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二話 王の怒り、蓮の如き乙女。

 ラディーニがツァーバーミント城の城門をくぐり、大広間を抜けて謁見の間まで進むと、衛兵から話を伝え聞いたファラスからしばらく待つように言われた。

「あなたには無用な心配だとは思いますが、くれぐれも無礼の無いようお願いします。取るべき仕草などはその都度私が教えますから、慎重にどうか言葉をお選びください。

 王は寛大な心の持ち主で人格者ですが、度を越した無礼者にはしっかりと罰をお与えになるお方です。どうかそのことはお忘れなきよう」

 ラディーニはボリウッド(インドのハリウッド)の有名俳優という職業柄、様々なセレブや政界での著名人に会うことも多かったため、気を引き締めなければな、と気を張った。

「国王陛下、サーフォスリア・ジャラグッド王。そのお妃、ガウリカ・ジャラグッド女王の御入場ー!皆、剣を掲げよ!」

 衛兵の一人がそう言うと謁見の間を囲う様に立っている衛兵たちが同時に剣を抜き、上空へと剣を持った腕を伸ばした。

 奥から紅色の布地に見事な金刺繍の施されたマントをつけ、煌びやかで様々な色の大きな宝石のついた杖を持った国王、サーフォスリアが玉座につく。

 続いて、こちらは光の当たり具合によって濃淡の変わるとても美しい紺碧のドレスを身にまとったガウリカ女王が姿を現し、サーフォスリア王の横に座った。

「ファラス、その者が今年の勇者候補か?」

 王は落ち着いた、聡明そうな声色でそう尋ねた。

 ファラスは片膝をつき、頭を下げて返事を返す。

「はい。その通りでございます。このお方、アニク・ラディーニ様が此度の第百三十代目勇者候補になります」

 ファラスに目線で挨拶を促されたラディーニは、ファラスを参考に自分も片膝をついて頭を垂れて挨拶した。

「お初にお目にかかります、インディアという国から来たアニク・ラディーニと申します。この度は城へのお招き感謝いたします。一国の王にお会いできることなどそうある経験ではありませんので」

「まあまあ、そう固くならんでよい。それで、其方はどのような男なのだ?」

 そう尋ねられたラディーニは、自身が元の世界では役者であり、国内では有名であったこと、ここで知った自身の特殊技能に関してなどを掻い摘んで王に話した。

「……なるほど、シヴァという神は知らないが加護を持っているというのは実に興味深い。そのような技能持ちは何年振りだったかな……?」

「三十七年ぶりになります」

 尋ねられたファラスがそう返し、更に言葉を続ける。

「見てお分かりのようにラディーニ氏は近年の勇者候補たちとはどこか違うように思えます。召喚時も大聖堂ではなく、カーティス川の中に現れ激流の中川を上ってきました。

 今年は期待してもいいのではないですか?」

「なに? この時期のカーティス川を上ってきたのか? そのようなことができるとは……確かに見込みがありそうだ」

 そう言って王が納得し、女王もそれに合わせるように頷いていると、謁見の間の扉が勢いよく開いた。

「お父様! 勇者様がいらしているのにどうして私をお呼びにならなかったのですか?」

 そう言って玉座へ近づいていくのは女王の着ているドレスよりはやや見劣りするものの、やはり豪華な洋服を着た若い女性であった。

「サリー、まずは落ち着きなさい。客人の前ではしたないとは思わんのかね。それと、今来ているのは勇者ではなくあくまで勇者候補のお方だ。もう少し品のある行いを心掛けなさい」

 王がそうたしなめるも、サリーと呼ばれた王女は玉座のある場所を降りてズンズンとラディーニの方へ近づいてきた。

「さあ、顔をお上げになって下さい勇者様。ぜひとも邪神と戦う前にその姿を見ておきたいのです」

 そう言われては仕方がないと、ラディーニはゆっくりと片膝をついたまま顔を上げた。

 二人の目線が合い、初めてお互いの顔を見る。サリーは国の誰が見ても恋に落ちずにはいられない、そんな外見の持ち主で、先ほど垣間見えた強気な性格もラディーニの好む女性像に近かった。

 王女から見たラディーニという青年もこの国には珍しい褐色の肌をした整った顔立ちの好青年だった。

 これ以上言葉を交わさずとも、二人の中にはお互いをもっとよく知りたい、距離を縮めたいという思いが芽生えた。

「さあほら、彼から離れなさいサリー。彼も困ってしまうだろう」

 王の声を聞いてハッと我に返った王女は頬を染めながらそそくさと玉座のそばに戻った。

「ジャラグッド王、二つお聞きしたいことがあるのですが、発言の許可をいただけないでしょうか?」

「許可しよう。貴殿は近年の無礼な勇者候補とは違う何かを感じる。なんでも言うがよい」

「ではまず……全てが終わった暁には、私は元の世界に帰れるのですか?」

 ラディーニにとってこれが一番の心配要素だった。

 今の状態では元の世界に残してきた未練が多すぎるためだ。

「それはもちろんだとも。召喚から一年の間を置かなければ儀式は行えないが、貴殿を元の世界へ帰す魔法を行使することは可能だ」

 それを聞いてラディーニは一安心した。

「もう一つの質問とは?」

 王に先を促されラディーニは言葉を続ける。

「私が邪神を封じることに成功した時は、何か報酬のようなものはあるのですか?」

「もちろんだとも。貴殿の好きなものを可能な限り、なんでも与えよう」

 そう王が言ったのを聞いて、ラディーニは間髪入れずに聞き返した。

「ではその時に娘さんを私の世界へ連れて帰り、結婚相手として迎えることも可能ですか?」

 そんな本人のいる場での告白ともとれる大胆な宣言に、王女は先ほどよりさらに赤面し、今や耳まで赤くなっていた。

 しかし、王の顔はその逆、険しく半ば怒りも混じっているように見えた。

「馬鹿を言うでない。どこの馬の骨とも知らぬ、身分も定かではない男の元に娘をやるわけにはいかん。それだけでも我慢ならんというのに、どことも知らぬ場所へ連れていくなど言語道断。許すわけがなかろう」

そう静かに怒りをあらわにした王に対して、王女が反発する。

「お父様!私のことは私が決めることです。私は邪神が封じられた後であれば別にこの方と……」

 そう喋っていた王女の言葉を王の怒鳴り声が遮る。

「お前は黙っておれ! ……すまない。取り乱したな。今の姿は忘れてくれ。よいな、ファラス?」

「はっ、私は何も」

「よろしい。ではアニク・ラディーニよ、城を出て邪神ラーヴァローガを封じるための戦いへと向かうがよい。全てを成功するまではこの城の門をくぐることを禁ずる。よいな?」

「……仰せのままに」

 これ以上はなにを言っても自分の立場を悪くするだけだと判断したラディーニは、大人しく返事をすると謁見の間を後にした。

 必ずや邪神を倒し、王女のサリーと結ばれることを決意して。

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