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雨が降ってきた。
優しい雨も、時間が経てばびしょ濡れだ。服がべっとりと張り付き、髪もシャワーを浴びた後のように濡れていた。
アパートに帰ろうにも、こんな格好では電車に乗るのも憚られた。タクシー代を賄える金はない。明日には会社に行かなくてはならない。社畜のような一週間が再び待っていると思うと、揉み解したはずの脚は重くなった。
「つまらない人生だなあ」つまらなくしているのが自分自身だということは霞自身も分かっていた。それならばいっそ死んでしまっても変わりないんじゃないか――。
雨の弾く音がした。俯いて見ていた地面に影ができる。頭部で弾ける雨粒の感覚が消える。見上げれば、傘の骨組みが見える。後ろを振り返る。
「前世は人魚かな?」それはどういう意味だ? ずぶ濡れだから人魚? それとも、濡れた姿がとてもお似合いで、なんて皮肉?
何でもよかった。あんたの名前が望月蓼科でなければ、あんたでよかった。