86.駆け出し魔法士、天然娘からコピーしまくる!?
「とぉぉぉりゃああああ!!」
「いや、レシス。君は俺の後ろに……」
「いえいえいえ! ここは! わたしの出番ですよ~!!」
「そもそも君は回復士だから前に出る必要は……」
何故こうなった。
事の始まりはそもそも、レシスと相性の悪いルールイの発言によるものだ。
◇◇
「アルジさま。その娘の好きなようにさせて、わたくしたちはこちらの通路に進みませんこと?」
「い、いや、レシス一人だけ行かせるわけには……」
「別によろしいのでは? 絶対に傷がつかない人間なのでしょう?」
「むむむむむ~!! 何てことを言うんですか! わたしだって人の子なんですよ!? 全く全く! そういうルーさんは空を飛べるじゃないですか!」
「こ、こら、二人とも落ち着――」
「わたくし、あなたにはハッキリ申し上げますわ! あなたのように自己中心的な回復士が、アルジさまの負担になるのですわ! そのこと、自覚がおありですの?」
前々から仲が悪いとは思っていたが。
魔封門でのことが引き金になったのか、ここにきて我慢が出来なくなったようだ。
「それは違いますよ~だ!! そうまで言うなら、エンジさん!」
「え? 俺?」
「負担にならないことを証明してあげますとも!! さぁ、行きますよ~!」
「ちょっ……」
二手に分かれるつもりは無かったが、レシスに強引に引っ張られた俺は彼女と一緒に進むことになってしまった。
「にぁ~……行っちゃった」
「ヌシさまと一緒に行きたかったのに~」
「……ど、どうせ合流するはずですわ! わたくしたちも、もう一つの通路を進みますわよ!」
「しょうがないにぁ」
「それなら急ぐでーす!」
◇
リウたちと分かれてしまった。アースキンを帰してしまったのは早まっただろうか。
とはいえ、いたらいたで揉めそうだったし仕方がないと思うしかない。
「レシス! 少し止まってくれないか」
「もしかして、エンジさんお腹がすいたんです~?」
「……そうじゃなくて、どんな仕掛けがあるか分からないし突き進んでいくのは控えないと」
「ほえ?」
返って来る言葉が相変わらず的外れなレシスだ。さっきまで怒りまくっていたはずなのに、それすら忘れているのか本人はキョトンとしている。
「君は忘れたの? ここに入れるようになるまでみんなで苦労したのを」
「いえいえいえ! そんなはずありませんよぉ~」
「だったら……」
「これはわたしの意地なんです! ですから、エンジさんは安心してわたしの後ろをついて来てくださいっ!」
これはもう何を言っても彼女には敵わない。そう思って、言うことを聞くしかなさそうだ。
レシスについて歩いてしばらく経つ。事前にサーチしていたとおり、力の強そうな魔物の気配は感じられない。
それでも慎重に歩いていると、通路の壁から僅かな魔力反応を感じる。
しかし前を歩いているのが絶対防御を持つレシスだからなのか、すぐにその反応が消えているのは何故なのか。
「うおおおりゃあああああ!!」
「はっ?」
「エンジさんは下がっていてくださいよぉぉぉ!!」
「レシス……? 君は何をやっているんだ?」
「どこからか魔法攻撃が来てるみたいなんですけど、安心してください!」
「いや、しかし……んっ!?」
【ミストラルウィンド 霧と風魔法 風、水属性 範囲S 効果時間長時間】
【防御無視 コピー完了 編集可能】
ええ? 一体いつの間にコピーを。
しかもそれなりに厄介そうな魔法のようだが、見えない敵から遠隔攻撃でもされていたのか。
俺の前にいるレシスは妙な気合いを入れながらズンズンと進んでいる。
レシスにはあらゆる攻撃が効かないから心配はしていないが、しかし一体どこから魔法が飛んできているのか。
【ダークブレス 闇属性 対象の視界を奪う 追加効果 毒、呪い、麻痺】
【コピー完了 称号 一人前に昇格】
「うおっ!?」
ついつい声を張り上げてしまったが、まさかのランクアップとか相当邪悪な魔法だったようだ。
敵の姿が見えないのに次々とコピーが出来ていることには違和感しかない。
「エンジさん、ど、どうかしましたか?」
「あぁ、驚かしてしま――な……!? レ、レシス……その光は?」
「あれぇ!? わたし、光ってるんですか!?」
「絶対防御が効きまくっているせい……とか?」
「どうなんでしょう~?」
「ところで君はどこに向かって声を上げていたのか、聞いても?」
「それがですねぇ、何にもいないんですけど~何となく壁が怪しく見えてて、手当たり次第に杖で叩いているんですよ~!」
「壁を?」
レシスのことだから壁を攻撃しても不思議じゃないが、それにしたって謎過ぎる。
いや、まさか。
全身が光りまくっているレシスをよくよく観察すると、僅かだが魔力反応がある。
絶対防御の彼女に向かって何らかの攻撃魔法が当たったとして、攻撃が効かないから跳ね返って、俺にその魔法の効果が当たったということなのか。
そうだとしたらレシスを介して、コピーだけしまくっていることになる。
「とぉぉぉぉぉ!!」
当の本人は壁を攻撃しまくっているようだ。
「レシス! その辺で……」
「ゼーハーゼーハー……怪しい壁は全て叩いてみました! もう心配いりませんよ~」
「あぁ、ありがとう。レシス。君のおかげだ!」
「そ、それは、まさか!?」
そうかと思えばレシスの顔が急に赤くなっている。
何か変なことを言っただろうか。
「ん?」
「いよいよわたしのことを!?」
ああ、そっちか。
「……そうじゃなくてね、とにかく助かったよ」
「えっへへへへ!」




