92.魔獣とオオカミ、対なる熾烈 3
「にぁ! エンジさま、エンジさま!」
「あ、あれっ? リウ!? い、いつからそこに?」
「むふふふ~! あんなウサギ、リウの敵じゃないのにぁ! それに気づいたらいなくなっていたのにぁ」
「それは凄いな。いなくなってたって……もしかして」
レッテの咆哮をまともに浴び、身体中に痺れを感じながら魔獣の弱点のことを考えていると、リウの顔が突然俺の前に現れ、耳をピクピクさせながら嬉しそうにしていた。
「あー! せっかくレッテとヌシさまの空間だったのにー!! 邪魔するな、ネコ!」
「ふんふんふん~嫌なのにぁ! それにそれに、エンジさまもまんざらでもないのにぁ」
「ヌシさま、レッテがいる前でそれはあんまりですよー!!」
痺れの回復を待っているだけで俺が何かをした感触は無いのにどういうわけか、レッテが怒っている。逆にリウはとても誇らしげにしていて、尻尾を何度も回転させているようだ。
一体どうなって――!?
「ふみぁ、にぅぅぅ!! く、くすぐったいにぅ」
痺れている最中で気付かなかったが、どうやら俺はリウの両耳の間に顔を挟み、無意識に自分の顔を左右に動かしていたようだ。
せっかくのモフモフを感じられずにリウを間近で感じていたらしい。
「ムキィィィ!! ズルい、ずーるーいー!!」
「ふっふっふーん! エンジさまはリウのことが好きなのにぁ」
「いい気になるな、ネコ!!」
「……何にぁ? リウとやるのかにぁ?」
「待て待て待て、今はそれどころじゃ――」
魔獣の弱点を探るどころか、リウとレッテで戦いを始めようとしているなんて、これはまずい。
ようやく痺れが収まって来たこともあって、すかさずリウとレッテに向けてパラリシスで麻痺をさせようとした時だ。
『排除……排除……魔法を感知、排除実行』
ここまで動きを全く見せなかった亀の魔獣が、俺の魔法に反応して何らかの強い衝撃波を放って来た。
『う、うわっ――!?』
魔法攻撃では無く、物理的の見えない攻撃をまともに喰らってしまったようだ。
「にぁっ!? エンジさま!?」
「ヌシさまっ! あぅぅっ!? ま、間に合わない!!」
魔法であれば何かしらのイメージが浮かぶと同時にダメージを負うことが無い俺だったが、リウやレッテの飛びつきが間に合わないくらいの勢いで、俺はこの場から吹き飛ばされてしまっていた。
『フニッッ!!』
どこに飛ばされたのかまるで見当がつかないが、どうやらどこかにぶつかったようだ。視界は暗闇でここがどこなのか分からない。まずは自分の状態を冷静に確かめることにする。
どこかに衝突したせいか息苦しさを感じているが、体に感じるダメージはほとんど見られない。
強いて言えば、頭を強く押さえつけられている感じがするくらいだ。
痺れはほぼ無くなったが、直前に炎属性の魔法を放った影響があるのか顔を中心に熱を感じる。
『あわわわわ……!! エ、エンジさんが、エンジさんがーー!』
この声はレシスか? もしやどこかに衝突した俺の状態は最悪だったりするのだろうか。
『うっふふっふ……あぁっ!! こんな、こんなお仕置きをされるなんて! これはむしろ、ご褒美だとおっしゃっておられるのかしらっ!!』
ルールイは何やら興奮状態のようだ。
しかも悦びが沸き上がっているのか、力が込められているように思える。
どういうわけか興奮するルールイの動きによって、俺の熱も上がりまくっているようだ。
「う、うぅ……く、苦し――」
痛みは無いのに、顔中に感じるのは異様な熱さだ。そもそも俺はどこにぶつかってしまったのか。
『ルールイさんっ! い、いい加減、エンジさんを解放してあげてくださいー!! エンジさんは私を大人な女性に成長させる役目があるんですよ!!』
そんなことは不可能なんだが……いや、今なんて言ったんだ?
『何をおっしゃるかと思えば、小娘には理解出来ないものだったようですのね。アルジさまは、わたくしにお仕置きをする為に飛んで来てくださいましたのよ? 小娘にあれこれ口出しされる謂れはありませんわ!』
『エンジさんが吹っ飛んで来たのはエンジさんの意思じゃないことくらい、私にも分かりますよ!!』
『小うるさい小娘ですこと』
そういえば何か柔らかすぎる所に衝突したようだが、この暗闇と熱はまさか……。




