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三話 神の教え、仲間との出会い。

 城を出ると目の前の広場には出店や詩曲を聞かせる吟遊詩人の姿があった。

「見てください、皆新たな勇者候補であるラディーニさんを歓迎しているのですよ。せっかくですし出店で肉串でも買いませんか? お腹も減っているでしょう?」

 気分転換もかねてのファラスからの提案だったが、ラディーニは首を横に振った。

「いや、私が信仰している宗教は教えで動物の肉を食べることや他人と調理器具を共有することは推奨されていないんだ。だからすまないが遠慮させてもらうよ」

「そうなのですか、これは失礼いたしました。でしたら、大したものは出せませんが私の家で食事といたしましょうか」

 そう言うとファラスはラディーニを連れて自宅へと向かった。

道中、ラディーニはファラスに向かって素朴な疑問を投げかける。

「ところで、邪神っていうのはどんな神なんだ? 封印するほどの理由が知りたい」

そう告げると、ファラスは重い口を開いた。

「邪神は毎年我々の命を奪うために作物を枯らせるのです。それだけではありません。およそ六十年に一度ほどの頻度で流行り病を流行させたり、洪水をおこしたりとやりたい放題なのです……

 ですから神託の下った百三十年前から封印を試みている、というわけなのです」

それだけ言うと、あとはもう話したくはないといった雰囲気を漂わせながら、ファラスは自宅へ歩を進める。

「食事を摂ったら旅路を共にする仲間となる者達を紹介しますね。なかなか個性の強い人達なので、お気をつけ下さい」

 そう言われて食後にまず案内されたのは魔法薬を扱う店だった。

 店内は香草の臭いに包まれており、換気が十分になされていないのか空気がよどんでいるような感じがした。

「バーバラおばあさん、エネルトリオは今工房に?」

 ファラスがそう店番をしていた老婆に話しかけると、奥の扉がタイミングよく開いて少年が出て来た。

「ファラスさん! お久しぶりです。もしかしてそちらの方が……?」

「ああ、紹介しよう。アニク・ラディーニさんだ。

 ラディーニさん、こちらはエネルトリオ・ラザニエ。この若さでこの国一番の魔法薬師なんですよ」

「凄いな。いくつなんだ?」

 ラディーニの問いかけにラザニエが答える。

「今年で十五歳になりました。もう立派な大人ですよ!」

 そう言うと自信たっぷりに胸を張った。

「じゃあ彼が、俺の邪神封印の同伴者なのか?」

「ええ、そうです。あと二人いますのでまたついて来てください」

 一旦ラザニエと別れを告げて向かう次なる場所は兵舎だった。

「ガンボール、勇者候補の方を連れてきましたよ」

 ガンボールと呼ばれた兵士訓練の指揮を執っていた教官的立ち位置のガタイのいい男性がにこやかな顔つきで振り返った。

「おお、ようやくか。待ちわびたぞファラス」

 喋りながらガンボールはズンズン近づいてくると、ラディーニを頭のてっぺんからつま先までじっと眺めた。

「ここ数年の勇者候補とはまたえらく違った奴が来たな。名前は?」

「アニクだ、アニク・ラディーニ」

「年は?」

「二十五歳だ。今年で二十六になる」

 ふむ、とそれを聞いたガンボールは腕を組んだ。

「鍛えるにはちいと遅いが、まあ何とかするさ。剣術の訓練と前衛は任せな。イエールのとこはこれからか?」

 ガンボールがファラスにそう尋ね、彼が頷く。

「ああ、彼女は普段ヴァイダーン湖の湖岸にいるからな。これを機に一度王国に入国してもらうつもりだ」

 ファラスはそう言った後ガンボールになにやら手紙を手渡し、その場をラディーニと共に後にした。


「確かここら辺にいるはずなんだが……」

 一度王国を出て、森に囲まれた湖畔でファラスはそう言いながら辺りをきょろきょろと見渡す。

 先に彼女を見つけたのはラディーニの方だった。

「あそこで水浴びしているのがそうか?」

 彼が指さす先にいたのは荒い手作りに見える肌着を身にまとったまま、湖の水を体にかけている褐色で耳の長く尖った若い女性だった。

「ああ、そうだ……おーい! イエール! 勇者候補のアニク・ラディーニさんを連れて来たぞー!」

 そう大きな声で呼びかけると、彼女は振り返り湖を泳いで近づいて来た。

「へぇ、この人が新しい勇者候補? 意外とハンサムね。褐色の勇者候補の人は初めて見たわ。

 私はエルフのイエールよ。よろしく」

 彼女の差し出した手を握り返してラディーニも返事をする。

「こちらこそよろしく。イエールはどんなことに長けてるんだ?」

「彼女はエルフの使うことができる上位魔術と弓に長けています。今まで四十二回も勇者候補と行動を共にして一度も死んでいない強者です」

「そいつは凄いな」

 ラディーニが感心している間に、ファラスはイエールを何とか説得して王国内へ入るように促していた。

「いやよ。人口建造物が多いところはマナが濁っていて苦手なの、知ってるでしょ? なにかメリットがあるなら別だけど」

 それに対してファラスは仕方がないといった具合に渋々切り出した。

「王国記録保管庫にある最上位呪文の一つを習得することを許可する。それでどうだ?」

「いいの? やった。それなら今すぐにでも行ってあげる」

 そんなわけで、エイールが支度するのを待ってから三人は再び王国へと戻る道を歩いて行った。

「それで? 今回はどんな風にスケジュールを組んでるの? 彼にはどれくらいの日数訓練が必要?」

「彼の実力は未知数ですのでまだ何とも。しかし早ければ一、二ヶ月ほどで出発できるでしょう」

「訓練って剣術とか弓術の訓練のことか?」

 ラディーニがファラスに尋ねると、ええ、と返事が返ってくる。

「紹介の通り剣術はガンボールが、弓術と傷の応急処置についてはイエールが教え込みます。明日から始まりますので今日は我々の用意した宿屋のベッドでお寛ぎ下さい」

 そう言われて案内された宿屋の一室で、二人と別れた後でラディーニは疲れから横になるとすぐに眠りについた。

 これから長い訓練の日々が来る。と、誰もがそう思っていた。

 しかし、すでに邪神の魔の手は王国へと確実に近づいていた。

 そして午前三時三十分、敵の襲来を告げる音でラディーニは目を覚ますこととなる。

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