集大成
よければぜひぜひ
「あークソ、俺なんて死ねばいいのに」
と自室にて虚無な目をして言葉を吐く青年、岡部マサル15歳。
非常に自己肯定感が薄くなぜか生まれてきてしまった自分の命を彼なりに生かしている
部屋を囲むアイドルとロックバンドのポスター、錆びた弦が取り巻くギター。
そして腕には無数のアムカ傷
「もうどうしようもない」とそう思っている。
マサルの家庭環境は幼い頃からとても中途半端であったそれも悪い意味で。
両親はマサルが3歳の頃から虐待を続けていた。
しかしマサルが欲しいものや食べたいものなど金銭面的な所では、両親は緩かった。
そして訳もわからぬまま小学校に入学し、小学3年生の頃人間関係に疲れ果て登校拒否、いわゆる不登校となる。
卒業式は校長室で開き不登校のまま中学校に上がった。
そしてマサルは中学2年生の頃自殺しようと色々な方法を試みたが死ねずに現在の中学3年生まで生きてしまっていた。
彼に今現在やりたいことは沢山ある、しかしそれをかき消す''何か''が彼を襲い全てを曇りに変えてゆく。
いくら泣いても誰も助けには来ない。
だが彼は泣くこと以外にできないとそう思ってしまっているのだ
「ああ.....震えが止まらない....もう嫌だ.....死にたい......死にたい.....」
体育座りでうずくまり全身を震わす。
遺書を書いてスマホのホーム画面に両方設定する。
泣きながらボーッとしていると、ふと過去に言われたことを思い出していた。
父親に「お前は社会不適合者なんだ!生きていても価値のない人間なんだ!」
と頭を打ち付けながら言われたこと。
母親に「お前がいるせいで.......お前なんか産まなきゃよかった...!」
と馬乗りになって殴られ続けたこと。
習い事先の先生に「こんなこともできないの?ならやめれば?」
と髪を掴まれながら言われたこと。
クラスメイトに「マサルくんってなんか暗くて怖いんだよね.....」
と言われたこと。
学校の先生に「うつ病か〜.....先生もわかる気がするなぁ.....」
と言われたこと。
カウンセラーに「首吊って死ぬくらいだったら腕とか切った方が.......まだいいんじゃない?」
と言われたこと、そのほかにも全部全部思い出した。
生きているのに何故か走馬灯でも見ているようだった。
また涙が溢れた。女々しいという言葉が似合う涙が、震えたまま我に帰った
「クソ.....なんで飛び降りすらできねぇんだ..........この根性なしが.......!」
物に当たることも自分を傷つけることもやる気力すら湧かなければそんなことしたくもなかった。
ただ、自分を貶す言葉を発することしかできなかった。
それは過去の自分に戻ってしまうからなのか我慢して優しさを保たなければならないからなのかはわかっていない。
体育座りのまま顔をあげ腕の傷を見ては、一番深く切った傷を撫でる。
「ああ.....そういえば.......あんなこともあったな........」
マサルが小学6年生だった頃、季節は夏で、当時とあるロックバンドに夢中であった。
そのロックバンドはライブ中にカミソリで額を切ったりボーカルの腕のアームカットをジャケットにするなどと世間一般で言えば過激であったが人気があるのは確かだった。
そしてその頃のマサルはちょうど生きることに疲れ果てていて、そのバンドが生き甲斐であった彼は影響され勢いのまま家にあったカミソリで腕を切ってしまっていた。
痛かった。涙すら出なかった。血が溢れでていた。一滴一滴。
綺麗というよりか汚く感じた。
ベットに座って切っていた。その時
「一ヶ所くらい深く切っても大丈夫だよね.....」
そう思いたった一ヶ所手に近い所を深く切った。
するとさっき切った場所よりも大量出血したので、焦ってベッドから降り走って洗面所に行き黒いタオルでリビングにいる母親にバレないように血を止めた。
そして血が収まった頃何を思ったのか血まみれになったタオルを洗濯機にいれてベッドに戻って何事もなかったかのように閉じこもった。
すると数時間後母親が洗面所に向かい血まみれのタオルを手に取り
「これ鼻血?もう捨てちゃうね」
と声をかけてきた。「馬鹿だな」と思った。と同時にバレていないと安心していた。
だが、心の中では「誰かに心配されたい」という承認欲求があった。
そしてその出来事から数ヶ月経ったとある日マサルはリビングで座っている母親の元へ行きわざと見せびらかすように無言で腕を見せた。
すると母親は「そんなことするんだったらネットなんてみるな!」
とヒステリックに殴られた。
その前から愛情というものがよくわかっていなかったが、その出来事があり尚更わからなくなっていった。
その時すでにもうこの世のどこにも居場所などないとそう感じていた。
世間で言う''普通の家庭''とやらにとても憧れを抱いていたし、生まれた時からずっと劣等感を感じていた。悔しかった。悔しかったのだ。
両親のセックスから生まれ、快感から生まれ、両親らの自己満足で生まれ、僕と言う存在などちっぽけなのに、どうも悔しかったのだ。
「みんな羨ましいな、きっと家庭内では欠かせない存在で愛されているんだろうな」
教室の隅で眠るふりをしてずっと周りを見ていた。
周りにいる同級生がヒーローに見えた。笑っていて、キラキラして見えた。嫉妬の域を超えて、ただの羨ましさが残った。嫉妬なんかしたって無意味なのだから。
「死にたい」と両親に相談すれば「死ねばいい」といわれ祖父や祖母に血まみれになった腕を見せれば困らせた。
「一度でいいから......ロックスターになってみたかったな......」
座る気力がなくなって布団に倒れる。
「誰かに必要とされたい.....でももうすぐで死ぬし.......」
もうわからなくなっている。
全て忘れたい。5秒でいいから。とそう思うしかなかったのだ。
全消しされた部屋の中で「飛び降りたい」と呟き誰かの人生に少しでも良い影響をもたらしたいのにそんな存在にもなれぬまま死んでゆく。
「愛とはいったいなんなんだ
幸せとはいったいなんなんだ」
物事には意味があるだなんてそんなことわかっていたのに惨めなマサルはただボーっと、暗闇の中で眠気が来るのを待った。
親とは家出をし決別。祖父と祖母の家に逃げるが、
お互いに喧嘩ばかりしマサルの存在は日に日に薄くなってゆく消えてゆく、消えてゆきたい。
頭には信用のできるたった一人の大切な人と「自殺」と言う言葉が浮かんだ。
天井に右手を上げて、小指に嵌められた歪んだリングを取って眺める。
「もし飛び降りて僕が幸せになって、会いたい人とも会えなくなって二度とこの世に生まれて来れないってなったら.......寂しいけどなぁ......」
独り言が部屋に響く。パキシルが彼を濁らせる。
瞼が重くなってゆく。
目を閉じてマサルは息を引き取るように眠った。
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