あたたかな天気雨
あたたかな天気雨
たぬきのポッペと、きつねのコンキチは大のなかよし。
コンキチには、年のはなれたおねえちゃんがいます。
ポッペがあそびに行くと、家の中はいつも、アップルパイやケーキをやく甘いかおりでいっぱい。三時になるとおねえちゃんが、お茶と、できたてのおやつをごちそうしてくれるのです。
おりょうり上手なおねえちゃんは、えんそくの日のおべんとうや、おたんじょうかいのごちそうも、コンキチのために腕をふるいます。
そればかりではありません。おねえちゃんはピアノやオカリナもとくいで、ならいたいという友だちには、ていねいに教えてくれました。
きれいでやさしいおねえちゃんは、コンキチの友だちみんなのあこがれでした。
「いいなあ。コンちゃんとこは」
うらやましそうにつぶやくポッペに、かあちゃんがいいました。
「コンちゃんとこは、おかあさんが病気がちだからね。おねえちゃんがいてくれないとこまるし、コンちゃんもさびしいよね」
ある日のこと。
コンキチが、たぬき山に行こうとポッペをさそいました。てっぺんまでのぼれば、町のようすがひとめで見わたせる高い山です。
コンキチはずっとだまったまま、もくもくとのぼりつづけました。
たぬき山の頂上につくと、コンキチは遠くの山を見てぽつりともらしました。
「あのさ……もうすぐねえちゃん、いなくなるんだ」
「え? どういうこと?」
「およめに行っちゃうんだ。山の向こうの、そのまた山の向こうの……」
めったに会うことのできない、遠い遠いところにおねえちゃんは行ってしまうというのです。
「おれ、その日はここで見送りするって決めてるんだ」
コンキチはぎゅうとくちびるをかみしめます。
「……そのときはさ、ぼくもいっしょにいてもいい?」
ポッペはそっとコンキチのかたに手をのせました。
コンキチはこくんとうなずきました。
数日後のこと。
空は明るいのに、ぽつぽつとふりだした雨を見ながら、かあちゃんがいいました。
「もうすぐコンキチくんのおねえちゃんのおよめいりかもしれないわ。天気雨はきつねのよめいりっていうからね……」
ポッペがいそいでたぬき山にのぼってみると、そこにはすでにコンキチがいました。
「きのうの夜、ねえちゃんにいわれたんだ。あとをおねがいねって。おかあさん、大切にしてあげて。おとうさんもねって。それから……」
「それから?」
「お友だちは一生の宝ものなんだよって。ポッペちゃんとずっとずっとなかよくするのよってね」
「……うん」
おねえちゃんが作ってくれたおかしのあまいかおりを思い出して、ポッペの鼻のおくが、つうんとあつくなってきました。
やわらかな雨はひっそりとふりつづきます。
やがて、馬にのった花嫁すがたのおねえちゃんを先頭に、長い長い行列がみえてきました。
「ねえちゃん!」
コンキチはくいいるように、じっと行列をみています。
そのとき、ポッペは、花嫁がこちらに向かって手をふったようにみえました。
糸のようにふりつづく、あたたかな天気雨。
それはきっと、おねえちゃんの心の中のやさしいなみだの雨にちがいないとポッペは思ったのでした。