南方作戦 ~シン・ブリティッシュ作戦~
短編のブリティッシュ作戦を大幅加筆修正いたしました。
もう、これでもかというくらいに弄り回しました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
今後も生暖かい目で見て頂ければと存じます。
1942年1月、第3飛行集団は、クアラルンプールの飛行場に駐屯し、英軍に対し激しい航空撃滅戦を行っていた。
第3飛行集団は優勢に航空作戦を進めていたが、イギリス空軍はゲリラ的に少数機で日本軍地上部隊に継続的な爆撃を加え、地上軍にも少なからず損害が生じていた。
第3飛行集団集団長の菅原道大中将が、絶対的制空権の確保を優先するあまり、地上支援が少ないと感じていた第25軍司令官の山下は、「まずは地上作戦協力の方が緊急」という不満を抱いていた。
山下の不満を受けて、南方軍参謀谷川一男大佐は、「遠藤三郎率いる第3飛行団を、第3飛行集団から第25軍の指揮下に移してはどうか」とする案を菅原ら第3飛行集団に示したが、菅原らは谷川の提案を一蹴。遠藤が「まず、何より重要なことは全般の制空権を獲得し、その傘の下で作戦することである」との意見を谷川に返した。
そのため、引き続き第3飛行団は、第3飛行集団の指揮下で菅原の方針通り、制空権確保に全力を投入した。我々、飛行第6戦隊も日々英軍に対しての攻撃を実施していた。
そん中、ある男が駐屯地にやってきた。
不幸は、忘れたころにやって来る……
「おーい! カン軍曹! 乾物屋!」
「いぬいであります! 実家は金物屋です! お久しぶりです」
「それと、今は昇進して中尉であります! 辻参謀殿」
と、答えながら戦場で死神を見たような顔になる乾中尉であった。悪い予感しかしない……
「ほほう! 出世したなあ! 流石、ノモンハンの英雄! 殉職してもそこまで出世せんぞ」
「一緒に戦ったわしも鼻が高いわ!」
そう、この辻参謀とはノモンハン事件で一緒に戦った?
いやいや、いやいやいやいや、独断専行、猪突猛進、勇猛果敢、唯我独尊、頑迷固陋、支離滅裂な暴風みたいなこのおっさんに、オレが振り回されただけだあ!
ノモンハンでは、BT戦車を始め装甲車両を100台以上を撃破し昇進も手にしたが、このおっさんのせいで何度死にそうな目にあったか!
はっきり言って、二度と関わりたく無い人だ!
「おや? どうした、顔色が悪い様だが。マラリアにでも罹ったか?」
顔色が悪いのは誰のせいだよ! と、叫んでやりたい衝動を抑え、心の中で、うっせえ! うっせえ! うっせえわあ!と叫んでから
「貴方が思うより健康です!」と返す処世術に長けた乾であった。
「息災で何より! 熱帯での戦いで将兵もかなり疲弊しているからなあ。今後も気を付けてくれ」
「さて、今日は貴様と昔話をしに来た訳ではない。貴様の小隊は、今後この第25軍参謀である辻の指揮下に入る! 志願、誠にありがたく思う」
何故、嫌な予感は的確に当たるんだ! えっ? いつ、志願したの?
後で知ったことだが、第3飛行団を第3飛行集団から、第25軍の指揮下に移してはどうか、とする案を蹴られた第25軍が、辻参謀主導で代わりに「ノモンハンの英雄」をという代替え案を出し、辻の度重なる無理難題に辟易した第3飛行集団が、第3飛行団ではなく1小隊ならと差し出されたらしい……志願と言う形で。
どうしてこうなったああ!
どうしてこうなった!
何故、我々は空母の上に居る?
「隊長、何故我々は空母なんかに?」と言うのは、右目に向こう傷があるまっつこと松井軍曹。
ああ、至極まっとうな疑問ありがとう。
「小隊長、陸からどんどん離れていきますよ! 自分は、泳げないんですが……」と情けないことを言っている相撲取りの様な巨漢の大多賀軍曹。その体は、泳げなくとも浮くだろっ!
「オレも知らん! 辻参謀殿に聞いてくれ!」
その辻参謀が、やって来て作戦を説明する。
マレー作戦の最終目標シンガポールを攻略するにあたり、ジョホール海峡を渡っての攻撃は、敵も重厚な防御線を敷いているため、ジョホール海峡越しの砲撃による敵の戦意を挫こうというものであった。
しかし、今後の南方作戦の根拠地として利用したい日本軍としては、可能な限り無傷で手に入れたいのが心情であった。
では、この自称「作戦の神様」は、何を画策したのか?
シンガポールのセレター軍港。ここに、シンガポール回航中に座礁し、修理のためドック入りしているイギリス海軍の空母インドミタブル。これを攻撃しようというのである。
インドミタブルは日本語で「不屈」。その不屈の心を折ってやる! という至って、戦略的にどうよ? という作戦であり、本来ならどのみち砲撃範囲が日に日に前進しているから構ってやる必要は無い。はずだった……
「という訳で、英国海軍の最新鋭空母を撃破し英軍の戦意に掣肘を食らわす!
名付けて「ブリティッシュ作戦」である!」と声高々に宣言する辻参謀であった。
「イギリスをやっつけるからブリティッシュ作戦って安易すぎやせんかね?」とまっつ。
「作戦っていうのは、中身であって名前は関係無いっすもんね」と大多賀。
「参謀殿には、名前のセンスは関係無いんだろ。こういう人が、子供にきらきらした名前つけるんじゃないのか」
と、オレ達は作戦名をヒソヒソとバカにしていた。
陸軍の空母「あきつ丸」 陸軍が、上陸作戦支援用に建造した正式には揚陸艦。
そのあきつ丸のお世辞にも広くない飛行甲板。なんと言っても127mしか無い!
ここに、何故か99式襲撃機3機がある。それが、我々の今回の乗機であるらしいが、何か違和感を覚えるのは気のせいか?機体が真っ黒に塗られているのもあるが……
「この99式襲撃機は、别製だ!」
「特别製ですか? 機体が真っ黒ですが」
「いや、别製な。別府造船の别製な! 機体が黒いのは何故かは分らん。この機体は、一人乗りということで今回は残念ながら、私が陣頭指揮は出来ん。指揮全般は乾中尉に一任するものとする」
99式襲撃機改が一人乗りになって、こんなに嬉しいと思ったことは無かった……と、心の中だけで思う中間管理職の鏡の乾中尉であった。
時は、1941年秋に遡る。現場での評価も高く、中華大陸で一番活躍した軍用機と言われた99式襲撃機も、制式化されて早3年となり太平洋戦争に突入して、能力の向上を求められていた。
具体的には、搭載量の増加、航続距離の増加、速度向上の3点であった。
陸軍より、その話を持ち込まれた99式襲撃機の製造会社たる渡邊鉄工所、その面々は頭を抱える事になる。
「これ、全部を向上させるとなると新型を作った方がいいですよ!」と渡邊社長。
「私もそう思います。実際、川崎にキ45を発展させた新型の襲撃機の開発も内示しています。ただ、それが制式化されるまでは99式で乗り切るしかありません」
「搭載量の増加、航続距離の増加、速度上昇。この3点で、どれが一番現場で求められていますか?」
「そうですね。搭載量に関しては、別製爆弾架台での攻撃が主ですし、九七式曲射歩兵砲の81mm砲弾装備の甲型。八十九式重擲弾筒の八十九式榴弾装備の乙型共に好評です。
これ以上の重量の爆弾に関しては、襲撃機の任務上無いでしょう。別製爆弾架台を2基搭載したいという意見がありますが、それは次の新型に任せましょう」
「航続距離に関しても、陸軍としては一式戦闘機・鍾馗の航続距離もあって、無理に航続距離を増やすよりも航空基地を増設する方策を取っています」
「最後に速度向上ですが、これが一番強く求められてます。中国戦線では問題になりませんでしたが、英米機相手となると……」
と、いう訳で99式襲撃機の性能向上は、速度向上を中心に進めていくことになった。
が、しかし、エンジンは三菱、更に言えば設計図もほぼ三菱の98式軍偵。
99式襲撃機の売りの防弾装備も、別府造船の来島義男社長のアイデアから……
と、いう訳でまたまた何かいいアイデアは無いでしょうか? と、以前から何度となく問い合わせがあったが、開戦後に今度は陸軍の要望書と一緒に、緊急の依頼が別府造船に出された。
1941年12月中旬
「こまった時のド〇えもんじゃないんだからさあ。そんなに簡単にアイデアなんか出ないよう!」と、九州に覇を唱える別府造船グループ総帥、来島義男社長は愚痴を言っていた。
大分県日出。別府湾の北側に位置する別府造船の本拠地。社長室の主の愚痴に付き合っている「ぷっつん宮部」こと、宮部技師長が、渡辺鉄工所から回されてきた陸軍の要望書を詳細に読んでいた。来島は、分厚い要望書なぞは自分では読まずに、誰かに要約させるのを常としていた。経営者たるもの時間と部下は有効活用せねばならぬ、という経営哲学をいっぱしに語っていた。
「おや? 何でしょうかね? この仮称「ブリティッシュ作戦」とは」と宮部は何気なく呟いた。
「詳しく聞こうか」
「えっ! いつの間に……」
宮部は、いつの間にか応接セットの向かいのソファーに座り、テーブルに肘を乗せ、指を組んだ上にあごを置き、眼光鋭くこちらを見る来島社長に驚いた。
さっきまでは確か、応接セットの向かいの社長用デスクに踏ん反り返って居たはずだが……
顔つきも先程までのさえないオッサンの姿では無く、勘違いだが業界で切れ者と囁かられている、九州に覇を唱える別府造船グループ総帥、来島義男社長のたまに見せる姿であった。
そもそも、こいつがこれほどのスピードを出すのは、妻・茜に悪事が見つかった時に土下座する時くらいのもので、それは周囲から光速土下座と言われるほどの速さであった。
宮部の要約はこうであった。陸軍の百式司令部偵察機のシンガポール偵察において、シンガポール回航中に座礁し、修理のためセレター軍港内のドックに入っているイギリス海軍の空母インドミタブルを発見。これを攻撃しようというのである。
情報によると突貫工事で動ける様にして、シンガポールから脱出を図っているという。
元々、マレー沖海戦で沈んだプリンス・オブ・ウェールズ、レパルスと共に、イギリス本国より派遣されたインドミタブルは、マラッカ海峡で座礁しマレー沖海戦には参加できず。インドミタブルの航空支援を受けれなかったプリンス・オブ・ウェールズ、レパルスは、世界で初めて航空攻撃で沈んだ戦艦となった。
インドミタブルは日本語で「不屈」。その不屈の心を折ってやる! という至って、戦略的にどうよ? という作戦であり、本来ならどのみち砲撃範囲が、日に日に前進しているから構ってやる必要は無い。はずだった……
「という訳で、英国海軍の最新鋭空母を撃破し、英軍の戦意に掣肘を食らわす! 名付けて「ブリティッシュ作戦」である! と声高々に辻参謀がぶち上げたそうです。要は、地上からの進撃ではインドミタブルの逃亡を防げない。インドミタブルの脱出を妨害し、更に英軍の戦意を挫き早期決着を図るってことでしょうか」
「いいねえ! コロニー(植民地)落とすから、ブリティッシュ作戦かあ! 実に面白い! だが、辻参謀が絡んでいるとなると、この要望書も正規のものかどうかも怪しいなあ……」
「で、インドミタブルの脱出はいつ頃になりそうだい?」
「修理は、ドック入りした段階で半年程掛かると言われていたものを、突貫工事で1月中には一応の修理が完了しそうである、と書かれてますね。これは、インドミタブルの脱出が早いか、シンガポールの占領が早いかの時間との勝負ですね」
「1月中の占領は厳しいだろうなあ。上陸したタイ領内のシンゴラからシンガポールまでは、1,000km以上ある。いくらなんでも無理だな。それで、緊急の要望書って訳かあ」
「と、言う訳でちょっくら博多に逝ってくる。いや、行ってくる」
どうしてこうなった!
「こまった時のド〇えもんじゃないんだからさあ。僕もこう見えて忙しい身分なんだけどねえ」
と、何故か呼んでもいないのに、九州に覇を唱える別府造船グループ総帥、来島義男社長が目の前でお茶を啜っている。自分で土産に持参した別府饅頭をお茶うけにして……
「まあ、話は分かったから、後1か月で99式を要望に沿う形に改造する。その方向で間違いは無いな?」
「その通りですが、以前から言われてました速度についての要求ですが、時速530km以上となっています」
「やはり、エンジン換装でしょうか? それが、一番手っ取り早いと思うんですが」
「どこも、エンジンに余裕は無い! 絶賛戦争中で、三菱も中島もフル稼働だ! 三菱も瑞星だから回してくれてるが他は無理だ!」
「そうなると固定脚を引き込み脚にして空気抵抗を減少させる位が……」
と、渡邊鉄工所の面々が意見を言い合っていると
「固定脚を引き込み脚にしたら、機銃の銃弾や燃料タンク容積を圧迫するだろう! それに、マッキM.C.72はフロート付きで709kmの世界記録出してるぞ!」
「いやいや、あれは水冷V24気筒 2,850hp って化け物を積んでるからじゃないですか?」
「足なんて飾りです! 偉い人にはそれが分らんのですよ!」と叫ぶ、この中で一番偉い別府造船グループ総帥、来島義男社長である。どうやら、何か閃いたようである……
「この際、脚は離陸の時にあれば良しとして、離陸後に投棄しよう。今回の作戦のみの特別機で行こう。あとは、大概のことは馬力で何とかなる。エンジンの馬力向上をしよう!」
「着陸はどうするんですか? また、エンジンの馬力向上と言っても瑞星ですよ。頑張っても1000馬力いきませんよ!」
「着陸は何とかする。エンジンは水メタノール噴射装置を装着する」
「うちの関連会社の山岡製作所に、水メタノール噴射装置付きの瑞星を作らせる!」
そうして、来島義男社長の無茶ぶりを受けて、山岡製作所が仕上げたのが瑞星三十一型だった。
瑞星三十一型
タイプ:空冷複列星型14気筒
筒径×行程:140mm×130mm
排気量:28.02L
外径:1,118mm
乾燥重量:542 kg
燃料:気化器式
過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速
特記事項:水メタノール噴射、高ブースト
離昇馬力:1,200HP / 2,700RPM +450mmhg
一速全開:1,160HP / 2,600RPM +300mmhg
二速全開:1,050HP / 2,600RPM +300mmhg
99式襲撃機に搭載されている瑞星十五型(ハ26-II型)が、離昇馬力 940HP/2,650RPM であり、およそ3割も馬力が向上している?
この瑞星三十一型にエンジン換装したのが、99式襲撃機改Ⅱである。
エンジン換装の他の改造点は、推力式単排気管にしたことと、水メタノール150Lを後部座席後の燃料タンクを減じて積載したこと位であり、重量増加もわずかであった。
重量増加がわずかであり、馬力が3割向上。更に、それが、何を意味するかというと……
「510kmだとう! 零式艦上戦闘機と変わらんでは無いかっ!」
皆が驚嘆の声を上げている中、
「ちっ! 一式戦闘機の620kmとまでは言わんが、550kmは出るはずなんだがなあ」
と何故か一人悔しがる別府造船グループ総帥、来島義男社長であった。
「いやいや、固定脚で500kmオーバーは凄いでしょう!」
「マッキM.C.72はフロート付きで709kmの世界記録出してるぞ! ようし、一度脚を投棄してやってみよう!」
「まだ、それ言いますか! マッキなんかと比べんでください! それと、脚投棄したらもう機体は使えませんよ!」
「仕方ない。ぶっつけ本番で550km突破してもらうか」
この様に、99式襲撃機改Ⅱは公試において時速510kmの最高速をたたき出し、脚を投棄した場合は計算上時速550kmは達成する見込みとなっていた。
ともあれ、約1か月のやっつけ仕事ではあるが、なんとか作戦には間に合った。
シンガポール北東200kmの海上をあきつ丸は風上に向かって航行していた。
あきつ丸を何とか無事飛び立った我々小隊は、高度100mをシンガポールに向けて飛んでいた。
127mの飛行甲板、更に小隊先頭のオレの機体は100mほどの滑走距離しかない。いかに船首を向けて向かい風を作っているとは言え短いものは短い。船首の向こうの波が見えるくらいだ……
因みに、船上から発艦などと言うのは、陸軍航空兵たる三人に取ってはもちろん初めての経験である。その際に、辻軍曹が「まあ、誰しもが初めての経験というのは有る。わしも士官学校の時に先輩が連れてってくれた置屋で……」と話始めた時には、三人共に腰のマウザーC96に手を掛けてたという。
短距離で飛び立つための最大出力を得るために、水メタノール噴射を作動させ、辻参謀曰く「花火の打ち上げ」の様に飛び上がった時は少しチビったのは皆には内緒だ。
あきつ丸を飛び立ち、仮設した脚を投棄する。もうこれで、普通に着陸することは出来ない。
南下を続けシンガポール海峡の真東から右旋回し、シンガポール海峡に入りセントーサ島が見えたらまた右旋回し北上、あとは一直線にシンガポール上空に侵入するコースを、我が小隊は順調に進んでいる。
「高度を上げるなよ! 敵に見つかるのは少しでも遅い方がいいからなあ!」
「了解! シンガポールマリーナが見えてきやしたぜ」
「ん? あれに見えるは……」
「あれ?どうしました。 高度を下げすぎじゃないですか?」
「ハハハ! ビンゴー!」
「また、何かやらかしやしたね」
「まあ、シンガポール一番乗りの証をね。いや、ちょっと機銃の試射をね……それよりも、進路は大丈夫そうだなと」こういう時は、ごまかすに限る。
「ようし、奥にあるのがカラン川だ! カラン川を遡上するぞ!」
カラン川を遡り貯水池に抜け、ここで右に旋回したらセレター軍港は目の前だ!
湖水を低高度のまま右急旋回する。翼端が、水面を叩いて湖面に一本の航跡を引く。
貯水池を抜けて森に入る。
「ここからは、高度20mだ!」
右上方が、キラリと光った! 敵機だ。
あいつら、もう飛んで来やがった。
「右上方、敵機だ! 来るぞ! 大多賀! まっつ!
「隊長、敵が後方に回り込んできやす!」とまっつより無線が入る。
「ちっ! 流石、英国空軍だ。いい仕事しやがる。少し早いがやるか?」
「大多賀! まっつ! 水メタノール噴射だ! 全開で飛ぶぞ!」
スロットルレバーを全開位置から更に押し込んで水メタノール噴射を作動させる。
「うおっと! 体が座席に押し込まれる! 凄い加速だ!」
推力式単排気管から、炎が出ているのが操縦席からも見える。アフターファイアーだ。
「はははっ! 敵機が付いて来れないぞ! 時速、550kmを突破! 我に追いつくハリケーン無しだ!」
「よし! セレター軍港が見えた! ドッグを中心に盛大に豆まきしてとんずらするぞ!」
「編隊を密にしろ!」
この時、インドミダブルの入渠しているドックに均等に爆弾を投下するために、三機が一直線に並ぶ編隊が組まれた。
「曹長! 前方に敵機です!」
「あーっ! 今日の英軍は随分働き者だな? たかが3機に何機上がってるんだ?」
「大多賀! まっつ! 別製爆弾架台投下したら、そのまま機銃ぶっ放して行くぞ!」
「「了解!」」
「別製爆弾架台投下! 投下後、敵編隊の真ん中に機銃発射!」
別製爆弾架台を投下し、軽くなった機体が浮き上がろうとするのを利用し、機首を敵機に向け機銃発射する。
正面からは1機にしか見えなかったものが、後ろの2機が左右に分かれ、きれいなデルタ編隊を組んだ3機の機銃は、6本まとめて敵機に向かって行く。
向こうも翼を真っ赤にするほどの1機当たり12基の 7,7mm機銃を撃ってきた。が、エンジンカウル上部にも6mmの装甲版を追加し、正面風防も50mmの防弾ガラスを装備した99式襲撃機改Ⅱは全ての7,7mm弾を跳ね返した。
そして、6基のホ103の12,7mm弾に貫かれた敵機が堕ちていく。敵機編隊の真ん中の機体が堕ち、左右の敵機は激しい銃撃に臆してばらけた。
「よし、このまま突っ切るぞ!」
「隊長! ドッグは盛大に爆炎に包まれてますぜ! 作戦成功だ!」
我々は、ジョホール海峡を越えても水メタノールが切れるまで全開で飛行し、敵機を振り切ってクアラルンプール郊外の基地近くまでやってきた。
問題は、ここからだ。着陸しようにも、我々には脚が無い……
「足なんて飾りです! 偉い人にはそれが分らんのですよ!」と、言い放ち大胆にも脚を無くした事により、時速550kmを越える速度を出し、英軍機を振り切り基地に戻ってきたまではいいが……
脚が無い場合の着陸方法は、胴体着陸か水面への着水かの二択ってのはどうよ!
辻参謀が、「命を掛けるだけの作戦だ」と抜かした時は殺気を隠しきれなかった……
まっつが「自分のこの傷は、着陸失敗で機体が横転した時に出来たんでさあ」と。
大多賀がまた「自分は泳げないんですよう」とレコードの様に同じことを抜かしやがる。
辻参謀が、今回は海軍機に習って、直ぐには水没することは無い! と、言うので嫌がる大多賀を説き伏せ、基地近くの川に着水することになった。川には、小発が何台か出て、即時拾ってくれる手筈となっていた。
フラップを降ろし失速ギリギリまで速度を落とし、ゆっくりと着水する99式襲撃機。あきつ丸からの発艦よりも、インドミダブルへの爆撃よりも、敵機に追われた時よりも緊張する乾達であったが、無事に着水し川の流れに身を任せるばかりとなった。
ああ、川の流れのように、おだやかにこの身をまかせていたいって……流されてる! まあ、穏やかに流されていくのも乙かな。 こうやって、景色を眺めながら川下りするのまいいなあ。何だか、疲れが溶けて行くような……沈むように、溶けていくようにって、沈んでない?
「隊長、機体が沈みだしてますぜ!」と、まっつが叫ぶ。
「隊長、自分は泳げないんですよう!」と、見た目ビヤ樽で浮きそうな大多賀が無き叫ぶ。
お前は、それしか言えねえのか!
「どうしてこうなったああああああ! 辻いいい! 訴えてやる!」と叫ぶ乾。
この後、救出された乾たちに対して「直ぐには水没しないとは言った。直ぐにはな。水没しないとは言っとらんぞ」と抜かした時には、軍法会議も辞さずとマウザーC96を抜き放そうとしたが、篠原達に強制連行されて事なきを得た。
連行される際に「駆逐してやる! この世から……」と叫んでいたのは、Gの駆除とごまかされた。
乾たちのインドミダブル攻撃を隠れ蓑として、もう一つの作戦が行われていた。第3飛行団団長、遠藤三郎少将が直率した百式重爆撃が、15インチ砲を備える要塞に対して爆撃を行った。
乾たちに釣りだされた英軍戦闘機を尻目に、南シナ海からシンガポール上空に侵入した百式重爆撃一個中隊9機は、試製四十一糎榴弾砲を改造した1,000kg爆弾を1機あたり2発投下し、厚いべトンで防御された天蓋を食い破った1,000kg爆弾は、盛大に爆発し弾薬の誘爆も有りシンガポール中心部でさえ揺れた程であった。
この作戦後、市北部のセレター軍港の盛大な爆撃と、シンガポール島東端の要塞の爆撃を見た、シンガポール市長が恐怖に慄き無防備都市宣言を宣言。
シンガポールでの防衛が出来なくなったアーサー・パーシヴァル中将は、山下中将らの降伏勧告を受諾した。ここに、日本陸軍のマレー作戦は完遂した。
シンガポール市長の心を折った別製爆弾架台3基だったが、意外にセレター軍港のドックにあったインドミタブルは被害が少なく、その後日本陸軍に接収された。百式重爆撃機での爆撃ならば完全に撃破出来たであろうが、どうやら最初から接収まで見込んでいたらしい。
150発もの81mm砲弾は、派手ではあったが世界初の装甲空母に被害を出すほどは無く、接収後に別府造船のドックで「陸軍空母」として改装された。それは、また別の物語である。
この日の乾たちの活躍は、クワトロ大尉の百式司令部偵察機が上空より撮影していた。
新聞には、漆黒の99式襲撃機3機が一直線に並びドック上を通過する写真と、その後の盛大な爆発との連続写真が掲載された。
「陸軍作戦の神様、英軍空母を撃破!」と何故か辻参謀の談話が新聞に掲載された。解せぬ……
いや、やったのはオレ達だけど……
この写真は、海外にも配信され「日本の黒い三連星、英軍空母を撃沈」の見出しが付けられていた。
このことを知った別府造船グループ総帥、来島義男社長は、一人ほくそえみ「思惑通りだな」と言ったという。機体を黒くしたのはこいつであった……
第25軍からの感状を貰い、更に陸軍で始めて空母を撃沈し、戦車・装甲車100両以上撃破、敵機撃墜6機*1に、敵空母1隻撃沈*2の戦果が加えられた。乾の歴史に新たな1ページ……
シンガポールに進駐しラッフルズ・ホテルを接収した第25軍司令部は、ホテルの屋根にある国旗掲揚台に掲げられている国旗を日章旗に変える際に、ユニオンジャックに弾痕があるのを発見し、誰がシンガポール一番乗りしたかを知ることに……
*1この日の撃墜で、撃墜数6機に。
*2海軍への当てこすりで、陸軍では撃沈と言い張った。
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