55.書記、ネコと海港村へ ③
「はーなーせー!!」
さっきまでおしとやかなお姫様だったと認識していた。それが今や、ただのじゃじゃ馬なお子様になっている。
「エンジさまに痛い目を合わせるなんて、ヒドいにぁ!」
「腕をつねっただけで痛がるなんてさすが書記なんだな! ネコを連れ歩くなんて、書記にお似合いだー!」
「と、とにかく暴れないで欲しいかな。きっと興奮状態が抜けないままだと思うし、魔物に出会ったショックは少なからず悪影響があるはずで……」
「エンジさま、リウが相手をしているにぁ」
「じゃあ俺は騎士たちと話をして来るよ」
魔法とスキルをコピーしてから、魔法のあらゆる影響力に気付かされた。攻撃性としては乏しかったものの、鳥人族の風魔法を全身に浴びて幼き姫は簡単に空に浮いてしまった。
シャルと名乗る姫に触れて分かったのは魔法耐性が無いこと。魔法を使える人間だとしても、耐性があるとは限らない。人間が浴びることのない魔法を受ければ、多少の悪影響を帯びるのは明白だ。
「書記エンジどの。我らが不甲斐ないばかりにすまぬ……」
暴れまくる姫とは対照的に、二人の騎士は素直に謝罪と礼をして来た。
「いいえ。鳥人族の不意打ちだったので仕方ないかと思いますよ」
さすがに目の前で助けられれば、どちらが正しいか判断も付くか。
「我らは他国から本国に戻る道中だったのだが、姫様のアクセサリーに注意を払わずに失態を……」
「その宝石類……、もしかして属性石ですか?」
「む? 何故分かった?」
「姫様は見ての通りまだ幼い。それ故、我らの護りだけでは足りぬと王が求めたのが属性石というわけだ」
王が求めた属性石……。
「それをどこで?」
「ゲレイド新国だ。そこで手に入れたものだ」
「石は近くのゲンマでも手に入るのでは?」
「あそこは国でも無く交流を持たぬ都市。少なくとも他国の王だろうと、関係なく受け入れないだろうな」
こういうところにこだわるのも頭の固い騎士というべきか。それにしてもゲンマ以外で属性石が手に入るなんて、実は結構流通している?
「ゲレイド新国は属性石が簡単に手に入る国ですか?」
「いや、属性の神獣を討伐して作り出したらしい」
「討伐!? 属性の神獣を?」
「ふむ、光り輝く獣だと聞いたぞ。詳しくは分からぬが、獣から得た石で作ったらしい」
「そ、そんなバカな……」
光の神獣は、ログナに戻ってから探しに行こうとしていた。
それが討伐された?
「クライス! アルガス! 何をグズグズしている~! 早く早く、ボクを連れて行け!」
幼き姫の声が響いた。
リウも手を焼く姫様みたいだ。
「……そういうわけだ。エンジよ、シャル姫を守りながらまずは海港村に向かわねばならぬ。そこから船で本国に向かうのだが、一緒に来てくれぬか?」
「え、国に?」
「私からも頼む。クライス同様私もお主に助けられた。シャル姫も今はああだが、本国に着けば大人しくなってくれる。そこで礼を遇したい」
似た格好をしている騎士の二人は区別がつかない。でも国に入れば、素顔でも見せながら話を聞かせてくれるかも。
それにリウの思い出があるミーゴナなら、悪い感じは受けないはず。
「では……、まずは海港村へ行きましょう。俺はリウ……ネコ族の彼女が行きたがっていた海港村に行くつもりでしたから」
「ネコ族? ネコが海港村か。ふむ……」
「何か?」
「いや、見覚えがある気がしてな……とにかく、エンジには礼がある。すぐにでも手配をしよう」
「そういうことなら……」
リウとのどかな海港村に行くつもりが……。
ともかく、光の神獣と属性石のことも気になるしまずはそれを聞くことからかな。
「リウ、もうすぐ着くから一緒にいいかい?」
「はいにぁ!」
「それと、ミーゴナ本国にも行くことになるけど大丈夫かな?」
「エンジさまのお傍についているにぁ」
村に近づいているせいか反対することも無く、リウは嬉しさを全面的に出している。
魚の紋様とリウがかよっていた村か。
色々分からないことだらけだけど、新たな魔法を覚えられそうな予感もあるし楽しみだ。
「早くしろ、書記! ボサッとしてないで、歩け!」
先が思いやられそうだけど。
「あーはいはい。お姫様の仰せの通り」
「二番目の姫って偉いのかにぁ?」
そういや二番目に偉いとか言ってたような。
王がいる国に行ったことは無いから不安はあるけど、話が通じる相手だといいな。
それに光の神獣からの属性石……。
ザーリンの言っていた通り、良くないことが起こる可能性もある。
「たっのしみにぁ~」
「俺も嬉しいよ。リウが楽しそうにしているからね」
「みんな、いい人だったのにぁ! エンジさまにならきっと、きっと~」
こんなにも嬉しそうにしているリウもいるし、他国と関わるのはよく考えなければ。




