52.書記、同盟を結ばされる
リウとルールイが兵によって動きを封じられている以上失敗は許されない。
俺は賢者が見せた魔法を、ここにいる者たちに披露することにした。
アースキンは属性石を介して属性魔法を繰り出していた。それを真似てみることにする。
確か宝石の名前と魔法名を……。
「では見せてごらんに入れましょう! エメラルドに封じられし碧の刃、大気を乱す風と成せ!」
風魔法をあまり使って来なかったし、試しついでに分かりやすく風を起こす。攻撃性はそんなに高くしたつもりもなく、せいぜい兵士の鎧に傷をつけた程度だ。
「……中々やるではないか!」
「ゲンマの兵、民たちも賢者様の属性石作りに協力した身だ。少々の魔法では驚かないぞ?」
「それともこの程度の魔法を見せる為に侵入したのか?」
などなど、賢者程度の魔法なら驚かない様子。
「エンジさま~思いきりやっちゃうのにぁ~!」
「アルジさま、どうぞ意のままに!」
リウとルールイの声援が得られたので、もう一度風魔法を思いきり試すことにする。
「ジェダイトに封じられし……風魔法! ウィンドストーム!!」
魔法の呪文とかは性に合わなそうなのでとにかく発動を優先。唱えた魔法も、以前アースキンが見せた範囲系の真似ごとに過ぎない。風属性で辺り一面にいる人たちを風の力で空に浮かせてあげた。
「ふにぁぁぁ!? う、浮いているにぁ」
「こ、これは制御が難しいですわ……」
「た、助けてくれぇぇぇ~~!!」
「キャアアアアアアア」
――などと悲鳴が多く上がってしまった。
今回はこれくらいでやめておくことに。
「な、なるほどな……それがお前の実力というわけか。だが怖れを抱かせるのが目的ならば――」
「そうじゃなくてですね。ところでこの辺りは居住区になりますよね? 鉱山が近いと水は手に入りにくいのでは?」
「水なら城に来てもらっている。城は森に近く、自然の恵みを取り入れやすいからな。それがどうかしたのか?」
確かザーリンは手土産に配って人の役に立つとかを言っていたはず。フェアリーの彼女は人間が多くいる前では姿も声も隠している。
彼女の答えを聞く手立てが無いので、使ってもらうように見本を見せることにした。
「そ、そこのお方、この青色の属性石を樽の中に入れてみてくれませんか?」
「は、はい」
「それと、あなたは魔力はお持ちですか?」
「もちろんありますけど……」
ここの人たちは多少なりとも魔力があって良かった。
それなら、
「では魔力を少しだけ込めて、属性石を軽く握って下さい」
「はぁ……」
鉱山から程近い居住区生活に必要な水を汲むのに城まで行っている。しかし、この場で水を手に入れてもらえば人の為になるかもしれない。
「い、入れました……えっ? み、水が溢れている!? 属性石を握って入れただけなのに……どうして?」
「青色の属性石には攻撃性を持たない水魔法を封じています。それに対して軽く魔力を込めれば、相反した力の作用で水が出て来る……いえ、その水はあなたが必要と願ったから出たのです」
難しいことはしていなく何かのきっかけを与えれば、水が出るようにしただけだ。
「お前、いや……エンジどの。他の属性石もそんな簡単に使えるのですか?」
「ええ、風も炎もそしてこの黒色……オニキスに込められている魔法は暗闇です。寝付けない時にでもお使い頂ければよいかと」
大した魔法が込められていない即席の属性石。
だったのに、あっという間に配り終えてしまった。
「もっと無いのですか?」
「そこの鉱山で作っただけですので、大量には出来ませんでしたね」
「出来ればゲンマの民全てに持たせたいのだが、ううむ……」
本当に大したことはしていないのに、即席属性石は想像以上に喜ばれた。
「ではエンジどの! 我がゲンマと同盟を組み、我が都市の資源を存分に使ってもらいたいのだがどうだろうか?」
「え、同盟? でも城の許可は――」
「ここは城塞都市ではあるが、最たる王もいなければ仕切っている者などいないのだ。言うなれば、都市に住む者の総意で成り立っている。この属性石は総意で欲している。どうだろう? 応じて頂けませんか?」
属性石を作って手土産に出来ればいいくらいの軽い気持ちだったのに、同盟だなんて。
「それでいい。拒む理由は無い。受けていい……」
姿は相変わらず見せないザーリン。声だけはどこからか聞こえて来たので、その通りにすることにした。
「では。私の国の名はアルクスと言いまして、賢者アースキンが住んでいます」
「何と! 賢者どのが! やはりそうでしたか。これからは鉱山も更に掘り進めますので、属性石の元である宝石をご自由にお使いください」
「分かりました」
国でもない都市とまだ国にすらなっていない山窟アルクス。曖昧な状況にありながら同盟を結ぶことになるとは、これは思わぬ味方と資源を得られた。
途中で態度と言葉遣いが変わった兵士たちから、光属性に関わる話も聞けたのでここで一度ログナに戻ることにしよう。
その後すぐに次の属性を得る旅に出ることにする。
「――全く、どうしてわたくしがネコを抱きかかえる羽目になるのかしらね?」
「仕方が無いことにぁ! エンジさまの風魔法は強くて、ふわふわで、リウにはどうすることも出来なかったにぅ」
「これだからネコは……全く」
「ふんふんふん~」
風魔法で浮いたリウを自然と助けていたルールイとで、何やら二人で話を始めている。
どうやら少しは仲良くなってくれたようだ。
早々にゲンマを離れ、森に向かいながらザーリンに気になることを聞いてみた。
「……光の属性石だけは、作らず渡すことが無かったのはどうして?」
「光は治癒に使うことが出来る。でもそれは人間にとって良くないことが起きるのと同じ。属性石はあくまで、きっかけ。便利な属性石があると分かれば狙われやすくなる」
「確かに……」
勇者ラフナンのこともあるし魔法兵のこともある。徒党を組んで属性石を奪いに来ないとも限らないし、本当に必要なものだけを与えた。
それだけで良かった思うことにする。とにかくログナに戻り、様子を確かめに行かなければ。




