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無明の昇華  作者: 面映唯
第三章
38/48

12

 眩しいもの格式形式ばったものが苦手。嫉妬する。比べてしまう。顔がよくて自分とほとんど変わりがないのに売名で売れている。優しい人だろうに話したこともないのにそれだけの理由で嫌われている相手はたまったものじゃないだろうが、有名人というだけで皆から丁寧な扱いを受けているなんて、普段から扱いが雑な自分と比較されて自分の醜さが染みる。優しい人なのに有名人というだけで目を背けてしまう自分が嫌い。政治家も、有名人も、警察も救急隊員の命至上主義で雑になる険しい扱いも、それが許せなくて不愛想になる自分の浮足立った仕草も全部、嫌。


 幸せも何一ついらないから楽に生かしてほしい。寿命はいらないから年金を今くれ。残りの寿命と年金をどぶに捨て、代用品になる何かを探している。その何かが何一つ輝きを放っていないしゃれこうべであって欲しいと祈った。


 額から汗が落ちる。


 ――僕だけを見ろよ――


 手袋は嫌いだった。だか、せざるを得ない。半透明のニトリルグローブが染まって、素材の色を隠していた。両手を伸ばす。小さなヒヨコを持つように掬う心臓。


 ――前に女の子が言ってたんだ。ファンや仲間に運よく恵まれ、ファンの人にも仲間にも愛してもらったけど、彼らの横には私だけじゃなくてもっと親しい人がいた。アイドルを通しての私であって、私だけを見ていてくれているわけじゃなかった。そういう仕事なのはわかっているけど、それがすごく私には辛かったって――


 心臓を後回しにし、別の臓器をゆっくりと取り出す。


 ――私の思う景色を共有できない。相手が私の何を好きになったか。上手くいかないね。こう思っちゃう私がおかしいんだろうけど――


 (くだ)にメスを入れる。


 ――寂しくて自殺するくらいなら、何もない自分でもそばに居られたかなって思ったりするんだよ――


 両手で心臓を持つ。


 ――そりゃ死にたくもなるだろ。本来狩りをする生き物がそれを禁止されたらどうやって昇華するんだ? 肉食魚が飯を食うか食わないか疑うのと同じだぜ? そういう風に作られた生き物なんだから仕方ないのにな。死ぬのが当たり前で死なないでいる奴らが素晴らしいんだ――


 ゆっくりと引き抜いた。


 ――お前らなんかに命の重さがわかられてたまるか――


 霞はステンレス台の上に心臓を置く。


 ――僕は無知だ――


 深い溜息が出る。薄暗い部屋、ワンルームに合わない白熱球の下、血まみれのビニールシートの上で額の汗を拭った。


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