこの黒江をやり込めて1式戦闘機「鍾馗」を制式化させたと聞いてな。一言、礼を言おうと思って来たまでだ」


その言葉に、黒江大尉は苦虫を噛んだ様な顔になっていた……


「少佐! お言葉ですが、小官はそこの上坊少尉候補生に負けたのであって、キ44に負けたとは思っていません!」


「97式戦闘機にも勝てなかったんだろ? それでは、97式に代わって次期主力戦闘機とはなれないのは当然だな」


「……」


「更に言えば、キ43の武装が7,7mm機銃2丁と97式と変わらないのでは、今後の敵新型戦闘機を撃破できるかどうか? ノモンハンでの戦訓では、I16の防御鋼板を50mの至近距離から撃っても、打ち抜けなったと聞く。そうだな、篠原少尉?」


「その通りです。ソ連軍のI16は旋回性能は劣りますが、操縦席背後の防弾版のおかげで背後からは中々墜とせません。また、機銃4丁と97式の倍の攻撃力で、一撃離脱の戦法に切り替えた後半はかなり友軍がやられました」


「それで、その後は99式襲撃機に乗り換えたのかね? 確かに、日本軍戦闘機で12,7mm以上の武装を持った機体は無いからなあ」


「7,7mmでも当たり所が悪かったり、大量に撃ち込まれれば墜ちるでしょうが、12,7mmであれば1連射で墜とせます。将来的に考えれば、20mm級の機関砲が必要となるでしょう。これからの戦闘機は、強固な防御力と協力な武装を兼ね備える為に重戦闘機とならざるを得ません」


その後も、加藤少佐との意見交換は続き、ノモンハンでのSB2迎撃戦の戦訓から、上空からの戦闘指揮の有用性が認められた。無線の進歩により個々での戦いから集団戦、それを指揮する空中指揮の有用性が議論された。

加藤少佐からは、ドイツ空軍で確立されたロッテ戦法が紹介された。2機1組のロッテを「分隊」、4機1組のシュヴァルムを「小隊」としたロッテ戦法はその後、陸軍航空部隊に採用された。飛行戦隊の編制は1個分隊(計2機のロッテ)が2隊で1個小隊(計4機のシュヴァルム)、その3個小隊で1個中隊(計12機)、3個飛行中隊(計36機)と戦隊本部機からなるものとなった。


その後、黒江大尉がもう一度勝負させてくれと直訴し、篠原少尉が「じゃあ、乾とやってみろ」となり、何故か模擬空戦をすることに……

どうしてこうなったあ!


所沢飛行場には、採用になったばかりの二式戦闘機「鍾馗」と99式襲撃機が用意された。

99式襲撃機は、いわゆる篠原スペシャルと言われる単座仕様機だ。

篠原少尉が、大陸から戻る際に乗ってきたそうだ……

篠原少尉の愛機は、操縦席側面に100個もの撃墜マークがあり、これ以上は機体が真っ赤になるんじゃないかと言われるほどだ。

たまたま、東京出張のついでに見学に来ていた九州に覇を唱える別府造船グループ総帥、来島義男社長が

「機体を真っ赤にすると3倍の速さになるらしいぞ!」

「あ? 誰が言ったって? シャーさんだよ」

「えっ? シャーさんはさあ、秋葉原の母と言われた台湾人の占い師でね……」

と、いういきさつがあったとか……


さて、模擬戦だが、結果として黒江大尉は自分の背後を一度も取れることは無かった。

所沢飛行場から5分間、東西に飛んでから引き返しての模擬戦は、高空に転移し急降下で攻撃し低空に抜けたら、急降下で稼いだ速度で遥か遠くに離脱し、そのまままた高空に転移するというI16が取った一撃離脱戦法に、キ43は付いていけなかった。爆撃機乗りの乾に取っては、巴戦などはやったことが無く、このやり方しか無かったのが功を奏した。

降下速度制限が700kmの99式襲撃機についていける日本軍戦闘機は、キ44一式戦闘機「鍾馗」しか存在しないのだ。海軍の零式艦上戦闘機も、この戦法を取られたら勝てることは無いだろう。


「さあてと、このまま引き分けでもこちらは襲撃機なんだから、判定勝ちになるんだろうけど……」

「それじゃあ、面白くないなあ」


何度目かの急降下攻撃、黒江機は回避し追いかけてくるが降下速度制限で諦めて機首を戻す、いつもの繰り返しと思われた時に乾機も降下をやめて水平飛行に移行し、それを見た黒江機はチャンスとばかりに再度降下を掛けてきた。乾機は水平飛行から45度バンクし、そのまま斜めに上方宙返りし高度を稼ぎ、追い越していった黒江機の後ろを取った。距離は、300mほどであったが、12,7mmの直進安定性と97式の防御力に鑑みて、撃破されたものと判定された。

乾機は、シャンデルといわれる空中機動で黒江機を負かしたのだった。


「篠原少尉が推薦するのも納得だな! 爆撃機乗りにしておくのは勿体ないな」


「彼は、ノモンハンで5機撃墜しているエースですからね」


「いやあ、勝たしてもらったって所ですよ。実際の戦闘では護衛機が居てくれないとしんどいですよ。爆弾抱えて、あんなこと出来ませんからね」


そこに、黒江大尉がやってきて、

「乾さん、ありがとうございました!」と深々と頭を下げた。

「いやあ、もうこれですっきりしました! 巴戦はもはや過去の遺物ですね。乾さんが、キ44乗ってたら、やはり降下上昇で来たでしょうから、もっと勝負は早かったと思います」


こうして、黒江大尉も軽戦闘機への思いを捨て、航空士官学校では一撃離脱を学生たちに徹底していくことになる。


その後、黒江大尉は加藤少佐の第64戦隊にて活躍することになる。

その活躍から、第64戦隊は「加藤鍾馗戦闘隊」と言われ、映画も作成された。黒江大尉は、多数の連合軍気を撃墜し、その名前から連合軍から「魔のクロエ」と呼ばれ恐れられることに。


因みに、加藤正治は「お前、同じ加藤で紛らわしいな」と言われ、「いやいや、加藤の方が少佐より撃墜数が多いですよ」との篠原少尉の言葉で、「じゃあ、同じ陸軍で被らないように提督にしよう」となった。後に、連合軍から恐れられる「アドミラル・カトー」の誕生である。



*1篠原は、中尉候補生


*2黒江は、3月に大尉昇進

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