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追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました  作者: 遥風 かずら
壱頁:コピー・アプレンティス

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43.書記、フェアリーに守られる


「――え、あれ?」


 ふかふかな布にくるまれている? 何だか特別な扱いをされているような……。確か俺は空を飛んでいて、足が地面に着いた途端にバランスを崩してそのまま――


「お目覚めですの?」


 馴染みがなく、それでいて艶めかしさを感じる声がする。


 リウとは違う尖った耳に、角と尻尾。しなやかそうな翼が背中から生えている女の子が、寝そべりながら俺を見ていた。


「……キミは竜……!? いや、違うかな」

「そんな化け物に思われていたです? わたくし、蝙蝠族の(おさ)、ルールイと申しますわ。このたび、あなたをウチの主人に迎えることにしましたのよ」


 ウチの主人?


「コウモリ? コウモリの長!? そんな、いきなり困るよ! 俺には自分の国があるし、そもそも今は旅の途中――」

「家ならここにありましてよ。家族も沢山おりますの。ここのアルジとなって、お守り頂きたく思いますわ」


 人間がいない空谷(くうこく)――そこでまさかコウモリに連れ去られてしまうとは。こんなことなら、ザーリンの言っていたことにもっと気を付けるべきだった。


 今頃リウは俺のことを慌てて探し回っているはず。それを考えれば、一刻も早くここから出なければ。


「悪いけどここで住むわけにはいかないんだ。どんな事情があるにしてもね」

「――でしたら、どうなさるおつもりですの?」


 今いる所は大小見えていた穴の一つみたいだ。魅力的な人の姿をしているとはいえ、コウモリ族は人間を襲うと聞いたことがある。


 人間同士の争いを避けて来た自分がやるのもおかしなことだけど、今までコピーして来た魔法を使ってここから逃げるしか無い。


 痛い思いをさせずにするには、眠らせてしまうのが手っ取り早いよな。

 ソムヌスを使えば……。


「……何か仕掛けて来るおつもりですの?」

「え? あれ?」


 まさか効いていない? きちんと思い浮かべて唱えたはずなのに。


 もしかしてコウモリは暗い穴の中で生活をしているから、睡眠魔法は無効になるのか。それなら軽く火花を出せば驚いて逃げるんじゃ……。


「少しの辛抱だけど、スピンテールで大人しく――」

「それは何ですの?」

「ええ!?」


 睡眠も火花もまるで効いていない……というより効果が表れていない? 


 こうなったら光で――でもなぁ。レシスの杖からコピーした光は強さの程度に加減が出来ない気がするし、危害を加えられてもいない彼女にそれをしていいものなのか。


「さっきから何をされているのかと思えば、魔法攻撃のようなものかしら? そうなると、あなた様の狙いはわたくしたちが持つ力かしら」

「魔法さえもらえれば傷つけるつもりは無いよ」

「フフッ……魔法など、わたくしたちには必要ありませんわ」


 俺を眠らせたのは何かの魔法のはず。手当たり次第に魔法を出して何とか出来れば……だけどそこまでする必要があるのかどうか。


 その時だった。

 何が起こったかは分からないものの、体に何か異変が起きたことに気付いた。


「……うっ? ち、力が……」

「わたくしたちは目に見える力を使わずとも戦えますわ。ネコの声が響き渡った時には、さすがに驚きましたけれど」

「な、何を……してい――」

「わたくしたちは闇の使い魔と呼ばれる蝙蝠。大きく広げた黒翼で、敵に効果的な音波を発しますの」


 魔法ならどんなに相手が強くても何とか対応出来た。それがまさか、たかが音波で体の自由を奪われることになるなんて。


 こうして考えを巡らせている間、意識がまた落とされようとしている。絶対防御にこんな欠点があるとはうかつすぎた。


「フフ、所詮人間ですわね。普通の人間とは何かが違う気がしましたけれど、気のせいでしたわね」


 駄目だ、意識が……。


「フェンダーは甘すぎる。分かるけど、蝙蝠にまでそれは違う!」


 すでに意識が落とされている中で、ザーリンの声がハッキリと聞こえて来る。


「あら、何かが紛れ込んでいるかと思えば妖精ですのね」

「蝙蝠ごときに眠らされていては成長さえ望めない。仕方ないから守る、守ってあげる」


 何だ、何かが起きようとしているような。


「妖精ごときが随分と生意気言いますのね? わたくしたち相手に! もし敵対行動を取るのでしたら、容赦無くいたしますけれど?」


 何とも不思議なことにイメージが見えて来る。

 これは、


【蝙蝠の音波 編集 魔法名リップル 対象の敵に波を送り、動きを封じる 無属性】


 敵の、いやコウモリの彼女のステータスのようなものだろうか。


「今回だけ守ると言った。あとはフェンダー次第」


 (はね)姿のザーリンを見るのは滅多に無くて惜しいけど、助けられたから良しとしよう。


「変わっているとは思っていたのですけれど、あなたは何者ですの? ネコ族と妖精を従えているだなんて!」

「書記のエンジ・フェンダーと言いまして~……というか、ここに閉じ込められているわけにはいかないんですよ」

「あら、わたくしの音波を何度も喰らうのをお望みですのね?」

「いえ、もう効かないかと」


 手荒なことはしたくない。


 彼女が黒翼を広げ、音波を飛ばして来ようとしている。

 だがそれを見計い、翼に触れて"リップル"を放つ。


「な、何ですの!? 急に力が入らなく……」

「俺の魔法です。あなたの技を封じさせてもらいました」

「魔法……これが」

「じゃあ、ここから解放して頂けますね?」


 さすがに素直になってくれそうだ。


「い、いいですわ。アルジであるエンジさまには、元から逆らうつもりなんてありませんでしたわ」

「あの……主って?」

「不思議なお力を持つお方でしたら、わたくしたちを養って頂ける! そう思っておりましたの」

「養う……って、ええぇ!?」


 蝙蝠族にさらわれた挙句、家族が増えた……何ともおかしなことに。ザーリンの助けで覚えるはずの無かった特殊魔法を覚えられたのはいいとしても。


 魔法の効かない相手に遭遇したのも初めてでどうなるか分からなかったけど、これもザーリンの導きによるものだとしたら、この先も彼女の力が必要になる。


「アルジさまには、この子たちも預けたく思いますわ」

「ええええ!? こ、こんなに……?」


 無数に見えていた大小の穴の意味は、生まれたての小さな子供蝙蝠を含めた大所帯だった。

 それはそうと、早くここから出ないと。


「アルジさまがおっしゃって頂ければ、わたくしすぐにでも飛びますわよ!」

「ううーん……そ、それなら、場所は――」


 山窟部分が残っていれば蝙蝠族も暮らせるし、まぁいいか。


「では引き続き、わたくしルールイをおそばに置いて頂きたく思いますわ!」

「で、でも……」

「どのみちここが知られた以上、いずれ野蛮な人間が来ることは見えておりますの」


 そう言われるとそうかもしれないな。


「フフ、アルジであるあなたさまには、わたくしの翼を必要とする時が必ず訪れますわ。その時までおそばに置いて頂くだけでも構いませんわ」

「そ、そういうことなら……よろしく、ルールイ」

「お願いいたしますわ、アルジさま」


 移動魔法以外で空でも飛べたら――なんて、密かに思っていた。

 いつも飛んでられないみたいだし、さすがに甘く無いみたいだ。


 地上の平坦な道ばかりとは限らないことを考えれば、コウモリであるルールイがいてくれれば心強いのかも。


 俺はそんなことを思いながら、リウが待つ谷へ戻ることにした。

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