91.魔獣とオオカミ、対なる熾烈 2
「ヌシさまー、本気は出さないのですかー?」
「範囲魔法のこと?」
「はいでーす! この際だからネコたちが戦っている敵に当たってもいいと思いまーす!」
「この際って……」
俺が戦っている魔獣は背中に当たる甲羅部分に、大量の苔や海藻をへばりつかせた亀だ。
水属性の魔法は無駄と教えてくれている様に見えるものの、考えてみれば俺の魔法のほとんどは、水属性が大部分を占めていることに気付く。
プワゾンは毒の効果を持つが、水として認めてもいいだろうし範囲系魔法としては通用しそうに無い。レッテが言うように亀どころかみんなに巻き添え攻撃を決めるなら、爆発タイプを発動することになる。
しかし魔所に来た目的の一つにもあるように、今の時点で俺の魔法は全て攻撃タイプであり、他のみんなを守るような防御範囲魔法は覚えていない。
魔法効果を打ち消す敵には出会えたが、自らを守るような魔法をコピー出来ていないのが現状だ。
レシス本人に限っていえば絶対防御があるが、それはあくまで本人に限るものであって、仲間全てに効果が発揮されるものじゃない。
「むむむっ!? エンジさんが私を呼んでいる気がする!!」
「ちょっと、レシス!! ヒールに集中して頂けますかしら!」
心配な声が聞こえてくる気がするが、それは気にしないとして。
以前、絶対防御をレシスからコピーして恩恵を受けまくっていたものの、コピーの妨げになって成長しなくなるとかでその力はザーリンに奪われている。
彼女のしたことはある意味正しかったようで、レシスの固有スキルが無くなったことでその後の成長は著しい。
防御魔法の類を覚えるにしても、楽をして覚えられるものではないはずだ。
「ぎにぁぁぁ!?」
あちこちで心配な声が聞こえてくるが……、影響のある範囲魔法を使うべきかどうか。
「ヌシさまの魔法なら当たったとしても本望でーす! 遠慮なくじゃんじゃん使って下さーい」
「い、いいんだね?」
「分かってますよー! ヌシさまの魔法は優しさで出来てるってことをー」
コピーした俺の攻撃魔法というより、味方と敵を区別して攻撃が当たらないようにするほど俺の特殊スキルは成長しきっていない。
召喚魔法に関しては敵だけに当たり判定があるようだが、コピー魔法は敵味方に限らずにあたる。
レッテたちの強さを信じなければ発動できるものでは無いが……。
「ヌシさまの攻撃魔法が発動されたら、レッテは咆哮で相殺しますので問題ないでーす!」
「え、相殺?」
レッテの言葉には何か引っかかるものがあるが、彼女たちの強さを信じて威力重視の範囲魔法を放つことにする。
『危険察知……察知……反撃、反撃――』
魔獣が何かを呟き始めたが、それと同時に俺もリウやルールイたちがいる辺りに向けて範囲魔法を発動開始。
『ファ、ファイアーストーム! グラビトン! ついでに、スピンテール!!』
炎と重力魔法を同時に放ち、リウが戦う敵とレシスたちの前にいる敵に対しほぼ同時に直撃。
「ほえええ!? か、体が燃え……あれ?」
「こういう時あなたのような人間の傍にいて良かったと思うべきかしらね……」
ゴーレムに程近いレシスたちだったが、レシスの絶対防御は瞬時に反応。
おかげで二人は無事のようだ。
肝心のゴーレムについては俺からは見ることが出来ないが、あの二人に関しては心配する必要が無さそう。
それとは別に、リウに対する敵には効いているのだろうか。騒がしいレシスと違って、リウの声は聞こえてこない。
リウと敵はどうなっているんだろうか。ほんの一瞬、彼女のいる所を気にした時だった。
激しい衝撃音が耳を劈き、全身が痺れたような感覚になってしまった。
「う、うぅぅ……な、何だ、これ……」
「平気ですよ、ヌシさまなら。レッテの咆哮をその身で感じ、そのままコピーしちゃってくださーい!」
「コピーを?」
「はいでーす! きっとお役に立てる時が来るでーす」
そうか、今までは耳を押さえて聞こえないようにしてきたが、間近にいてまともに浴びた咆哮も魔法の類としてコピー出来るということか。
それにしたって全身の痺れが半端ない。魔獣には効いていないように思えるが、どうしたら弱点を突くことが出来るのか。




