69.書記、駆けだし魔法士にランクアップする
「はぁ~~何だかすごい久しぶりに帰って来た気がする」
「わたしもですよ~! しかも、しかもですよ! 国になっちゃって名前も変わって、エンジさんが王様なんてびっくりですよ!!」
「はは、王様じゃないんだけどね……」
「エンジさまは王様なのにぁ?」
「うん、違うよ」
「にぅ」
ログナで建国宣言をした俺はログナを賢者アースキンとレッテに任せ、リウ、レシスと一緒に新たな国フェルゼンに帰って来た。
帰って来て早々に俺たちを出迎えたのは、フェンリルのルオと、彼女が作り出した広大な森だ。
「ご主人! 待っていたのじゃ!!」
「戻ったよ、ルオ。と言っても、ログナで会ったばかりだけど」
「確かにの。しかし、ご主人の地であるここに、ご主人は帰って来なかったのじゃ! だからとっても嬉しいのじゃ」
ルオはフェンリルの姿のままで俺を出迎え、よほど嬉しいのか、豪快に尻尾を回している。
ログナに来た時はさすがに人の姿になっていたが、ここでは獣の方が圧倒的に多いこともあって、思い思いの姿で出迎えてくれた。
「――全く、ヌシさまはお酷い御方ですのね。ネコと一緒にお帰りになるだなんて、わたくし、ずっとここでお帰りをお待ち申し上げておりましたのに!」
「あれっ? ルールイもログナの近くに移動出来たんじゃなかったの?」
「わたくしはこの近くに飛ばされましたの。ログナという所には、近づくことも出来ませんでしたわ」
「そうだったんだ。それじゃあ、今度は一緒にログナを歩こう。君さえよければね」
「し、仕方のないヌシさまですこと。ですけれど、どうしてもとおっしゃるのでしたら、喜んでお供致しますわ!」
ログナに飛ぶことが出来たのは、やはり俺だけだったようだ。
ラフナンではなく、獣たちを入れなくしていたのは魔法兵サランによる企みで、光を失った杖の禍々しい魔法を展開して、魔法障壁のような物を作り出していたということだろう。
「――こ、これが山奥の砦だった場所なのか。ルオの森もそうだけど、砦……いや、要塞!?」
「にぁぁぁ!? 本当にぁ……リウとエンジさまが暮らしていた時の面影が全くないにぁ」
広大な森を抜けた先は、自然の要害ともいうべく小さな砦窟程度だったはずなのに、今や機巧ドールたちによって、機械的な外見の要塞になっていた。
「ほええ……国の名前を変えたことも関係しているんでしょうかね~?」
「え、何で?」
「だって、今までは砦の名前を”アルクス”と呼んで来たじゃないですか。それが今は”フェルゼン”なんですよ? きっとドールたちも名前に相応しいものに作り変えたんだと思うのですよ!」
レシスの天然さは相変わらず変わっていないようで、杖が一時的に闇を帯びたことの影響は、全く受けていないみたいだ。
ラフナンを心配し許した彼女は、結局俺の元に戻って来たが、ザーリンはレシスを許してくれるのだろうか。
そういえばログナでも会えずじまいだったザーリンは、一体どこにいるのだろう。
「えーと、そこのキミ。ザーリンはどこにいるか知っているかい?」
見分けのつかないドールの一人に声をかけて聞いてみたら、帰って来た言葉は驚きだった。
「キミとは失礼な! フェンダーが名付けてくれたのに! もう忘れたの?」
「名付けた? え、俺が?」
見た感じはせっせと動くその辺のドールのように見えたわけだが、名前なんてつけただろうか。
「ピエサ! ひどいじゃない!! フェンダーのバカ!!」
「ご、ごめんなさい」
「フェアリーなら奥の花畑にいるんだから!! ふんっ!」
驚いた……名前を付けた時は、言葉のやり取りがドールそのものだったのに、普通の会話が成立出来ているなんて。
「エンジさま、リウはたくさん歩き回りたいにぁ」
「うん、行っておいで!」
「あい!」
リウと二人きりで始まった山奥が国となり、街……ではないけどまさかの要塞化。
ここの変化は、たとえ主である俺がしばらく留守にしていても、魔法成長によって更に変化を遂げていくことになるのか。
導きのフェアリーであるザーリンとは、しばらく会えていない。
奥の花畑に行けば、彼女がいる……そう思いながら、迷路のように入り組んだ要塞に入った。
トレース フェアリーの跡 ターゲット確定
自分の国でしかも砦だからなのか、中に入ると、外見とは別に以前と変わらない一本道のようになっていて、迷わず花畑にたどり着けた。
トレースを使う必要は無かったようだ。
「フェンダー、何?」
「いや、帰って来たから話がしたくて」
「それよりもあなたは見習いを脱することが出来ている。気付いている?」
「そ、それって魔法の?」
「それ以外にない」
「見習いからなにに?」
「駆け出し。手を出して」
「え? こ、こう?」
ザーリンに手を差し出すと、古代書を転写した時と似たような感じが浮かび、魔力そのものが上がった気がした。
ザーリンが認めればランクアップを果たすということなのか。
「あなたは駆け出し魔法士となった。フェンダーはこれからもっと成長するから、フェルゼンをもっと大きくしてね。期待しているから、頑張って」
「う、うん。あ、ありがとう」
驚いた。淡々と、それでいていつも通りのザーリンだと思っていたのに、励まされるなんて。
俺のランクアップと同時に、ザーリンの口調にも変化が起きたのか。
「フェンダーが魔法を極めれば、ここはどこよりも豊かになる。そうすれば、他のフェアリーもきっと――」
「え? フェアリー?」
「……数日はここで休んでいいから、ここに集まった獣たちからステータスをコピーしてね」
「うん、分かったよ。ザーリンは今後は一緒に来てくれないの?」
「あなたの成長は、私を強くする。離れていても……」
「そ、そうか」
少しは心を開いてくれたということなのか。
それにしても結構魔法を覚えたのに、それでも駆け出しとかまだまだだった。
スルーされてしまったが、もしかしてザーリン以外にもフェアリーがいて、この花畑に来てくれる可能性があるのだろうか。
とにかくまずは休んで、フェルゼンを見回ることにするか。
そして今度は、固定の仲間たちと一緒に旅を再開だ。




