44.書記、導雷針の村に接近する
リウは俺のことをずっと探しまくっていたらしく、俺を見つけた途端に耳をへたらせ、泣きじゃくってしまった。
「ヒドイにぁ~ヒドイにぁ~~」
「ご、ごめんよ、リウ」
甘えん坊さんなリウはここぞとばかりに抱きつき、スリスリと全身ごと密着して来る。
「エンジさまがご無事で何よりの……――ウゥゥ……フゥー!!」
「あっ……」
「なんにぁ!! このコウモリはまだいるのにぁ!! シッシッ!」
「リウ、あのね……彼女は」
上空を飛んでいたルールイが、知らぬ間にリウの近くでこっそり覗いていた。完全な人の姿に変わっていたせいで全く気付けなかった。
そんなリウを挑発するように、
「わたくし、コウモリ族のルールイがアルジさまの翼となりましたの。ネコさまも、妖精さまもよろしくお願いいたしますわね」
穴の中にいた彼女は終始寝そべっていて全身をはっきり見ることが無かった。しかし彼女は妖艶漂う雰囲気をさせながら、くねくねと体を揺らして自己紹介をして来た。
「にぅぅ……気に入らないにぁ」
「珍しく、気が合った」
フェアリーであるザーリンは、俺が見えない時は小さな虫程度になっている。ルールイの音波を編集可能にしたのも、小さな姿になっていたザーリンのおかげだった。
「フェンダーが望めば妖精も獣も、コウモリもついてくる。強く望まない限り、人間は人間の国の為について来るとは限らない」
つまり俺が望めば、他の人間たちが仲間になるってことなのだろうか。
心を読んだのかザーリンは頷いている。
「でも欲しいのは国というか仲間というか」
ルールイに連れ去られるちょっと前。俺はどこかの国同士の争いに遭遇した。あの時もしレシスがいたら、彼女はきっと止めに行っていたかもしれない。
でも俺はそうしなかった。
「あなたは深く考えない方がいい」
「……そうするよ」
導きのフェアリーは人間を嫌っているわけではなく、レシスだけを警戒している。そのレシスが今この場にいない状態だからこそ、ザーリンも素直になっているかも。
「アルジさまはこの先にいる気配が、分かるとおっしゃっていたかしら?」
「うん、大体は」
「ですけれど、町や村などハッキリとは分からないのでしょう?」
「まぁ、うん……さすがにそこまではね」
「それでしたら、早速わたくしが先に見て来て差し上げますわ!」
翼を持つ彼女はさっさと飛んで行ってしまった。
役に立とうとしているのはありがたい。だけど俺もリウも、結構な範囲の気配を探ることが出来る。それだけに慎重に行って欲しいところ。
「飛べるからってあの態度は何なのにぁ!!」
「ま、まぁまぁまぁ……」
リウは直情的でザーリンは無関心か。結果的に国と成り立たせる味方を得られれば、それでいいってことなのかもしれないな。
「アルジさまー! この先にちっぽけな人間の村がありますわー!!」
言葉が悪すぎるだろ。
バサッバサッ、と音をわざと立てながら、彼女は上空から派手に降りて来る。そのまま俺の背後に立ち、抱きつくように両腕を回して来た。
「何かご褒美は頂けませんの?」
「……それを求めるつもりなら、君は――」
「フフッ、冗談ですわ。とにかく村がありますわ。ですけれど、何か不穏な空気を感じましたので、真っ先に戻って来ましたわ」
「不穏な? もしかして何かに襲われている?」
「そういうことでは無かったですわ」
あまり気にしても仕方が無い。とにかく村に向かうしかないよな。
「し、しびしびしび……はにぁ」
歩いて少し経ったところで、リウが異変を訴え始めた。
「どうしたの、リウ?」
「へ、変なのにぁ……耳も尻尾も痺れている気がするのにぁ」
リウはネコ族。モフっとした毛で敏感に感じ取っているような感じだ。
ルールイは話しかけて来る時以外は上空にいるし、ザーリンは口すらも開かないのでリウの異常の原因がいまいち分からない。
気にせず歩き進んでいると、
「うっ!? 何となく痺れのようなものを感じるような?」
「はぎぁぁ……リウはこれ以上近付きたくないのにぁ」
「痺れるってことは雷? 雷はまだ経験してない気がするけど」
コピーするにしても、オリジナルがどんなものなのかも見極めないといけない。
「……コウモリにも厳しい。この先はフェンダーが一人で行くべき」
「え? 一人で? 君も厳しいの?」
「全然」
妖精だから平気なのかな?
「だったら、ザーリンも――」
「駄目。ネコとコウモリのことを誰が見る?」
彼女たちをここに置いて行くとなると確かに厳しいか。
「フェンダーは人間の言葉をよく聞いて、学んでから得て」
村の入り口が見えている時点では何かが起こっているようには見えない。しかし彼女たち、特にリウにはとても厳しそうな気配のような気も。
とりあえずリウたちはザーリンに任せ、ひとまず俺だけ村に向かうことにした。




