65.黒い勇者と書記魔法士 2
ラフナンが手にしているから黒いのか、それとも――?
「レシス。君が手にしていた時、杖は黒く無かった?」
「もちろんそうですよ! だって光の石なんですよ? 黒かったら拾ってなんかいませんよ~」
「勇者パーティにいた時に拾ったんだよね?」
「うーん? よく覚えてないんですよ~ごめんなさいです」
レシスの記憶にフタでもしたのかというくらい、彼女の言葉はブレがない。
「ハハッ、無駄なことを聞くなよ。レシスは僕が連れていたメンバーの中で、一番最弱で役立たずの回復士だ。だからこそ、僕が守ってあげていたわけだ!」
「そ、そんな……さ、最弱で役立たず……それがラフナンさんが思っていることなんだ……」
レシスと他の連中は偶然ログナに戻った時、ラフナンと再会した。
その時に見つけられて、優しく言葉をかけられてここについて来たのだろう。
だが、ラフナンの目的は光の杖とレシスだった。
彼女に対する優しさも無く、自分の支配下に置きたいだけだったに違いない。
「おいっ! レシスを傷つけることを言っていいのか! 少しでも勇者を信じて探していた彼女なんだぞ」
「信じて? ハハハ! 勇者を信じるのは当たり前だろうが! だから盗人エンジの傍から離れて、僕の所に帰って来た。それの何が悪い?」
「性根が相当腐ってるんだな、ラフナン」
「勇者だからって、善人でいる必要性があるのか? ごちゃごちゃうるせえ奴だ! いい加減くたばりやがれ!!」
「――!!」
古代書を魔物から奪った時から呪いでも受けたのかと最初は思っていたが、ラフナンは人一倍、僻みや妬みが強い人間なのだと理解した。
レシスはラフナンの言葉で相当に落ち込んでいて、すっかり頭を抱えながら項垂れている。
彼女に被害を及ぼさないように戦わないと。
「まぐれで魔法を覚えたからっていい気になりやがって! もう一度勇者の手で、書記を追放してやる!!」
ラフナンが手にしている黒い杖からは、とてつもない威力の風と氷魔法が吹き荒れて来る。
杖からの魔法程度では恐れることは無いが、周りが見えていないのか、レシスを守るそぶりを見せていない。
レシスを守りながら、杖を奴から奪うしかないな。
「はぁっ? 石なんざ手に取って何をしようとしていやがる? まさか原始的に投げて来るつもりかよ!」
「……そのまさかだけどな!」
ラフナンに向かってではなく自分の手前に炎の属性石を放り、その石に向けて炎魔法の展開を開始した。
エクスプロジオン 属性石を介し、対象 黒い杖 に爆発魔法を発動
「ハハハハハッ!! どこに向けて撃ってやがる! やはり書記なんぞが魔法なんかを使うからだ!」
「……いや、これでいい」
「レシス、落ち込んでないで盗人エンジのやることを見てみろ! 大事にしていた杖に向けて魔法を向けて来てるぞ」
「うぅ……ぅう。えぅっ……? つ、杖に攻撃を?」
「ハッハハ、まぁ最弱のレシスが心配しなくても、俺の杖は雑魚なんぞに折られはしないから、黙って見てていいぜ」
「……は、い」
ラフナンではなく、杖本体に向けたのには狙いがある。
今のレシスはラフナンを守ることよりも、自分が手にしていた杖を守ることを考えるはず。
そうはいっても、すぐ行動に出られるほど彼女は俊敏じゃない。
俺からの攻撃魔法で杖の威力を弱めなければ、守ろうとする意思が芽生えない。
レシスを守ろうとせず俺だけを狙うラフナンを釘付けにするには、杖に集中攻撃するのが最善だ。
属性石には炎の威力を増幅させる効果がある。
杖本体だけに向ければ、黒い光が何らかの敵対行動を放つはずだ。
炎魔法を杖本体にターゲットを絞ったおかげで、杖から放たれていた魔法は抑えられ、杖本体からの魔法がおさまりつつある。
そして思っていた通り、黒い光の禍々しさが弱まって来た。
「――ちっ、杖の破壊を狙ってやがるのか? 雑魚が……」
「勇者なら、手持ちの剣で俺に攻撃を仕掛ける方が確実じゃないのか? ラフナン」
「くだらない挑発して来るんじゃねえぞ! 書記ごときに俺の剣を振るうわけねえだろうが!」
挑発以前に向かって来る様子が見られない。
欲張りなラフナンのことだ。
杖やレシスから目を離すことなく、何らかの形で俺に何かをする機を狙っている様に見える。
絶対防御が無い今の俺は物理攻撃が来たら魔法防御で守るしか無いのに、何故向かって来ないのか、実は勇者としての強さは無かったりするのか。
「……へっ、所詮その程度だな。杖の魔法を止められたところで、エンジに負けるはずもねえんだよ!! 第一、この俺にダメージを負わせられてねえじゃねえかよ!」
「そう言うだろうと思ってたから、俺も遠慮なく追加攻撃をさせてもらう」
「――あ?」




