59.オベライ海底塔の魔防戦 3
海底に沈んでいた塔の内部は見事に浸水していたが、水が濁っていなかったこともあり、奥に見えるドールの姿を確認することが出来た。
湖上都市で使ったプワゾンで水を涸らすことを考えたものの、毒成分を散らすことになるので却下。
コピーしまくった魔法でどうにかしろって、そんなの分かるわけない。
古の塔とはいえ、魔法士が作っただけあって、下りるには階段の他に魔力消費で動く床があった。
途中までは魔力を使って、下まで来ることが出来た。
もちろん消費した魔力は微々たるものなので、魔力には余裕がある。
濡れていない階の床には余るくらいの魔素が転がっていたので、そういう意味では気楽に下りて来られた。
最下層の水は階段の下辺りにまで及んでいて、ドールがいる所に行けない。
ただ、ドールが転がっている周りには見えない何らかのガードがかかっているのか、天井までは浸かっていないようだ。
そうなると出来ることは、ドールの周りの水を凍らせることで、奥に行けるのではないかと考えた。
ア、アイスストーム!! で、合ってるかな。
賢者アースキンから得られた氷の魔法は、範囲こそ広いが、持続性は乏しい。
氷魔法は編集出来る程の強い魔法に成長していないので、使ってみた。
ドールの見た目はアルクスで動いている者たちよりも、小さく見える。
それでも機巧ドールは、人間の俺なんかよりも遥かに頑丈そうな装甲で作られているようなので、大きさに関係なく強いことが分かる。
ドールの周りの水がものの見事に凍ってくれたので、多分成功。
そのまま古代ドールの元に近づいてみると、頭の中で声が響いた。
『名前を――』
「名前? 俺はエンジ・フェンダー。君は?」
『名前……』
ん? 俺の名前じゃなくて、ドールの名前のこと?
前にもどこかで同じことを聞かれたことがあるような……いや、迷っている時間は無い。
「ピ、ピエント?」
「お帰りナサイませ、魔法士サマ。これより、ピエントは魔法士の魔力に従イマス……」
「へ? 魔力に従う……って、俺は魔法士じゃなくて――」
そういえば機巧ドールのピエサにも、名を与えたことで動き出したんだった。
ドールたちは俺の魔力というか、魔法の力で意思を持って動き出しているし、古代ドールの彼女? もその類によるものかもしれない。
「と、とにかくよろしく! ピエント」
「デハ、上へお運びシマス」
「う、上に!?」
――って、いう間に部屋の氷が溶け出していて、ピエントは俺を掴んでそのまま頂上に飛び出した。
「ええええええええ!? と、飛ぶドールとか、一体どれだけの魔力を与えたんだ……」
「複数のテキを感知……迎撃シマスカ?」
「――あ」
時間を気にせずに下りていたこともあり、魔物の群れが遠隔攻撃で届く所にまで到達していたことに気付く。
俺の魔法が通じるかを確かめる機会でもあるし、ピエントにはミーゴナに流れ魔法が行かないようにしてもらうことにしよう。
「ピ、ピエントは、防御魔法を塔の後方で展開して欲しい! で、出来るかな?」
「塔のエリアにガードを張ってイマス。タイキ?」
「あ、うん。じゃあ待機で」
考えてみれば塔から後方に、ミーゴナがあるわけで。
塔に魔法防御をしておけば、国自体に魔物が近付くことは容易じゃないということが分かる。
サーチ オベライ海上
ガーゴイル、ハーピー、ゴブリン、レイスルーンといった名前が見えている。
ゴブリンだけは飛べない魔物のせいか、ガーゴイルの背に複数乗っているようだ。
結構な数で飛んでいて、ゴブリン以外の魔物の中には、光の杖らしき物を手にした獣も確認出来る。
「魔法感知……迎撃シマスカ?」
「えっ?」
サーチしていたらすでに遠隔魔法攻撃をされていたらしく、ピエントの重厚装な胴体が、俺の目の前に立ち塞がっている。
「だ、大丈夫。キミは後方を頼むよ」
「ワカリマシタ」
どうせなら魔法攻撃は全て受けておきたい。
物理的な攻撃でなければ、危機的状況に陥らないことも学習済みだからだ。
「魔法到達カウント、サン、ニ、イチ……」
分かりやすくカウントしてくれたが、目の前に見えていて、気づけば攻撃を受けていた。
光のように見えた閃光の魔法は、炎と闇、そして海を利用した水魔法が合わさったものだった。
「あ、あああああ!!」
全身隈なく攻撃が当たり、瞬間、イメージが浮かんで来る。
フェゴ 属性炎 強さB 追加効果なし マッディストリーム 属性水 強さA 範囲攻撃
グラビトン 属性闇 追加効果重力 個体限定 全てコピー可能
よしよし、久々のコピー!
それも一気に3属性も出来るなんて、もっと打ち込んで来て欲しい。
「魔法士サマ、迎撃シマスカ?」
「いや、ピエントは一切手出し無用だよ」
「手はアリマセン」
「……迎撃無用だから、援護を頼むよ」
「ワカリマシタ」
やはりと言うべきか、魔法攻撃に対してダメージを負うことは、ほぼ無くなっているみたいだ。
ザーリンが奪った絶対防御があった時は、物理的な攻撃に傷を負うことは無くなっていたが、魔法の力も抑えられていた感じがあった。
やはり光の加護というか、あの属性は限られた者のみの力だったのだろうか。
しかしレシスを守る光の杖も、元は魔物が守っていたと聞いているし、彼女にもいずれ害が及ぶ可能性は否定出来ない。
まずはここの魔物を追い払って、ミーゴナを守ってから考えることにするか。
「魔法士サマ、翼モタヌ魔物ガ降りマシタ。ドウシマスカ?」
「ゴブリン? そいつらはリウと騎士たちに任せる。ここで翼のある敵に攻撃を返そう!」
「ワカリマシタ」
コピーはしたけどすぐに編集出来るわけじゃない。
ここは俺が使える魔法で、追い払うしか無さそうだ。




