23.書記、襲われの獣を救って懐かれる
俺たちはタルブックの敵対心を減らすことに成功した。
これで本来の移動手段である小舟により、国から先の地へ進むことが出来た。
しかし気になることがある。
どういうわけか、サラン率いる数人の魔法兵がついて来たことだ。
「間抜けめ。貴様は国を危機に陥れた輩。上から言われ、貴様を監視対象としたまでに過ぎない!」
湖を涸らしたことは確かに反省すべきことだった。
しかし――
「俺について来ても、何も面白いことなんてないですよ? それに……、今は旅の途中。お互いに干渉はしないですが、いいんですよね?」
「書記ごときに助けられずとも程度の知れたモンスターを含め、賊や畜生に劣ることなど何一つ無い!!」
その割には仲間かと錯覚してしまいそうな距離でついて来ている。
「……エンジさん、魔法兵ってどれくらい強いんでしょうね?」
(何だ、レシスの方がめちゃめちゃ気になってるじゃないか)
「少なくとも俺を拘束した彼女の腕っぷしが強いのは、確かだと思うよ」
「他の人はどれくらいなのか、知りたくありませんか?」
「そりゃあね……」
サランに従っている時点で強さは彼女以下だろう。
強さを見れるなら見てみたいが。
「……ふっふっふ! 私の隠れスキルでお調べしましょうか?」
何を言うかと思えば、レシスの隠れスキルか。
多分コピーで見えたあれのことだろう。
「回復士のスキル以外でってこと?」
「その通りです! これのおかげで勇者パーティから除け者にされていなかったんですよ!」
自分で言っている時点で隠れスキルじゃないけど。
「しかしですね、これには相手の協力が必要なんです。言葉を介さない形のあるモノなら何も問題は無いのですが~。じかに触れないと駄目と言いますか……」
(やはりそう簡単には行かないよな)
レシスは確かに光属性に関しては、絶対防御を含めて長けたスキルを擁していた。
だが隠れスキルならぬサブスキルについては欠点を持つ。
コピーして一度も試していなかったが、これで"イグザミン"の欠点が判明した。
しかし上位魔法に編集させればいいだけだ。
【イグザミンを編集 サブスキルからメインとして使用 上位魔法名ハイレインに変更】
これで視界上に映る対象のパラメータを掴めるようになった。
素性の知れない魔法兵の強さを掴めるはず。
「……フェンダー。上位魔法への編集は消耗するから気を付ける。いい?」
「え、そうなの? 魔力が減った感じはしないけど……」
「違う。フェンダーの生命力。コピーをしまくるのは構わない。編集もいい……魔法を上げるのは限度があることを忘れない」
「そ、そういうことなら、そうするけど」
フェアリーは相当な知恵があると聞いたことがある。
果たして古代の力についてどこまで知っているものなのか。
「にぁっ!? エンジさま、前方の森に何かいるにぁ!」
「うん?」
自由に使えるサーチスキル。
そのおかげで行く手に何者かがいたとしても、事前に分かる。
――とはいえ、通常はリウに任せることにしていたので声をかけられて初めて気が付いた。
「反応は強くないけど、獣の気配……か」
「どうするのかにぁ?」
「森の中に人の気配も感じるね。この場合は人の方が危ない目に遭っていそうだけど……」
「獣を助けるのかにぁ?」
「ううーん……」
範囲サーチが出来るのは俺とリウだけ。
怪しい動きを感じたのか、悩む俺たちを不審に思ってレシスが心配そうな表情を見せながら顔を覗かせた。
「どうかされたのですか? リウちゃんもエンジさんも悩んでいるようですけど……もしかしなくても、あの魔法兵をどうにかしたいと思っているとか?」
勇者パーティーで人の顔色をうかがっていたからなのか、様子の変化に気付きやすいようだ。
「そうじゃなくて、ここから少し歩いた先に深そうな森があるんだけど、そこから気配を感じてね」
「森ですか? こんな見晴らしのいい道の先に森があるんですね」
こうして悩んでいても、タルブック兵は一定の距離から動かず近付いても来ない。
それならこちらも迷うことなく森に入って行くだけだ。
「……とにかく行こう! リウはザーリンとレシスから離れないでくれるかな?」
「はいにぁ」
もっともザーリンは知らぬ間に俺の近くにいることがある。
そう考えれば特に心配する必要は無い。
少ししてサーチで見えていた深そうな森に近づく。
すると魔法兵たちは懐に隠し持っていた短剣を手にしだした。
そして、俺たちが進む後ろからゆっくりと付いて来た。
様子を見る限りでは察知能力はあるらしいが。
自分たちに危険を及ぼさない限り、俺たちに寄って来ることはないようだ。
そうして慎重に茂みの木々を避けながら進んでいると、それまで傍にいたリウたちとはぐれていることに気付く。
どうやらこの森の中では共有スキルであるサーチも役に立たないらしい。
「リウー! レシス!! ザーリンーー! 近くにいないか?」
一応叫んでみたものの、声をかき消し響かせない不可思議な状況に陥ってしまっている。
右も左もサーチの出来ない森だ。
道なき道をひたすら進んでいると、近くで何かがせめぎ合いをしている音が聞こえて来る。
短剣は剣よりも短い作りで素早い動きが出来る武器だ。
手数で応酬している所をみれば、この先にいるのはどう考えても魔法兵に違いない。
遠目で見るとサラン魔法兵だけ何かと対峙している。
図体が一般的な狼よりも一回り以上大きい白狼。その獣と応戦しているようだ。
彼女の近くには負傷して動けない他の魔法兵の姿。
近くに横たわっていて、自然治癒か自動治癒に任せている感じか。
「ちっ、ラウルフごとき獣が……!」
聞こえて来る声には緊張感が漂っている。
(ラウルフ……聞いたことないな)
しかしどちらかといえば、優勢なのは白狼のようだ。
そう見えていたが――
気づけばサランによる拘束魔法で形勢が一変していた。
「雑魚の獣めが! 動けぬまま絶えろ!!」
これはあまりにひどい。
一方的な動きに見えた俺は、白狼を庇う様にして前に出た。
「書記が獣を守ってどうするつもりだ? 無用な干渉をするなとほざいたのは、貴様のはずだ!」
「剣を使用していたのかは聞かない。だけどむやみやたら、それも魔法による殺生は無用なはず」
「ふん……勝手に絶えろ。オレは魔法兵らを回復する責任がある」
サランは倒れて傷ついている二人の魔法兵を抱え、視界から姿を消した。
問題はここからだ。
獣の方を助けてしまったのはいいとして、果たして言葉が通じるかどうか。
(――ってあれ? いない!?)
「ご主人!!」
「……えっ?」
声のする方を向くとそこに立っていたのは、獣耳を立てている女の子だ。嬉しそうに笑顔を浮かべている。魔法兵から守り救ったはずの白狼――なのか。




