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無明の昇華  作者: 面映唯
第四章
43/48

 比較的真面目な男子生徒くんは、ちゃんと二万を持ってきた。


 僕は渡されたそれを手にした。


 すみません、と泣き叫びながら男子生徒は足早に去っていった。


 霞に札を二枚手渡した。


 霞が一枚僕の方に差し出してくる。


 僕はそれを無視し、比較的真面目な男子生徒くんがなぜ泣き叫んでいたのだろうかと残像を追っていた。




 さっきの男子生徒。


 仮に二万円持ってこなかったとしても、僕らの前に来て頭を下げれば咎めることはなかった。それは、今まで何十人と恐喝してきた根暗な男子生徒でも同様だった。脚をすくませ、情けない状態――声を震わせ、どもりながら謝る――。惨めで、憐れで、格好悪い。それでも頭を下げてくる奴から金を取ろうとはしなかった。


 理由は大したことではない。金を渡されることに意味があるのであって、金に興味はない。僕に確立した人格や哲学などない。


 しかし、約束をしたにもかかわらず、現れずにとんずらをこく生徒に容赦はしなかった。


「約束は守らないとねー」


 霞がねっとりとした目つきで男子生徒Bの前に立ち塞がった。どうやら、彼はホームルームを終えると、そそくさと家に帰ってしまう予定だったみたいだ。彼が振り返ると、そこには僕が立ち塞がった。僕は霞みたいにねっとりした目つきで威嚇したつもりなどないのだが、僕の顔を見ると、男子生徒Bは化け物でも目にしたみたいに腰を抜かした。そんなに僕って面が怖いのかなあ。


 ここまですれば大抵の奴は財布から金を出す。それは一万であったり、千円であったり、五百円であったり。


 僕は特に金の量にはとんと興味がなかったので、「すみません……これしかないんです……」金を渡され受け取れば開放してやった。


 一人から多く取るよりも、多くの人から少なく取った方が効率的だし、被害者たちにも優しいだろう。


 そうやって僕らは、学校の半分くらいの生徒から金をゆすり取っていた。


 もちろん女子生徒以外。


 教師も同様だった。


 普遍的な人には多少なりとも罪の意識がある。僕はトイレの個室に鍵をかけた。あの狭い密室空間で、それも放課後日が落ちて数時間経った暗がり、そこに立っているだけで男子生徒から脅えられる僕が無言で詰め寄る。大抵の人間は、そこで危機感を抱くだろう。そもそも性交をすること自体が、この業界では禁忌、アンタッチャブルなのだから当然だろう。


 しかしこの教師は違った。


 馬鹿が開き直るとはこのことだ。


 鎌をかけて、「きっとそうに違いない」と信じ込む愚かな大人。プライドばかりが育ち、素直に「すみません」と口にすることもままならず、頭すら下げられない。


 そういう奴には、未来を想像させるのが一番の味噌だった。


 ジッポライターを開けたり閉じたりさせながら、首を左右に捻ってみる。細い目つきで見下す。教師の顔に思いっきり顔を近づける。目ん玉をひん剝く。その前にジッポライターの火を近づける。声は発さない。僕の仕草が何を意味するのか、プライドの高い教師に果たしてわかるだろうか――。


 結果、教師は十万をキミに手渡して消え去った。去り際、「いいか! 十万渡したんだからな! 俺は渡したぞ! それがどういう意味か分かってるよな!」焦りながら逆ギレという、非常に稀な人間の姿を目撃した。


 霞は札束から五枚数え、僕の方へと手渡そうとする。


 僕はそれを無視して、廊下の窓から見える月明りを眺めていた。


「綺麗だなあ」


 問いかけたつもりだったが、霞はそれを無視した。


 僕は目を閉じた。


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