60.書記、幻惑魔法で魔物を迷わせる
さすが魔物の群れ、それも魔法を放つタイプなだけあって、間髪入れずに次々と攻撃魔法を繰り出して来る。
コピー済みの魔法を連続で打ち込まれても、違う魔法じゃなければコピーのしようがないけど。
魔物たちの魔力も限度があるだろうし、それを待てば勝手に帰ってくれる、そう思っていたが甘くなかった。
『グァァッ! 何ダ、おまエ!』『ニンゲン、キエロ!!』
知能を持つガーゴイルとハーピーたちが、俺の無傷な状態に疑念を抱き、直接攻撃に切り替えて襲う構えを見せている。
その中で襲って来ないのは、杖を手にしているレイスルーンだけだ。
あまり出会ったことが無い見た目をしていて、遠くから見る限りでは頭に角があり、翼を生やした人のようなものにも見える。
意思を持つ魔物っぽく感じていて、何とも不気味な気配だ。
そうこうしているうちに、直接攻撃範囲にまで近付かれようとしている。
「魔法士サマ、攻撃?」
「――おっと、いけない」
ピエントは俺の指示通り、後方で支援魔法を展開していて、すぐに攻撃に転じられないようだ。
自分で何とかするか。
アイス・ストームを即時編集 範囲を見える範囲にまで拡大 持続時間は敵の敵対心を削ぐまで。
名称アブソリュート・ゼロ 属性氷 凍てつきの氷 使用可能
「こ、これでどうだ! ア、アブソリュート・ゼロ!!」
『……!! グァグァ!? ニンゲン……グ、ガ……ァ』
賢者アースキンからコピー済みのアイス・ストームをすぐにイメージして、そのまま編集。
名前の変化で強力な威力となったらしく、どうやら目に見える魔物たち全てに拡散され、魔物の群れのほとんどは凍ったまま海に沈んで行ったようだ。
しかし――
『ンギィオオオオオオオオオ!!』
な、何だ!? 奇声? というか、劈く音が俺の頭の中に響いて来る。
人っぽい魔物かと思いきや、錯乱攻撃系のファントムだったようだ。
手にする杖からは、怪しく眩い光を放っている。
直接光を浴びたわけでは無いのに、遠くに見える光を視界に入れただけで目まいを覚えた。
もしかしてすでに何らかの影響を及ぼされたのか。
「魔法士サマ、ピエントヲお使いクダサイ……可動シマス」
「んっ? 使うってどういう――わっ!?」
ドールのピエントは見姿を変え、俺の前に出てすぐに鏡のような反射板に姿を変化させた。
そしてそのまま奇声を発している敵の眩い光を、跳ね返している。
「え、魔法を反射というか、跳ね返しをしている?」
「ハイ。アノモンスターから、魔法士サマの意識ヲ害スル魔法ヲ感知シマシタ」
「そ、そうだったのか。それじゃあピエントは、反撃タイプなんだ」
「ソウデス」
少しして反射が効いたのか、レイスルーンは動きを止めた。
「受けたことが無い魔法を見せてくれたことだ。俺からもお返しに、ルールイの幻惑魔法を使わせてもらう!!」
対象魔法 リップルに霧を付与
「成功確率89%……」
「フォグ・リップル!!」
ルールイの幻惑魔法に深い霧を付与して、レイスルーンに放ってみた。
遠目ではハッキリ見えないが、動きを止めていた敵が方向を失っているようかのような動きを見せている所を見ると、効き目があったようだ。
「範囲内、モンスター……反応アリマセン」
「うん、そうみたいだ。海に落ちてそのまま流されたか、混乱しながら逃げたかのどっちかだろうね」
「追撃シマスカ?」
「いや、後は魔法から逃れたゴブリンだけだし、ミーゴナに戻ろう! というか、どうやって戻ろう……」
「……魔法士サマ、ワタシに触れてクダサイ」
「へ?」
ドールのピエントに触れると、新たなスキルとステータスが浮かんできた。
ドール ピエント 反撃タイプ 命名した者に従い、能力を与える
スキル 浮力 決まった場所に飛べる 物理防御ランクアップ
古代のドールのはずなのに、浮力を持つドールとかどういう原理なのか。
ルールイのように長く飛べないけど、ミーゴナに着ければいい。
◇◇
「にぅぅ!! キリが無いにぁ!」
「ちょっと、ネコ!! 襲撃した時の俊敏さは?」
「ふにぅ~……何だか調子が出ないのにぁ……エンジさまが傍にいないとやる気が出ないのにぁ」
「ネコが好きな騎士がいるのではなくて!?」
「でもでもでも、騎士たち、顔が隠れていて誰がクライスなのか分からないのにぁ」
「……アルジさまの寵愛を受けておいて、肝心な時に使えないなんて!」
上空から聞こえて来ているのはリウとルールイの言い争いで、二人の近くにはゴブリンが近付いてもいないように見える。
大半のゴブリンは傷をいくつか受け、半数は逃げている。
それでも少しは残っていて、力のあるゴブリンは騎士たちと交戦中のようだ。
ここで攻撃魔法を撃つのも可能だが、ゴブリンのステータスも気になるし、まずはリウたちの所に降りてみることにするか。
改稿しました。




