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追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました  作者: 遥風 かずら
零頁:落ちこぼれの書記

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26.書記、賢者に勝負を仕掛ける 前編


 これも全てフェアリーであるザーリンの導き……。

 そうだというのなら、全力で拒まなければならない。


「見ての通り、この子ら狼族……獣人族は強き者に従う習性がある。書記であるエンジが、ネコ族を連れているなど可哀想だと思わないか?」

「……どういう意味だ?」

「この先において、追放者に起こり得る事態は何だと思う?」

「ずっと追われる運命と言いたげだな」

「そうだ。それをネコの子にも負わせるつもりなのかと思うだけで、許せない気持ちになる」


 この賢者は勇者ラフナンよりも実力がありそうだが、嫌味な言い方は勇者と相違ない。そもそもリウに直接聞いたことは無く、運命だとか大それた答えを求めたなんてことも無かったわけだが。


 いくら自分が獣人を従えているからって、決めつけるのはどうなんだ。


「にぅ?」

「……リウは俺と――」

「エンジさまがいてくれたこそのリウなのにぁ! 初めから決まっていたことなのにぁ~」

「そ、そっか。うん、ありがとう」

「あい!」


 一瞬でも心配になった自分が情けない。

 たとえ目の前の賢者が強い力を秘めているにしても、恐れる必要など俺には無かった。


「俺は確かに書記で追放された身。しかしどこまでその話が歪曲して伝わったのか、ぜひとも聞かせてもらいたいんだけど?」

「曲がったとて、誰かのせいだとでも抜かすつもりか? ならば所詮落ちこぼれとしか言えないな」


 勇者と賢者……。どっちもひねくれ曲がりか。

 せっかくルナリア王国に来たのにこんな賢者に足止め。このままでは、どこに行っても無駄なことが起こりそうだ。


「それなら、俺と勝負をしてくれないか?」

「――ほぅ。書記が賢者と対等に勝負を仕掛けて来るというのか?」

「俺が勝ったら、たとえ追放の身であっても先々で邪魔をして来るのはやめてもらいたい」


 しつこい勇者に負けず劣らずの賢者。

 こういう相手には力で示すしか無さそうだ。


「大した自信じゃないか! まぁ、ログナの義務学院で覚えた魔法など足元にも及ばないのだがな。まぁいい。ではこの俺、ジェリー・アースキンが勝ったらそのネコ族をもらい受ける! 万が一にでも俺が劣勢となったら、狼族をお前に預けてやろう」

「にぁにぁにぁ!? い、嫌にぁ~~」


 どこまで獣好きな賢者なんだ。


 性格にしてもなんにしても、まともな人は存在しないのか。しかし魔力は明らかに賢者の方に分がある。そうだとすれば、手数をいかに多く出させるかによるかもしれない。


「書記のエンジ! ここで闘うつもりならば、今すぐ狼族に喰われることになるぞ!」

「く、喰われ?」

「周りをよく見てみろ!」


 アースキンの両脇を固める狼族を見る。すると俺に対してだけ、獲物を見るような目つき。

 ここでおっぱじめるなと言わんばかりだ。


「お前が行きたがっていた王城に騎士団の訓練場がある。そこでなら魔法を放っても被害は出ない」

「……分かった」

「一応聞くが、魔法勝負でいいのだな? ふ、もっとも書記が剣を握る話など聞いたことも無いが」

「握る必要は無いからな」


 これを待っていたといえば語弊がありそうだが、相手が強ければより強力な魔法をコピー出来る。相手から放ってくれるのだから、オリジナルからわざわざ提供してくれるのと同義だ。


 すでに人間の兵士はもちろんのこと、狼族の民たちにも追放者で国賊という悪評が伝わっているらしく、俺一人に対してだけ軽蔑の視線が注がれているのは言うまでもない。


 悪評を伝えたタルブックの女兵士はすでに姿は無く、先の国々に歩みを進めているとすれば、常に軽視に耐えなければならないことを覚悟しなければならないはず。


「エンジさま! お城なのにぁ」

「あっ、うん」


 頭の中で不安をかき回している内に王城の中へと進んでいた。城と言ってもルナリア王国自体が狼族の国なのか、所謂王の間と呼ばれる部屋には人の気配は無かった。


「ひと気の無さに驚いたか?」

「いや……」

「俺も書記のお前も人間だが、人間ばかりの国が上手く出来ていると思うな」

「そういうことなら、すでに多種族の国が出来つつあるから心配していない」

「そんな国があるとは思えないが、獣を多めにすることを勧めておくぞ」


 獣好き賢者……つまり勇者よりもタチの悪い変態賢者と覚えておく。


「よし、始めるとするか。書記が出せる魔法なぞ知れているが、遠慮はいらん。お前から繰り出せ!」

「こちらも遠慮は無用。じゃんじゃん魔法で攻めて来ても、文句は言いませんよ?」

「手数も無いのだろうし、まともな攻撃魔法も無いと分かっているぞ。手本として基本中の基本魔法を見せてやろう」

「それはどうも……」


 伊達で身につけているわけではないのか、アースキンの詠唱と同時に藍色の宝石が眩い光を輝かせ始めた。


「水魔法で頭でも冷やせ!」

「ではそうします」

「バカ正直な奴だ」


 ここに来るまでに通って来た湖上国家タルブックから水魔法をコピーして来たこともあり、賢者アースキンが放ってきた水魔法は本当にただの水としか感じられなかった。


 水を浴びた時点でコピーになり得そうなスキルが浮かんで来るはず。

 ……が、何も浮かんで来ない。


「これが賢者の……魔法?」

「水魔法も初めて見るのだろう? そいつは攻撃魔法としては最弱の類に入る。正真正銘、水に濡れて頭を冷やすだけの……ん? 濡れていないのか?」

「手加減をしてくれたんですよね? 全然冷たさを感じませんでしたよ?」

「……その通りだ。水はその辺の民でも放てる程度だ」


(コピー出来るくらいの強力な魔法を放ってくれないのかな。それともあの勇者よりも弱い?)


 そんなはずは無いと信じたいし、出せるだけの魔法を放って来ることを望む。

 そうでなければ俺もコピーのしようがないのだから――

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