22.書記、敵対心を減らすことに成功する
「――というわけなんだ。どうすればいいと思う?」
捕らえられていた状態から抜け出し、何とか戻って来れた。
もちろん監視付きの状態で。
そんな状況を見かねて戻って来て早々に、彼女から厳しい一言が。
「全て分かっていたこと。フェンダーは三日のうちに湖を回復させるスキルでも身につけて来る!」
「ど、どこで?」
ザーリンは静かに頷いている。
言葉要らずの答えということらしい。
「……あの兵士さんにずっと見張られてて、下手な動きは出来ないんだけど……?」
「それなら眠らせるなりすればいい」
相変わらず容赦が無く、突き放したような言葉だ。
それがザーリンでもあるけど。
比べちゃいけないが、ネコ耳の彼女はいつも以上に甘えて来ているし、レシスも見かねてずっと慰めの言葉をかけてくれている。
「たとえエンジさまに味方がいなくても、リウはいつだって味方なのにぁ~」
ごろごろと喉を鳴らしながらすりすりして来て可愛い。
「あ、ありがとね、リウ」
「にぁうん」
甘えて来るリウは、だいぶ前に見た通り甘えん坊さんになっていたようだ。
最近リウにあまり構っていないことも、関係しているのかもしれない。
ここでの問題が解決したらもっとリウを甘えさせてやろう。
「気を落とさないでくださいね! エンジさんは悪者じゃないって分かっていますから!」
「ははは……頑張るよ」
「そ、それと、エンジさんのスキルのことは内緒にしておきますねっ! 私とエンジさんだけの秘密です!!」
「あ、うん……」
少し照れたようにして、レシスは自分のベッドに戻って行った。
リウはコピー、ザーリンは導き。
俺のことを誰よりも知っている彼女たちと違い、レシスは天然で純粋な回復士かもしれない。
「――サランさんだったかな。あなたは何故俺を監視する?」
よりにもよって女兵士でしかもキツい人が監視。
非常にやりにくい相手だ。
「知れたこと。貴様が危険な者ということに変わりはない!」
「タルブックに逆らってもいないのに危険だと?」
「オレは上からの命令により、貴様を逃すことのない役目を負った。少しでも我が国を傷つけるつもりがあれば、次は容赦しない!」
自分のことを"オレ"と名乗る女性はそう多くない。
相当な自尊心があると思われるが。
「それなら、知恵をくれませんか? どうすれば湖を清浄させられるのかを」
「――何? 貴様が腐食させたくせに、元に戻すすべすら知らないだと!?」
「すみません……」
タルブックの上の人間が使用した魔法は、絶対防御で一切効かなかった。
だからといって許されたわけでもなく、咎人扱い。
挽回の機会を与えられたまでは良かったが。
たとえ今から回復させたとして、サランという兵士の監視は終わるのだろうか。
「我が国には豊富な植物園がある。オレが付いていれば貴様も入園を許されるはずだ。ついて来い!」
「それは助かります! 植物からであれば、有用なモノを得られることが多いですから」
「ちっ、書記ごとき雑魚に何故……」
女性ということはコピーした時点で分かっている。
だが、彼女は重く硬そうなアーマー装備を外す気配を見せてはくれない。
俺のそばにいる彼女たちとは声質も話し方もまるで違う。それだけに難しいところだが、仲間にならなくてもいつか必ず興す国の為に味方になって欲しいとさえ思ってしまった。
監視下の中、植物園入り。俺は抵抗の無い植物であることをいいことにコピーをしまくった。
花に触れただけでは怪しく思われなかったのが幸いで、特殊なスキルが備わった花と出会いを果たせた。
中には痛々しい刺のある植物もあったものの、より攻撃性の高い能力を得ることが出来た。
【タルブック生息花 カーティル 攻撃性S 貫通力A】
【刺を失わない固有再成長スキル リグロース】
(固有スキルをコピー、水魔法イシュケにリグロースを編集。よし、これで何とかなりそうだ)
湖上の中だけで生息している植物たちのスキルは相当なものだった。
そして三日と経たないうちに、タルブックへの罪償いとしてリグロースを使用。
「おおぉぉ!! 水が戻っていく」「書記のくせに大した奴め」などなど、書記のことをいちいち卑下するのを抜かせば、国民からの信頼を戻せたのは良かったと言える。
「ふ、ふん……当然のことをした程度で、我が国から許されたとでもいうつもりか?」
負け惜しみにしか聞こえなかったが、兵士サランは明らかに動揺を見せた。
刺のある植物からコピーした固有スキル。それを使い、腐食で涸れた水とタルブックから伸びていた根を用いて、再成長を促す。それにより湖を元に戻す以上の状態にすることを可能にした。
これをもって罪は許され、湖上都市国家からの敵対心は何とか下げられた。
しかしサランからの監視が解かれることは、未だ叶わないままだった。
「エンジさまはいつ外に出るのにぁ?」
「も、もう少しかな」
「あの兵士は~?」
「それもあともう少しの辛抱だよ、リウ」
「あい!」
しかし甘くは無かった。
「ど、どうされるんですか? あの兵士さんの口に手を付けたことがまずかったんじゃ……」
「ま、まさかね……」
下手なことをしたという自覚はあったが、しかし……。
「どういうこと? フェンダーから兵士を押さえつけた?」
「く、口に触れて……」
「……監視されるつもりで触れたのなら、フェンダーが世話をする。分かったら、支度」
「ええぇ? ……厳しいな」
国からの敵対心はほぼ正常に戻された。
しばらく目立つ行動を取らずに、鳴りを潜めていた効果があったからだ。
これでようやくこの国の先に進めるはず。
そう思っていたのに、彼女と数人の兵士が監視としてついて来ることになってしまった。
「むむぅ……エンジさま~人間が近いにぅ……」
どこまでついて来るのか分からないまま、俺たちは湖上都市より先に進むことにした。




