57.オベライ海底塔の魔防戦 1
「――というわけなんだ」
「ふんふんふん……ふにぁ~悪いピカピカのせいだったのにぁ……」
「やはり討伐で得られた属性石には、癒しの効果なんて無いってことだろうね」
騎士クライスの話によるとゲレイド新国からここまで来るのに、シャル姫が身に付けている装飾品が原因で、賊はともかく魔物に狙われまくりだったらしい。
「とてもじゃないが姫には真実を言えぬし、妻に宝石をかざすことも控えさせてもらった。エンジたちに助けられたが、恐らく海上からも宝石狙いの魔物どもが向かってくるはずだ」
「海から? 属性の獣の力は凄まじいのは分かるけど、宝石目当てでどうしてそんなことに……」
「光の獣ってのは聖獣であったと同時に、周辺の魔物を抑えていたと聞く。その力が討伐で失われたことに気付くのは、人間よりも魔物の方が早い。ゲレイド新国の連中は、自国の周辺から魔物を遠ざける狙いがあったとみえる」
光の杖を持っていたレシスも、結構な確率で狙われやすかった。
尤も彼女の場合は、敵を誘っている光そのものに守られていたけど。
クライスは姫には危険なことを悟られることなく、国まで守ることが出来たことに安堵している。
姫に何かあった時点で、王にも知られてしまうことを恐れた為だとか。
「俺たちに何が出来るんです?」
「エンジは魔法が相当強いのだろう?」
「いえ、シャル姫を浮かせたくらいですよ」
「ふっ、謙遜するな。リウちゃんの奇襲があってこそかもしれぬが、鳥どもは恐れ慄いていたぞ? 手の内を見せずとも、エンジの持つ魔力に気付いたのは明らかだ」
ここに来るまで大した魔法を使っていない。
そして最近は、コピーするほどの相手も敵も見つかっていないのが気になる。
光の属性石を狙って海上から敵が来るという話な時点で、嫌な予感しかしない。
「エンジさま! 大変にぁ!! あっちの方角からたくさん来るにぁ」
それほど慌ててはいないが、すでに範囲サーチで捉えているのか、リウは海の先の方を指している。
警戒を強めているのか、耳も尻尾も緊張感を漂わせているようだ。
「海の向こう側か。まさか、本当に?」
「分かるのか!? ここからでは特に変わった様子に見えないが……魔法だけでなくスキルも持ち合わせているとすれば、エンジとリウちゃんに頼りたいのだが……」
「ギルドのクエストの範疇外なのでは?」
「ああ。これはミーゴナの危機だ。だが、我ら騎士は剣と盾しか扱えぬ。それ故、王に援軍を求めたとて城と民を守ることしか出来ないのだ。ここまで来てもらってすまないが、ミーゴナを守ってくれないか?」
ザーリンとルールイを先に帰し、リウと二人だけになってこんなことが起きるなんて、つくづくザーリンに試されている気がしてならない。
しかも今回は、リウの支援攻撃を当てにするでもなく、完全に魔法だけで戦うことが前提だ。
これを冒険者のいないギルド依頼にして来る辺り、フェアリーの企みそのものに思えて来る。
「リウの思い出の地でもありますし、守るのは行きがかり上、やりますが……城に防御魔法を張るといった大それた真似は出来ませんよ?」
「ふむ……」
「リウは回復魔法しか出来ないにぁ……」
「リウのせいじゃないからね? 今回は俺がやるしかないってだけだよ」
「にぅ~」
途端に耳をへたらせるリウを、優しく撫でてあげた。
すると何かを思いついたのか、耳を立たせて俺を見つめながら提案を出して来た。
「ふにぁ~……森からアルクスに戻って、ドールを呼んで来るかにぁ?」
「ドールを? あぁ、そうか。彼女たちは俺の魔力で動いているようなもんだっけ。いや、でも……ログナのこともあるし、ドールたちはアルクスを守ってもらいたいかな」
「ふむぅ……」
「リウにはこの国の人たちを守っててもらいたいな。俺だけで何とかしてみたいし」
「でもでもでも、エンジさま! 絶対防御はもう無いのにぁ……」
攻撃を喰らえば当然だけど、ダメージを負うことになる。
それでもそれは直接攻撃によるものだし、魔法で何とか出来るならノーダメージになることの方が、確率としては高いだろう。
「みぁう? エンジさま?」
「大丈夫、近づけさせないよ。それに魔法攻撃だったら、攻撃を受ける方が自分にとっては最高だからね」
リウの心配も分かるものの、海上から敵が来るということは、魔法による遠隔攻撃が圧倒的に優位だ。
ここは迎え撃ちながら、コピーもしまくるのが最善だろう。
「……ここでは魔法攻撃も思いきり出来ません。海上に何か拠点のようなものは?」
「あぁ、ある。ミーゴナから見える海は、オベライ海と言う。そこに昔、海上、いや……海底から塔を建てたらしくてな。昔こそこの国も魔法士がいたようで、その塔で魔法を繰り出して守ったと聞いている」
「海底の塔ですか?」
「そうだ。昔は今よりも海も深くは無かったようだからな。とにかく、その塔ならばエンジも防ぐことが容易になるはずだ。頼めるか?」
「リウもここで守りますし、やりますよ。そうじゃないと、俺も成長出来ませんからね」
ザーリンの言葉に従うならば、塔の中で魔法戦を展開して、スキルやら何やらを育てる必要がある。
そうすることでしばらく留守にしているアルクスも、国として成長を遂げる可能性がありそうだ。
「あの塔へはどうやって?」
「もちろん、空からでしか入れない。見ての通りだが、船では塔の入り口にすらたどり着けぬ」
こうなると、ルールイを呼び戻したい。
俺から迎えに戻ると言っておきながら、結局こうなるのか。




