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「泣いてるの?」
霞は目頭を、目尻を、伝った頬を指で拭った。鼻を啜った。
「この絵を見て泣けるとはいい感性してますね。きっとこれを書いた人もあなたと話せて嬉しいと思ってるんじゃないかなあ」
霞はまだ涙を拭っていた。
顔を上げると、ニューエラの帽子をかぶった男が後ろで手を組み、腰を曲げて霞の目をじっと見ていた。
「そういうことでしょ? あなたが泣いた理由は」
「なんで……」
「わかっちゃうんだよ。ずっと見てるとさ」
そう言うと、男は霞の胸の前に自分の差していた傘の柄を差し出した。霞が受け取ろうとしないのを見て、彼女の右手を取り、傘の柄を握らせた。
「あんまり長居すると危ないから行くね。あなたとはまた会える気がするよ。えっと、リングのお姉さん」
そう言うと、霞の手元から紙を取った。望月はその場を後にした。霞の潤んだ視界では、彼の顔をしっかりと把握することはできなかった。彼が歩いていく先も、歩いていった先も。
目を親指の腹で擦った。いつもみたく辺りを見渡すが、帽子を被った人は見当たらなかった。
傘に当たる雨音が煩くなっていた。




