56.書記、ネコと共にお使いを頼まれる
「やっと着いたにぁ!」
「本当だね。ゲンマからそんなに遠くなかったけど、交流が無いから遠く感じるってことかな」
リウが来たがっていたミーゴナ村に、ようやくたどり着くことが出来た。
前面に船着場と海が見える他は、数軒の家がちらほらと建っているだけの小さな村だ。
船に乗って本国ということは、村自体はあくまでも国の入り口というより、通過点に過ぎないのかもしれないくらい人の数は多くない。
「エンジさま、こっちこっちにぁ」
「うん?」
「奥のお家が、リウがおさかなを届けに行っていたお家にぅ」
「そっか。それは楽しみだね」
「にぅ」
嬉しそうな顔とピンと立った耳で、リウと一緒に奥の家に進もうとすると、後方から声がかかった。
「エンジよ、少し待ってくれぬか!」
「え、な、何です?」
「いや、失礼した。顔を見せねば分からぬよな。俺はクライスなんだが、顔を出すから少し待て」
騎士二人とシャル姫はすぐ近くの船着場で船を待っていて、その内の一人、クライスだけが気付いて声をかけて来たようだ。
分厚そうなマスクを外してまで、顔を見せるのはどういうことなのだろうか。
「にぁ? にぁにぁ!? お兄さん!」
「え? お兄さん?」
どうやらリウの会いたがっていた人は、素顔を見せた騎士クライスのようだ。
銀色の長髪を見せる好青年は、リウを優しく見つめている。
「やはりそうか! ネコが魚を定期的に届けに来てくれていたのだが、あそこに見える家を退いたと同時くらいだが、ネコの姿を見なくなってな。そうか、エンジどのと共にいたのだな!」
「にぁぁぁ! お兄さんがそうなのにぁ!! 嬉しいにぁ」
騎士になって村から去っていったのが、騎士クライスというわけか。
何にしても、リウが嬉しそうにしていて良かった。
きちんと助けていて正解だったな。
「ふんふん?」
「うむ。この村は住んでいなくてな、ほとんどの者は本国に移ってしまったんだよ」
「そうだったのにぁ~……お姉さんは?」
「もちろん、一緒だぞ。だが体の調子が良く無くてね。それもあって、光の属性石を手に入れに行っていたわけなんだ」
「むむっ……光の属性石にはそんな効果があるの~?」
「確証は無いが、光は癒しの効果が強いと聞いている。石をアレにかざせば、良くなるのではないかとな」
話にまるで入っていけなく、すぐ傍で聞いているだけだが、光の獣から無理やり作り出した属性石だとすれば、良くないことが起きそうな気がする。
「エンジさまに聞いてみるかにぁ?」
「ふむ……エンジどのなら分かるやもしれぬな。本国に戻ってから、正式にお使いを依頼するとしよう」
「エンジさまならきっと何とか出来るのにぁ! 安心していいにぁ」
「ありがとな、リウちゃん」
「にぁん!」
どうやら何かの相談がまとまったらしい。
リウが会いたがっていたのが、まさかの騎士で村に住んでいた人だったのも、何かの運命なのか。
『遅いぞー! 全く、ネコと書記に素顔を出すとはどういうことだー!』
「申し訳ございませぬ……ですが、ネコのリウは昔から知っている娘なのです。今はエンジどのと共に、国づくりをしているとのこと。必ずや王の役に立てるはずです」
第二の幼き姫とはいえ相当大事にされているのか、騎士は頭を下げ続けているようだ。
そんな国に行って何をやらされるのか気になる所だが、光の属性石のことが妙に気になるし、リウの思い出の人間のことも、何とかしなければならない気がする。
「にぅ……エンジさま」
「もちろん、行くよ。何か嫌な気配を感じるからね」
「リウはエンジさまのように、そこまで分からないにぅ……でもでも、あの宝石からは悪いピカピカを感じるのにぁ……」
属性石といっても、本来はゲンマのように、鉱山で掘られた宝石から作り出すのが純正品のはず。
しかしシャル姫が身に付けている光の宝石からは、光とは名ばかりの禍々しい気配を感じる。
狙いが何なのかは分からないが、ゲレイド新国が作り出した属性石で侵略を企んでいる可能性は否めない。
海港村から船に乗ってすぐに、ミーゴナ本国の船着場に着いた。
騎士二人に付き添われながらも、シャル姫は周りを見ることなく、正面に見える城に入って行く。
「すまぬな。幼さ故、外と内では態度も何もかもが違う姫なのだ。国内では城から出ることのない子供に過ぎぬ。礼も言わずに申し訳ない」
「いえ、仕方ないかと」
「クライスよ、俺は先に戻る。お前はエンジどのと先に戻り、ギルドで依頼を受けてもらえ」
「すまんな、アルガス」
そう言うとアルガスという騎士は、シャル姫の後を追って城の中へと入って行った。
「さて、エンジどのとリウは、先にギルドに来てくれないか? 頼みたいことがある」
「ギルドですか? ということはクエスト……」
「リウはエンジさまに付いて行くにぁ」
「お使いを頼まれてくれないか?」
「まぁ、いいですけど……奥さんの病に関係でも?」
「あぁ……」
単なる国案内にならないと思っていたが、やはりこうなるのか。
ミーゴナの城は正面にそびえ立ち、城にばかり気を取られていて周りを見られなかった。
しかし、クライスについて歩きながら周りを見回してみると、船着場から海を背に守るようにして家が建っていて、ここがいかに海を重要視しているか分かる光景だ。
案内されたギルドには冒険者ではなく、国の漁師か騎士しか見られない。
「もしかして、この国って……」
「あぁ、そうだ。冒険者は訪れない国だ。もちろん交流を持たぬ国ではあるが、冒険よりも漁をすることこそが国の使命なのだ。だが、エンジどのならば出来そうな予感がしたからこそ、頼みたくなったというわけだ」
「魔法を使って、クエストをこなして欲しい……と?」
「その通りだ」
「き、聞きましょう」
光の属性石、そしてクライスの奥さんの病……
クエストとして何が出来るのか、やってみるしかなさそうだ。




