58.オベライ海底塔の魔防戦 2
『はぁはぁ……はぁっ、アルジさま~!』
この声はルールイ?
まだ呼びにも行っていないのに、何で彼女からここに来れるんだろう。
「何者か! まさか空からの奇襲……」
「わー待った、待ってください! あの子は味方で仲間のコウモリなんですよ」
「コウモリが仲間だと!?」
「ほんとにぁ! ルーが飛んで来た~」
ゲンマの森からログナに行ったはずなのに、ルールイだけ行かなかったのだろうか。
「え、何で? ルールイは行かなかったの?」
「ふぅはぁ……っ、フェアリーがわたくしに言いましたわ。アルジさまと移動しないと、味方とは思われないだろうって。それもそうだと思いましたの。それで探しながらここへ」
「ザーリンがそんなことを……ここを見つけるのは大変だったんじゃ?」
「そうですわね、こんな大きな水たまりの上を飛ぶだなんて……濡れまくりですわ!」
「あー……そ、そうだよね。ごめん」
翼が濡れることを嫌がっていたが、ここに来ないことには合流出来ないし、我慢して来たってことか。
「それでネコの用事は済みましたの?」
「いや、それがね……」
「――ふん、図らずともフェアリーの目論み通りなのですわね。アルジさまが必要とすることも知っていて、あのフェアリーは本当に、意気地が悪いですわね」
「そんなわけで、お願い出来るかな? 濡れさせることになるけど……」
「後でたくさん触れて頂ければ、アルジさまの望むままに致しますわ!」
「翼に……だよね?」
何やら紛らわしいことを言い放つが、飛べるのはルールイだけだし、スルースキルも上げねば。
リウとクライスは城に入って守りに備えることにし、俺はルールイに掴まりながら塔に向かう。
「しかし何故見知らぬ国の為にアルジさまが?」
「リウが世話になった人がいるし、属性石のことも関係しているってことなら、見過ごせない」
「あぁ、それで魔物がざわついているのですね。向こうに見える塔にアルジさまを置くのは、心苦しいですけれど、わたくしが出来るのはそれくらいですし、仕方がないことなのですね……」
ルールイにも多少の魔法が使えるだろうけど、賢者のような攻撃魔法は備えていないし、彼女を戦闘に加えるのは正しくない。
翼のあるルールイのおかげで、遠くに見えていたオベライ塔に着いた。
確かに船では行けない場所にあって、かつての入り口は海中に沈んでいる。
「くすん……悲しいですけれど、わたくしはネコの所にでも戻りますわ。アルジさまのご心配はしておりませんけれど、どうかお気をつけて!」
「ありがとう、ルールイのおかげだ。リウのことをよろしく頼むよ」
「当然ですわ!」
さて……塔の中に入ってみたはいいが、見事に何も無い。
海に浸かっていない階に行ってみるか、あるいは頂上に登って魔物の来襲に備えるか。
サーチで確認したところ、海上から向かって来る魔物はほとんどが飛べるタイプのようだ。
飛べる奴の背中に乗っている魔物の中には、ゴブリンらしき奴もいるみたいだが、そいつらは騎士やリウ任せておけばいいだろう。
少しの時間を利用して、下りられる階まで下りることにする。
かつてミーゴナの魔法士が作ったとされる古の塔なのだし、もしかしたら役に立ちそうな物が見つかるかもしれない。
差し当たり目の前の部屋については、特に目立って珍しい模様も見当たらない。
下の階に下がると、劣化した歯車のような仕掛けが壁際に放置されているが、これは侵入者へのトラップとして、かつて動いていたものと推測出来る。
海中に沈んでいる階に下りると、幸いにも水に浸かっていなくしかも、魔素の塊が床に転がっていて、触り放題だった。
オベライ塔のマナから得られたイメージによれば、この塔自体の魔法防御力は、半永久的に生きているということのようだ。
そこに俺が足を踏み入れたことで再び魔防が高まり、ある程度の魔法をはね返すといった、生きた塔になった。
魔素の塊に触れるだけで、永久では無い魔力を回復させられる効果があるようだ。
『そういうことだから、フェンダーは成長する』
「……ザーリン!? え、どこ?」
『不思議なことじゃない。あなたのメンターであるなら、声くらい届けられる』
「そ、そう言われればそうかも……」
『一人で何とかするほど魔物は甘くない。だから、魔素を取り込んで長期戦。それがフェンダーのやり方になる』
回復薬とか便利な物を使った試しも無ければ、作れる味方もいない。
そういう意味では、マナを取り込めるのはありがたいといえる。
『それから、最下層に古代のドールがいるはずだから、起こして』
「古代のドール? いないと苦戦するとか?」
『する。魔法攻撃が通じても、防御にはまだ不安がある。ドールを起こして、使わないと駄目』
「駄目って……そんな時間ないのに、最下層は水に浸かってて入れないんじゃ?」
『それくらい、フェンダーの魔法で何とかする。そのくらい出来るくらいコピーしたはず。だから、やる』
「えー!? それだけ?」
肝心なことだけ言わずに、ザーリンからの返事は途切れた。
サーチで感じた限りでは、魔物が到達するのは数時間も無い。
それまでに最下層に下りて、古代のドールを起こすことが俺の為となる……か。




