33.書記、召喚攻撃を浴び、悩みまくる
「本当だな? 本当にここに獣族たちが閉じ込められているというのだな?」
「賢者のくせにくどいぞ、アースキン。こんな山を攻めろというクエストがそう簡単に出るわけないだろう?」
「何者か知らないが、獣族を蹂躙するのは許してはおけないからな。ラフナンも獣を可愛がるのだな?」
「……当然だ」
賢者アースキンはエンジとの勝負に負けた。負けた約束を守り、言われたことをすぐに実行する為、勇者とともにログナに来ていた。
しかし人の良さに付け込んだ勇者によって、賢者は嘘を吹き込まれる。同時に、召喚士や獣使いらと一斉に攻撃を仕掛けるという、ありもしないことに協力することに。
「……あそこに見えるのはどう見ても白狼、フェンリルなのではないか?」
「ここにいる奴は幻覚を見せるのが得意だ。フェンリルだろうが何だろうが、全てまやかしだと思ってくれ」
「山の支配者か。人か、それとも?」
「書記だ」
「何? 書記……? それはもしや――」
賢者アースキンには思い当たる人物があった。しかしそれを制し、
「しっ……! 奴だ。俺たちの仲間だった回復士の彼女を人質にしているぞ。奴を狙い撃ちだ!」
◇◇
俺だけに降り注いでいる魔法、火矢、氷矢などが離れたレシスに当たることは無い。それは光の杖であるセイアッドスタッフを手にしているからだ。
攻撃はアルクス砦の範囲外から。とはいえ、ルオならばこの状況に気付いているはず。とりあえずルオには猛獣だけを相手してもらう。
――物理と魔法の同時攻撃。攻撃の指示を出しているのは切れ者とみえる。
魔法に関してはコピーすると同時に耐性が。だが受けたことのない物理攻撃は、絶対防御を張る前に一度は受けなければならない。
だからといって傷を負うわけではないのだが。ともかく受けないとパラメータも更新されない。
「……ん?」
これは魔法か? それとも召喚……。
「不届きなる占領者め! 漆黒よりの使者であるティアマトにより裁かれるがいい!!」
禍々しい鱗で覆われたドラゴンのようにも見えるが、複数の術者によって異界から呼び出したとすれば、これはコピー出来るか怪しいところ。
「書記のエンジ! 賢者の声かけで、本物の召喚士を連れて来てやったぞ! ざまーみろ!! 召喚された獣はその辺にいる獣とは格が違い過ぎるぞ。いつものように、まやかしでかわしてみろ!」
賢者の声かけ……ということは、あの獣好きな賢者が来ているのか。それにしても、俺一人の為だけに賢者の協力で召喚士を仰ぐとはどれだけ必死なんだ。
「ツェーレン!!」
勇者のことに呆れていた時。召喚士たちは、次々と召喚で異形の獣たちをこの地に呼び出し続けていた。
呼び出しが魔法なのだとしたらコピーしたい。しかし召喚された獣から直接攻撃を受けてしまったら、果たしてコピーが成立するのだろうか。
グオオォ……。
最初に召喚されたティアマトと呼ばれる漆黒のドラゴン。そこから周辺の外気を一変させる息が吐き出されようとしている。
「エンジさんっ!! 駄目っ、逃げてくださいっ!」
どこからともなくレシスの必死な声が聞こえて来た。
「……レシス?」
レシスはセイアッドスタッフによる絶対防御によって、あらゆる攻撃から身を守られている。そんな彼女から俺に向かって声が。
だがその直後。
ドラゴンからのブレスを思いきり浴びてしまった。
――のだが、
【召喚獣ティアマト:ドラゴンブレス 灼熱耐性 腐食耐性 氷の息吹 石化を付加】
ダメージこそ受けていないものの、イメージが浮かんで来ただけでコピー出来ていないみたいだ。
もしかして召喚獣からの直接攻撃ではコピー出来ないのか。それとも召喚魔法としてコピーする必要があるのかも。
「フェンダーは、段階的にコピーをする」
「……ま、また君は知らない間にいるんだもんなぁ」
「召喚魔法のコピーは獣の攻撃からじゃない。分かった?」
「それは分かったけど、じゃあ召喚士……?」
「少し違う。あなたが魔法をコピーする時は、どうやってコピーを?」
フェアリーの彼女は絶対に答えを言わない。要するに自分で考えろってことだろうけど。
「分かるまで、獣の攻撃を受け続ける。それしかないから」
「……全て教えてくれないんだね」
フェアリーは少しいたずら好きで意地悪な妖精。そう聞いているとはいえ、ザーリンはあと一歩のところを教えてくれない。
今まで簡単にして来た魔法のコピーとは違う……そういうことだろうか。




