75.誤爆の盗賊衆、獣に狩られてしまう
これは痺れ魔法……?
それとも拘束系魔法なのか。
コピーのイメージが浮かばないということは、大したことは無い魔法だな。
リウも俺も特に気を付けることなくサーチもしていなかった。
だが獣道に入った途端の不意打ち。この魔法攻撃は賊か何かに違いなかった。
俺に向けて放って来た魔法の威力が正直言って、弱い。魔法耐性の無いその辺の兵でも、すぐに弾ける弱さだ。俺だけに狙いを定めて放ったのか、レッテたちには魔法がまるで当たっていない。
それなのに――
「よくも、よくも……ヌシさまに攻撃を当てたな……ガウゥゥ」
「許さないにぁ!!」
「ええ? な、何があったんです~?」
俺自身は痛みも無ければ効いていないのに、レッテとリウは怒りを露わにしている。レシスはそもそも絶対防御のおかげで魔法を自然と弾いているし、何が起こっているのか理解出来ていない。
ルールイの姿が見えないがどこへ行ったのやら。
「ガァァァァァウウウウゥゥ!!!」
「ぬわっ!?」
何をどうするか考えていたら、レッテは見えない相手に向けて咆哮を上げている。しばらく感じることのなかった彼女の咆哮。味方である俺ですらおののく程、身体中から明確な殺意を放っていた。
まるで地の底から響くかのような、何とも言えない威圧の音だ。咆哮の後、レッテはそのまま敵のいる場所に向けて駆ける。
咆哮によってなのか、俺に向けられていた拘束魔法は解け、辺りは静寂に包まれ――たかと思えば、少し離れた場所でリウの怒り声と爪で裂くような音が漏れ聞こえて来る。
リウも何気に強い。
ということもあり、遠くの木々がバリバリと音を立てながら根こそぎ倒れている。
「にぁぁぁぁぁぁぁ!! 喰らえ~~なのにぁぁぁぁ!」
魔法の不意打ちと言っても属性によるものでも無ければ、呪いの類でも無い。それだけに襲って来た相手がどうなっているのか。
「あ、あのぅ……レッテさんも、リウちゃんも一体どうしたんです~?」
「君は気付いていないかもだけど、どこからか魔法攻撃があってね。それも俺だけに」
「ええっ!? だ、大丈夫なんですか? 回復は必要ですか?」
「全然平気だよ。どうやら誤爆っぽいし、ダメージを与えるつもりが無かったのかは分からないけどね」
「誤爆……ですか? で、でもでも、エンジさんに攻撃して来たんですよね?」
たまたま俺に拘束魔法を当てたような感じがするし、そんなに強い相手じゃないはず。しかし俺よりも強い彼女たちを怒らせてしまうなんて、見えない相手に同情する。
「アルジさま!! こちらにおいで下さいませ。いえ、わたくしがお連れした方が早そうですわね」
「へっ?」
ルールイに声をかけられたと思ったら、そのまま彼女に掴まれて空を飛ぶことに。
「えー? わたしだけ歩きですか!?」
「道なりに歩いてくれば俺たちがそこにいるから、慌てずにー!」
「は、はいぃ……」
こういう時、レシスだけが不利な状況になってしまう。
さほど遠くない場所にリウと賊がいるっぽいので、彼女には頑張って歩いてもらおう。
「――殺してはいないんだよね?」
「リウは顔を引っ掻いただけにぁ。エンジさまの為なのにぅ」
「だ、だよねぇ」
「アルジさま。この人間らは事前に、わたくしが惑わしていましたの。アルジさまをも惑わしたアレですのよ?」
「あ、あぁ……アレね。いや、褒めないからね?」
「残念ですわ」
俺たちと少しだけ離れて飛んでいたルールイ。
ここで寝転がっている連中にいち早く気付き、惑わしのスキルである音波を使い、相手の動きを封じていた。
強そうに見えないが、獣道を通る冒険者を狙って拘束魔法を使用。
動けない間に所持品や金になるものを盗む小悪党といったところだろうか。
数人の小悪党がのびているのを眺めていると、俺の前にレッテが立っていて、何とも申し訳なさそうな表情でうなだれている。
「ヌシさま……お、驚かして申し訳ありませんです」
「あぁ、咆哮のこと?」
「はいです……前もってお伝えするべきだったです」
「驚いたけど、俺は一度聞いているからね。俺自身は何ともないから、気にしなくていいよ」
「ヌシさまぁ~! レッテは、もっと気を付けてお守りしますです~」
「うん、ありがとね」
レッテの咆哮は見えない相手に対する畏怖を含んでいた。だが彼女は言いつけを守ってくれたようで、殺気こそ凄まじかったが小悪党な賊の生命を脅かすまでには至らなかった。
「エンジさま~大丈夫かにぁ?」
「俺は何とも無いよ。リウもありがとうね」
「はいにぁ!」
たかが数人程度の賊が拘束魔法を使えるのも意外だけど、誤爆したら獣の彼女たちに返り討ちにされるなんて、思ってもみなかったのではないだろうか。
「……ぅ」
気付いたな。俺を狙ったのか、それとも単なる金品狙いなのか聞いてみるか。




