83.駆け出し魔法士、ガ・クオン寺院の扉を開く 前編
「はわ~! エンジさんっ! 何なんでしょう、このギュオーってなってドォンみたいな建物は!」
「……うん、確かに言葉では表せないね」
レシスだけが外からの眺めに大興奮し、何とも不思議な彼女をさらけ出している。
ログナで初めて声をかけられた時とはまるで人間が違う、そう思い続けていたが……。
「にぁ? レシスならいつもあんな感じにぁん」
「え、そう……なの?」
「あい!」
どうやら素らしい。
一番レシスに接しているリウが言うことが正しいと言わざるを得ない。人間が苦手な彼女がレシスをそう見ているということは、単に俺だけがうわべしか判断していなかったことになる。
「ほらほらっ、エンジさん! 変な模様があちこちに描かれていますよ~! 触れちゃっていいですか~?」
「待った! 勝手に触れないでね!!」
「え?」
レシスは言っている傍から壁に手を触れかけるが。
見かねたアースキンがレシスの手を止めてくれた。
「あんな人間が一緒でこの先大丈夫ですの? アルジさまに何かあったら、わたくしどうなるか分かりませんわ!」
「ど、どういう意味かな?」
「うふふ……あとのお楽しみをご想像頂きたいものですわ」
ルールイが何とも艶めかしい動きを見せている。だがレシスに危害を加えるというわけでは無さそうだ。
興奮状態のレシスが大人しくなったところで、俺たちは建物の外観を眺め終える。
物々しさは無いものの荘厳な雰囲気がそう感じさせるのか、ラーウス魔所に魔物の気配が無くても警戒を怠ってはいけない予感があった。
「ふむ。ここの扉も魔法がかかっているようだな。どうする? 俺が開けるか?」
「じゃあ、よろしく」
「うむ。こういうのは賢者がすべきことだろうからな!」
魔封門に置いてけぼりにされなかったからなのか、アースキンはかなり上機嫌だ。
彼を連れて行くべきと進言したピエサは、用が無い限り口を開かない。
このパーティメンバーの中で危なっかしいのはどう見てもレシスだけ。他の彼女たちはそれぞれで警戒を高めている。
「ぬぅっ!? ぬぬぬぬ……」
「どうしたんです?」
「そ、それがだな……魔封門と同じように手をかざしているのだが、何も反応しないのだ。これはどうしたことだ?」
「うーん? 魔法で解除する扉であることは間違いないんですよね?」
「魔所というからにはそうに違いないのだが、何も起こらぬ。エンジがやってみてくれぬか?」
俺がやって開くならアースキンがいる意味は……。
「俺がですか?」
「おぬしの他に強い魔力を擁しているのは、あの危なっかしい娘しかいないだろう?」
「そうですね」
レシスに扉を触れさせると何が起こるか分からない……とまでは言わないが。アースキンも彼女の天然にはお手上げのようだ。
素直に自分で開ければいいだけだが、ここに来て俺は何故かリウを始めとした彼女たちに過保護にされている。そのせいでむやみやたらに魔法を使わせてくれなくなった。
「あれあれ~? エンジさん、どうしたんですかっ?」
「扉を開けようとね」
「エンジさん、エンジさん! この窪みって何なんでしょうか?」
「んっ? ――って、触れちゃってる!?」
レシスには何のためらいも持てないのか。
「何も起きてませんよぉ! でもでも、そこまで心配してくれるなんて……わたし、大事にされているんですねぇ」
何を勘違いしたのか、顔を赤らめながらレシスが身体をくねくね揺らしている。
「あぁ、うん……」
「ほらほらっ、ガ・クオン……何とかって書いていますよぉ?」
「ここの名前なのかな?」
窪みということは魔法を解く以外に何かをはめ込む必要が?
「ふむ……窪みがあるとは気付かなんだ。それで、どうすればよいのだ?」
「その辺に落ちている草とか石とかを入れてみるのはどうですかっ?」
「そんな適当な……」
「いや、モノは試しだ。やってみるか?」
アースキンもすっかりレシスに影響を受けてるな。
これは判断が難しい。
「ええ? ううーん……」
「承知ですっ! ではではっ、さっそく拾って来ますね~」
「ちょっっ――!?」
魔封門の教訓ということもあり俺とアースキン、それとレシスだけで問題を解決しようとしている。だが、レシスの言葉をまともに信じてしまう賢者もどうなのだろうか。
張り切ったレシスは待機しているリウに声をかけ、楽しそうに草をかき集めている。
「な、何で……」
「エンジよ、お主はあの娘に厳しすぎるのではないのか? たとえ可能性が無くても、試させてみるのも手だと思うぞ」
「しかしですね、草はさすがに無いかと……」
「あえて厳しく接しているようだが、お主が仲間として迎え入れたのだから優しく見守ってやるのもリーダーの役目だと思うぞ」
「いや、まぁ……」
獣好きな賢者に言われたくないと心の中で思ってしまったが、余裕が無いのは俺だけなのか。
「フェンダーは何ヲしているの? 難しくないコトヲ難しく考えている?」
「ピエサ? それが、ここの扉が開かないみたいで。何かの窪みがあるんだけど、何を入れればいいのか」
「……妖精の言った通り……フェンダーは甘えが過ぎル。ワタシが何の為ニ、ヘンタイを連れて来たノカ考えて欲しイ!! バカッ!」
「バ、バカって……手厳しいなぁ」
ザーリンの厳しさをインプットして来たのか、ドールのピエサは俺に考えろと言って来た。
賢者アースキンを連れて来たのは、俺に魔封を解くコピーをさせる為じゃなかったのだろうか。
「フェンダーが自分で分かったら、ごホウビをしてあげル」
「ん?」




