67.回復士レシスと絶対防御
黒幕は魔法兵サランだった。
勇者ラフナンもしつこかったが、考えてみれば湖上都市からずっと付きまとって来たのは、魔法兵のサランだ。
ホールド魔法で拘束し、手に触れてコピーをしたが、それだけでここまでしつこく襲って来るものなんだろうか。
「勇者のしつこさを利用したとでも言いたいのか?」
「フフ、それ以外に何の利用価値がある? オレの狙いは初めからこの杖であり、この杖の輝きで貴様が崩した我がタルブックは再び力を得られるのだ!」
「杖というより属性石が狙いなのだろう?」
「同じことだ。その女が手にしている間は、杖に近づきも出来なかった。だが非力で知力の無さをひけらかす低劣な勇者のおかげで、ここまでたどり着くことが出来たというわけだ!」
ただの一国の魔法兵が、ここまで邪心に満ち溢れるものなのか。
答えがあるとするならば、ミーゴナの騎士たちから聞いたあの国の人間という可能性もあるし、一応聞いてみることにする。
「ゲレイド新国から来た人間……か?」
「――そこまで知っていて、オレを放って置いたか?」
「お前は何者なんだ? 何故俺をしつこく追い、勇者を騙してまで杖を奪おうとする?」
「書記……いや、魔法士ごときに答える謂れは無い。貴様が追い出してくれた勇者がいなくなったことは、オレにとって好都合。杖は返して貰う」
「そうはさせない!」
「――何っ!?」
「レシス、これを受け取れ!!」
「はい? うわったっとぉっ……光る石?」
光の属性石が無くても、レシス自身には”絶対防御”が備わっている。
しかし光の杖を手にしていたことで、その力が相当に強まっていたのは違いない。
黒く輝く杖は、炎と水で一時的に黒い魔力を封じ込めている。
光の属性石を手にした今のレシスなら、黒く成り下がった杖の輝きを取り戻せるはず。
杖が黒く輝いていたのは、手にした者の心を映した物だと感じられた。
ラフナンが洞窟で拾った時の杖がまだ黒く無かったことを考えれば、レシスによって明らかとなると見ている。
「レシス! そのまま杖に体当たりをするんだ!」
「ええっ? 杖にですか? でもでもでも、燃やされて濡れてしまいますよ~」
「責任は取るから!」
「そ、その言葉、信じちゃいますよー!! い、行きますよー!! と、とおぉりゃああああ」
レシスと別れてから、彼女の動きを全く知ることが無かった。
しかしこれは――
「な、何!? 何だその女……勇者の使い走りをさせられていた、最弱の回復士では無かったのか!?」
サランが驚くよりも俺が一番驚いてしまったが、レシスの素早さは回復士のソレではなく、杖に向かっての体当たり速度は、突進力のあるバッファロークラスと言っていい。
しかも思った通り、俺の魔法をすぐに打ち消し、黒い輝きもろとも消してしまった。
光の属性石のおかげなのか、それともレシス自身の潜在能力の高まりなのか、今は知ることが出来ない。
「ちぃっ! もう少しだったというのに!! 魔法士エンジ! 低劣勇者を追い出したとて、このオレとゲレイド新国は貴様の力を奪い、世界を書き換えてやる。それまでせいぜい足掻いておけ」
杖を光に戻されたどころか、レシスの絶対防御に守られては、さすがに手も足も出なかったようだ。
ラフナンはどこまで逃げて行ったのだろうか。
しばらく姿は見せて来ないだろうが、心を入れ替えるまでには時間がかかりそうな気がする。
「杖を持っても平気?」
「フッフー! これこそわたしの杖というものなんですよ! あぁ、おかえりなさい!!」
「そ、それなら良かった」
「むふふ……エンジさんもおかえりなさい!」
「た、ただいま。いや、逆だろ」
「そうですかね~?」
レシスと再会出来たし、杖も彼女の元に戻った。
勇者のことはしばらくいいとして、あんな邪心を持った奴が敵となった以上、やはりここで宣言しておくしかなさそうだ。
ログナの中枢である学院にいるというのも、ある意味で運命を感じる。
『にぁぁぁぁ!! エンジさまぁぁ!』
リウの声が近付きながら響いて来るということは、サランが邪魔していた結界が解けたのか。
ログナにリウを含めた仲間の獣たちが入って来られる……そして賢者もいる。
レシスも帰って来たし、ここで決めておくしかないな。
「にぁっ? エンジさま?」
「リウ、今すぐアルクスに戻って、ルオを呼んで来てくれないかな?」
「あい!」
俺の力と、味方。
属国としたログナで発するのが、きっと相応しい。
「エンジさん? 何を始めるおつもりです?」
「レシスには話してなかったけど、ここで全てを決めて話すよ」




