24.書記、森を得て場所を繋げる
「えええ? 主人!?」
「悪しき人間から守ってくれたご主人! この森を代表してお礼するのじゃ」
「ん? 君はさっきの白狼で合ってるよね? 森の代表……森のヌシってこと?」
「うむん! ルオはご主人に救われたのじゃ。そのお礼につながりを許すぞ!」
嬉しそうに笑う目の前の少女はルオと名乗った。
輝きのある白い毛に全身を覆われていて、ついさっきまで白狼だったことを思い出させる。
さらには意味が分からないことを言い出す始末。
「ご主人の森の名は、何と言うのじゃ?」
「森? 住んでいる所の名前って意味なら、岩窟のアルクスに住んでるけど……合ってるかな?」
「んむんむん! ならば近くの花をルオに触れさせるのじゃ!」
「花? 何でもいいのかな……」
変なことを言い出してるが正体が白狼の彼女だ。
下手に逆らってもいい事も無さそうなので、その通りにすることにした。
俺とルオがいる辺りには色とりどりの花が咲いている。
言われた通り、適当に根を抜いて彼女に渡してみた。
「――【ルオが認めし主人の元へ、つなぎを請う】」
ルオと名乗った少女は手にした花に言霊を呟き始めた。
すると、眩い光を放ったかと思えば、触れた花はどこかに消えてしまった。
「完璧じゃ! ご主人の棲み処とルオの森は繋がったのじゃ!! 嬉しーい!」
「んん?」
よく分からないまま何かが終わったらしい。
その途端、ルオは丸めていた尻尾を豪快に振って興奮そのままにケモ耳を姿勢よく立たせた。
「えーと……何をしたかは分からないけど、俺の名はエンジ。君はルオ……でいいのかな?」
「うむん! ルオなのじゃ。エンジ様の力となる為、ルオは早速つながりの元へ参るのじゃ!」
「ま、待った。つながりって、まさかアルクスとこの森がつながったってこと?」
「ご主人の棲み処はこの森と相性が良かったのじゃ。無論、ルオと主人様とも……むふふ」
いわゆる移動魔法のようなものだろうか。
思わぬ所と形で拠点への移動手段が出来たようだ。
森限定なのか、それともルオが認めた森だけなのかは今後次第か。
そう都合よく移動魔法を得られるとは思っていなかったが、厄介な人間に知られるよりはいいかもしれない。
「それじゃあ、早速だけどルオに触れていいのかな?」
「構わぬのじゃ! ご主人には尽くすと決めたのじゃから」
「えーと、み、耳に……」
「う、うむん……」
【白狼 ルオ 少女 ルオの森のヌシ 強さ不明 支援タイプ】
【植物との意思疎通が可能 固有スキル 即時移動魔法 認めた者のみ可能】
(なるほど。正真正銘、森のヌシだったということらしい)
襲う意思は無かったのに襲われていた彼女。
それを想定して森に何らかの惑わし魔法をかけていたのかもしれない。
(植物疎通は抜かして移動魔法をコピー。固有魔法名はエンラーセとする。ついでに、俺以外にも使用可能……と)
「ご主人~……もういい? ルオはご主人の棲み処に行って、守ることにするのじゃ!」
「あっと、ごめん。ここから俺もアルクスに帰ることが出来るのかな? それと、他の森にも行けたり?」
「ご主人はいつでも帰れるのじゃ。ご主人の望みであれば、他の森にいる時にルオを呼ぶのじゃ!」
「そ、そっか」
近すぎても意味の無い移動魔法ということになりそうだ。
「では、ご主人! またの~!」
「ま、また」
ルオは瞬く間に姿を消して、どこかへ移動してしまった。
にわかには信じがたいが、森同士をつなげた移動魔法を覚えることが出来た。
てっきりそのままそばにいてくれるかと思っていたのに、行動を共にするとは限らないみたいだ。
「……森のヌシとつながった?」
「わっ!? いつからそこに……?」
「フェンダーが見えないだけで、フェアリーはいつでもそばにいる。それだけ」
「そ、そっか」
これも妖精なりの賢さともいうべきだろうか。
それにしたって毎回驚かしてくれる。
「そろそろあの女はアルクスに移動させるべき」
「レシスのこと? まだ警戒をしているんだね」
「あの魔法兵の人間をどうにかするつもりなら、シェラを戻した方がいい」
「……そのうちね」
呆れた顔でザーリンはまたどこかに姿を消してしまった。
森全体を覆っていた霧や幻惑は、ヌシであるルオが離れたからか徐々に薄れていっている。
「あっ! エンジさま~!! 会いたかったにぁ」
「良かった、迷っていたんじゃないかと心配しましたよ~」
リウとレシスが揃って姿を見せたが、近くに魔法兵の気配は感じられない。
恐らく白狼を庇ったのを見たことで、俺と距離を取ったとみえる。
湖上国家都市といい、普通では無いエリアなのが気になる所だ。
「リウはネコ族だったよね?」
「にぅ? あい!」
「故郷には他の子がいるのかな?」
「……里はいつも変わるのにぁ。みんなどこかにいると思いますにぁ」
「移動しながら狩りをしている種族ってことなんだね」
他にもネコ族がいてもおかしくはない。
だが岩窟に棲みついていたリウのことを思えば、深く聞いてはいけないのかも。
「とにかくみんな無事でよかった。先へ進もう」
「あい!」
「はい、行きましょう」
魔法兵の目的も気になるが、ひとまず限定的でも移動魔法を覚えられた。
国として必要な魔法にせよ何にせよ、オリジナルから力を得なくては始まらない。




