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【クリスマス用短編】サンタク

作者: みまり

令和版に書き直しました。

時季ネタですw



「あ、お母さん? うん、お正月の件。今年はカレンダーはいいけど、帰省はちょっと止めとくよ。我慢して大人しく家にいるつもり……えっ、クリスマスに彼氏? そんなのいるわけないじゃん。じゃ、切るよ、また連絡するね」


 通話を切ると、わたしはベッドに突っ伏した。


 全くお母さんは……その話題が嫌だから、実家に帰らないようにしてるのに。


 わたし、早川はやかわ いこい27歳、独身。

 目下、絶賛彼氏募集中。

 現在、クリスマスの予定、全くなし。


 わたしは、重たく感じる体を無理矢理起こすとテレビをつけた。朝の番組が明日のクリスマス・イブの話題で盛り上がっている。


 ふん、どうせお独り様だよ。

 休日はいつも家に引きこもってますよ。


 悪態をつきながら、ふと職場の後輩の新田にった君の顔が浮かぶ。

 わたしより2つも年下で、入社3年目。

 入社時はわたしが指導係で面倒を見た後輩だ。


 べ、別にあんな奴、関係ないし……。


 わたしが頭の中で彼の存在を全否定していると、来客を告げるインターホンが鳴った。


 う……どうしよう。

 部屋着は外へ出ても大丈夫そうな格好なので良いのだけど、化粧してないし。

 まあ、どうせマスクするから、わからないだろうけど。


 ここは居留守を使おうかと一瞬思ったけど、管理人さんが昨日用があるって言ってたなと思い直して入り口に近づく。

 インターホンの画面を見て、わたしは固まった。


 そこにはびっくりするようなイケメンが映っていたからだ。


 ただ、恋愛ドラマに出てきそうな俳優のような彼のコスチュームは赤い帽子に赤い服……まさしくサンタクロースだ。


「あのぉ……わたし、ピザなんて頼んでないですけど」


「僕はピザ屋さんではありません。早川憩さんですよね。貴女にお話があって来たんです。ドアを開けてもらえませんか?」


「え、何でわたしの名前……」


 表札には『早川』とだけ表記し、名は載せていない。


「とにかく、直接会ってお話したいのですが……」


 いつもなら、決してそんな誘いには乗らないのだけど、つい無用心にも扉を開けてしまう。


 だって、どうしても実物見たかったんだもん。


 そして、実物は画面越しより数倍、かっこよかった。


「で、用件は何ですか?」


 わたしは彼の顔に見とれながら、機械的に尋ねた。


「はい、僕はこういう者です」と彼は名刺を差し出す。


 受け取った名刺は白のシンプルな縦書きの名刺で、彼のイメージと少し違った。


『全日本サンタクロース協会 ○○市支部長 白木三汰』


「サンタクロース協会?」


 あまりの胡散臭さに正気に戻るわたし。


「ええ、そうです。全日本サンタクロース協会の白木と言います。憩さん、先日ネットでアンケートに答えてくれましたよね。それで参った次第です」


 アンケート?


「そんなのした覚え無いんですが……」


「え、間違いありませんよ。5日前の午後11時23分です」


 あ、その日は新田君が彼女と一緒にいるのを街で見かけてヤケ酒飲んだ日だ。パソコンしたまま寝落ちして、朝起きたら顔にキーボードの跡がついてたっけ。

 どうやら、酔っ払ってアンケートに答えたみたい。

 全然、覚えてないけど。


「そうなんだ……で、そのサンタ協会がわたしに何の用なの?」


 開き直って強気に行くしかない。


「憩さんに耳よりな話を持ってきたのですが……その前に、玄関に入れていただいてもよろしいですか。あまり他人に聞かれない方が憩さんのためかと……」


「え……はい」


 白木さんの爽やかな笑顔に警戒感が薄れ、つい中へと通してしまう。

 まあ、すぐそばに交番もあるし、隣も在宅してるようだから、何かされそうになったら大声で叫べば、何とかなるだろう。


 中に入った白木さんは笑顔のまま質問してきた。


「憩さんは、昨今のクリスマスについて、どうお考えですか?」


 直球の質問にわたしは適当に答える。


「別に……いいんじゃないですか、祝いたい人だけが祝えば」


 どうせ、わたしには関係ないし。


「その通りです。今のクリスマスは本来の目的を外れ、商業活動の一環と成り果てています。また、物が溢れる現代日本において本当に物質的貧困に喘ぐ者も限定されていると言ってよいでしょう。サンタクロースがプレゼント与える使命は終わったと考えても差し支えありません」


「はあ……」


「そんな中、我々全日本サンタクロース協会は物質的貧困者をターゲットにするのを止め、精神的貧困者にターゲットを変更することに決めたのです」


「え?」


「はい、憩さん。貴女は精神的貧困者に認定され、プレゼントを受け取る権利が発生しました」


 わたしが精神的貧困者って……何だか嬉しくない。

 どこが貧困だって言うのさ。


「べ、別に困ってませんけど」


「いえ、アンケートによると貴女はクリスマスに彼氏と過ごすと言う夢を果たせずに死にたくなっていると答えています」


 な、何て回答を……わたしの馬鹿。

 5日前のわたしを殴り飛ばしたい気分になる。


「ですから、クリスマスイブに、不肖この私が貴女の彼氏を務めさせていただきたく参上いたした次第です」


「へ?」


 今、このイケメン、何て言った。

 わたしの彼氏になるのならないのって言った?


「あの……彼氏って」


「はい、クリスマスの2日間、全力をもって貴女の彼氏を務めさせていただきます」


 な、何を言ってんの、この人。

 性質の悪い悪戯かとも思ったけど、白木さんは大真面目のようだ。


「そ、それが精神的貧困を救うことになるんですか。何か一時しのぎみたいに思えますけど」


「少なくともクリスマスの間は幸せになれるように全力を尽くします。後はその経験を元に本当の彼氏を見つけていただければ……」


 この荒唐無稽な話が本当なら、悪い話じゃなかった。

 白木さんの整った顔と高身長を見ながらわたしは唾を飲み込んだ。


「あの……お金かかるんですか?」


「もちろん、無料です。我々は非営利団体ですから。それと貴女の身の安全は確実に保証します、いろいろな意味で」


 意味深な発言にわたしは顔が赤くなる。


「それと、これは強制ではありません。拒否するのも憩さんの自由です」


 ど、どうしよう。

 何だか、話が上手すぎてどこかに落とし穴があるような気がしてならない。

 でも、わたし貯金なんてほとんどないし、顔だって美人じゃない。

 騙すメリットが白木さんにあるようには、到底思えなかった。


 わたしが思い悩んでいると、再びインターホンが鳴る。


「ちょっと、ごめんなさい」


 白木さんに断わって画面を見ると、そこにはまたもイケメンが映っていた。


「すみません、真日本クリスマス協会の者です。お話、よろしいでしょうか?」


「あれ、白木さん。お仲間が来たみたいですよ……」


「あ、待ってください」


 わたしがドアを開けるのと、白木さんが制止するのは同時だったが、わずかに間に合わなかった。


 ドアの前に立っていたのは、白木さんとは別のタイプの知的眼鏡イケメンだ。


「白木!」


「黒部!」


 突然、火花を散らす二人。


「ど、どういうこと……?」


「こいつらは異端なのです!」


 二人の声が揃う。


 差し出された名刺には『真日本サンタクロース協会 ○○市支部長 黒部参太』という文字。


 全日本と真日本……?

 どうやらライバル関係にあるらしい。

 しかも、わたしはそっちの協会のアンケートにも答えていたようだ。


 ホント節操が無くて、ごめん。


 当然、黒部さんの目的も白木さんと同じで、わたしの彼氏に立候補してくる。

 わたしが決められないでいると、二人は互いに負けられない雰囲気になり、競り合いが始まった。

 何処そこの三ツ星レストランでディナーをと白木さんが言えば、黒部さんは夜景の綺麗なホテルのディナーを提示する。

 デートコースもリムジンで送迎と黒部さんが言えば、白木さんはヘリを用意すると言い、どんどん豪華というかとんでもない話になっていく。


 わたしが頭を抱えていると、三度目のインターホン。

 嫌な予感がして、恐る恐る画面を覗くと新たなイケメンが……。


『正日本サンタクロース協会 ○○市支部長 赤坂讃多』


 もう、勘弁して欲しい……。


 三つ巴の戦いを繰り広げられるのを眺めながら、わたしは玄関に座り込む。


 何だか泣きたくなってきた。

 わたし、前世で何か悪いことでもしたんだろうか……。


「やはり、これは憩さんに決めてもらうしかありません」


 物凄い勢いで三人がわたしに迫ってくる。


 だ、誰か助けて……。


 その時、スマホの着信が入った。わたしは救いの神のように通話に出る。


「あ、先輩。今、いいですか?」


「新田君……」


 思わず涙声になる。


「ど、どうしたんですか」


「……ん、何でもない。何か用?」


 今の状況を説明するのが面倒で言葉を濁す。


「あの……先輩、明日のクリスマスイブ、何か予定ありますか?」


 目の前の争いをちらっと見てから、わたしは答えた。


「今のところは未定だけど……」


「じゃ……ぼ、僕と食事にでも行きませんか?」


 突然の申し出に呆気にとられる。


「で、でも……新田君、彼女いるんじゃ……」


「え、いませんよ」


「嘘、この間、女の子と一緒にいるとこ見たんだから」


「あ……それ、きっと従姉妹です。彼氏に送るクリスマスプレゼントの相談を受けてただけですよ」


 え、そうなの……心配して損した。


 わたしの中のわだかまりが見る見るうちに溶けてなくなる。


「で、どうでしょう? デートの約束は……」


 息を飲んで、わたしを見つめる三人のイケメンを見比べながら、わたしはゆっくり答えた。


「もちろん、喜んで受けるわよ」


やっぱり、ほどほどが一番だと思いますw

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無料!後でオプション料とか飲食費とかぼったくられそう。 [一言] 三人のイケメンを侍らせれば三年分くらいの鬱憤が晴れるのでは? もしくは、今後三年間ボッチでも
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