30.書記、スキルアップをして、上位スキルと称号を得る
機巧の国メカニークに入国。
すると、見た目はほとんど人間にしか見えない女性が案内をしてくれた。
しかし――
「ようこs、メカニークへ……ようこそ、メカニ……」
「――え?」
どうしてしまったんだろうか。まるで機械のような反応だ。
「ヌシさま、ダメですよ! 案内ドールには心が無いんですよ。返事を返すことを望んでしまうと、プログラムは崩れてしまうみたいでーす」
「そうなの? というか、レッテはこの国に来たことが?」
「無いでーす! この国から招待を受けないと入れないんですよ~」
「そうなんだ……」
「ふみゃう……リウは、何にも知らないにぁ」
レッテは楽しそうにさせながら周りをキョロキョロと見渡している。しかしリウは、ずっと耳をへたらせているようで両極端な反応だ。
「大丈夫、俺も知らないから。リウも堂々としてていいんだよ」
「にぁう! はいなのにぁ」
リウは出会った頃から変わらずの女の子。それに引き換えレッテは、リウよりも年上のような感じを受ける。獣人には年の違いは無いかもしれない。
それでも二人の場合、種族と力の差、そして見た目で表れている感じだろうか。
「……うん、なるほど」
「にぁ?」
「何でもないよ」
ネコ耳と狼の耳、尻尾……それらを除けば、身軽そうな服を着ている二人。彼女たちをじっくり見つめることは無いが、賢者の性癖スキルを強制的にコピーされてしまった可能性は否定出来ない。
リウとレッテの耳の周辺ばかりに目が行ってしまう……。
どうしてなのだろうか。
――などとくだらないことを考えていたが。
レッテが言う案内ドールに代わって、人間っぽさを増した女性が話しかけて来た。
「アナタは古代種のニンゲンで間違いナイ?」
「こ、古代種?」
ここは機械だけの町で、すでに人間は古びた種……そんなわけないか。
「コピースキルを持つ者。チガウ? チガワナイ?」
「……違わないです」
「ソレナラバ、ワタシの連続シタ跡を追い、ラボに来てクダサイ」
戸惑っている間にドールらしき女性は目の前から、猛スピードで移動していた。
「は、速いにぁ~」
「ヌシさま、追いかけないとー!」
「う、うん。で、でも、すでに見えなくなっているし、どこに行けばいいのか……」
彼女らが俺がコピースキルを持っていることを知っている。
その時点で、古代の力を得ているのはすでに知られているということらしい。
跡を追ってラボに来いとはどういうことなのだろうか。
魔法のコピーこそ成長している感覚を受けている。それなのにコピースキルそのものは、そこまでじゃない。
「リウもレッテも、さっきの女性ドールが行った先は分からない?」
「ふみぅ……ニオイが無いにぁ」
「も、申し訳ございませんです! ヌシさま、ドールは機械仕掛け……この国の石畳に足跡すらも付きませんです」
「そ、そっか」
レッテが言うようにメカニークの街並みと道は、全て石畳のようなモノで敷設されている。機械仕掛けの連中からはニオイを感じることが無く、足跡すらも確認することが出来ない。
人の気配の無いこの国で誰かに聞く。……と言ったことが難しいことを意味する。
「エンジさま! さっきのおねーさんが、おかしなことを言っていた気がするにぁ」
「それって、連続した跡のこと?」
「それにぁ! それを追えば会えると思いますにぁ」
「バカめ! ヌシさまが悩んでいるのに、迷わせてどうする! だからネコは駄目なんだー!」
「むー! 違わないにぁ!!」
また始まった……。
しかしリウは女性ドールの言ったことを記憶していたし、それしか無い気がする。
この国に招待を受けた時は恐らく複数のドールたちがいたはず。それなのに、国に入った途端に姿を隠すなんてあんまりだ。
気を取り直し、女性ドールがいた辺りの道を目を凝らして見てみる。すると、やはり特に足跡のようなものは見当たらない。
連続した跡ということは、この場からすぐに移動して行った跡をたどることだと思われるが。足跡すら見えないのにどうしろというのか。
何か初歩的なミスをしている気がする。最初のコピーは全て何かに直接触れていたはず。だとすれば目に見えなくても、女性ドールがいた辺りをなぞれば跡を追えることになるのでは。
この場にいるのは口喧嘩を始めているリウとレッテ。他に見られる心配も無いので、恥ずかしさを捨てて石畳を手でなぞってみることにした。
「エンジさま、石畳を撫でているのかにぁ? それよりもリウを撫でて欲しいにぁ~」
「ヌシさま、ヌシさま! ネコよりも、レッテを撫でてくださーい!」
――と、彼女らが興奮状態で求めて来ているのに対し、俺の中でコピーの新しいイメージが伝わって来た。
【コピースキルアップ 連続跡を追える【トレース】を習得 称号アプレンティス】
【魔法以外に対応可能 編集不可 共有不可】
(え、何だこれ……コピーのスキルアップ? しかも称号って、これって……)
驚きと同時に、女性ドールの足跡が視覚として見えている。
こういう時にこそ、ザーリンが傍にいてくれれば何か分かりそうなのに。知識のある誰かがいないのは心細ささえ感じる。
しかしスキルアップを果たしたことで、見えていなかった足跡を追ってラボに向かうことが出来そうになった。
まずは追ってみるしかなさそうだ。
「リウ、レッテ。二人とも、おいで! ラボに向かうよ」
「にぁにぁ!? エンジさま、さすがにぁ~!」
「ヌシさまに付いて行くでーす! レッテが認めたヌシさまに、付いて行きます!!」
魔法コピーを極めたいあまり、これまでは基本部分を知らないまま進んで来た。それがここに来て機巧の国で新たなスキルを得られたのは、古代書の導きなのだろうか。
ラボに行けば何かを得られるのかもしれない。そう思いながら、彼女たちを連れて先に進んだ。




