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180/180

180.極めの冒険者を目指して


 色々なことが終わって、ログナに戻ってから早々のことだ。

 仲間として行動を共にしていた彼女たちには、どうしても伝えたい。


 そんな思いがあり、まずはレシスを先に呼びつけた。


「エンジさんっっ! とうとう……ですね? そうなんですね?」


 レシスがきらきらと長い髪を揺らしながら、じりじりと詰め寄って来る。その眼つきはお姫様では無く、獲物を狙う獣のように迫力があるものだ。


「君にも今まで随分と助けられた。ありがとう、レシス」

「いえいえいえ!! 愛するエンジさんの為ですから! 日取りはいつです? 私としましては~」

「レシスには感謝してるよ。そのうえで――」


 上半身を激しく左右に揺らしながら、レシスは待ち望んでいるであろう返事を待っている。

 その前に、彼女にその気があるならもう一度聞いておかなければならない。


「子供たちを呼んで盛大に……それとも二人だけでやっちゃいますか!?」

「俺はもうすぐ旅に出るよ。レシスの気持ちも同じなら一緒に来て欲しい」

「ほえっ? 旅……?」

「俺はログナを出て冒険者になるよ。ログナにはアースキンがいるから何も心配無いわけだし」


 レシスの妄想では、挙式をあげるだとかお姫様抱っこでそのままどこかに旅立つとか、そんな考えだったのだろう。しかしコピーと魔法を極めたとは到底思っていない気持ちのままで、王としてぬくぬくと過ごすことは望んでいない。


 ザーリンが姿を見せずに旅立ったのも納得していないままだ。納得出来ない俺が出来ることは、魔法以外で最強を目指すこと。


 闇の存在としてサランを追い求めたが、肝心の世界の全てを知ることは出来ていない。だがログナが正常となり、脅威が去った今なら目指せるのではないかと考えた。


 アースキンには「心配するな、王など本当はいなくても何とかなるものだ」なんて言葉をかけられた。冒険者として、助言者のフェアリーにもう一度どこかで会えたら――そんな思いがある。


「ええぇぇ? じゃ、じゃあエンジさんとはもう会えないんですか?」

「……任せるよ。レシスの意思に任せる。俺は納得の出来る冒険者になりたい……それだけのことだけどね」

「むーむむむ……も、もしかして誰か心に決めた人と添い遂げを!?」

「それは何とも言えないけど……」


 しばらく考えますと言って、レシスは頭を悩ませながら肩を落として部屋を出て行ってしまった。

 そんな彼女を見送っていたら、ルールイが後ろから声をかけて来た。


「あら? アルジさまではありませんか! そんなところでどうされたのです?」

「ルールイにも話があるんだ」

「営みのことでしたらいつでも!」


 そう言いながらくねくねと体を動かして、ルールイは艶やかさを出している。

 ログナに暮らし続けることを望むかどうか、これを確かめなければ。


「君は俺のことをどう――」

「一度は振られましたけれど、旦那様ですわね。変わりなく! わたくしの棲み処はアルジさまのお傍にのみ存在しますわ。それが答えですわよ?」

「そ、そっか。それじゃあ……」

「その前に、アルジさまにはわたくしの翼に熱い口づけをしてもらいますわ! そうじゃなければ、わたくしは理性を保てなくなりかねませんわ!」


 嘘を言っているでも無さそうだ。

 恥ずかしさが溢れているが、俺はルールイの翼に口を付けてルールイに誓った。


「それじゃあ、これからもよろしく頼むよ」

「ウフフッ! 誓いの儀式は済みましたわ。これであの娘よりも……ウフフフフ」


 何か寒気を感じたけど気のせいだろうか。

 ルールイはついて来てくれるとして、次は――


「ヌシさま! レッテはルナリア王国に行くことにしたでーす!」

「へ? ま、また?」


 レシスと里に行った後にルナリア王国に救援しに行ったが、また何かあったのだろうか。


「王国の守護騎士を目指すことにしたでーす! 実はヌシさまが王となった時に決めていたです! レッテは確かに強いです、でもネコに近い強さではヌシさまの力となれない。レッテは王国でのことがあってからその気持ちが強くなったのでーす!」


 狼族としては十分すぎるほど強いのに、レッテはずっと強さを考えていたのか。これが彼女の意志なら俺は止められない。それに王国と人間との争いは、未だに根強い気がした。


 魔法こそ禁じているが、狼たちの騎士ならきっと何とかなるはず。


「レッテならきっと出来ると思うよ! 頑張って!」

「ところでヌシさま、しばらく会えそうに無いのでレッテの尻尾を抱きしめて欲しいです……」

「う、うん」


 それが何を意味するか分からないものの、レッテの大きな尻尾を優しく握りしめて存分にもふった。


「ウキュゥゥン……ハァハァ、も、もういいでーす」


 思った以上に気持ち良すぎた。こうなるとアースキンの気持ちが何となく分かる。


「ヌフフ……これでヌシさまをいつでも……そうそう、ヌシさま。ネコは近くにはいないでーす! いるとしたら、きっとひと気の無いあそこでーす! ヌシさま、お元気でー!!」


 満足したのか、レッテもあっさりとおれの前からいなくなった。リウの姿がどこにも無いと思っていたが、レッテだけが知っていたようで教えてくれた。


 ひと気の無い場所といったらあそこしかない。

 あそこに行って、俺が決めたことをリウに言わなければ。

 



 レッテの言葉通り、リウは岩窟があったかつての野営地そして、拠点の国として使っていた山砦の跡地に一人寂しく佇んでいた。ザーリンがいなくなったと同時にここには何も無くなり、木々が生い茂る森がそびえている。


 リウは元々ここに隠れ住んでいた。それを考えれば、リウにとって故郷みたいな場所になる。


「リウ! おいで!」

「にぅ!」


 ぱたぱたと尻尾を振りながら、勢いよく俺の胸に飛び込んで来る。これには一切の照れも恥ずかしさも無い。ネコ耳を撫でながら、俺の気持ちを素直に打ち明けよう。


「リウはログナよりもここにいたいかい?」

「エンジさまにぁ!」

「……俺?」

「リウ、エンジさまに撫でられるのが好き! エンジさまと戦うのが好き! エンジさまのことが大好きにぁ!! ずっと一緒! 一緒がいいにぁ!!」


 ここで出会った時から放っておけなくて、助けられてリウと一緒にいることが当たり前になった。この子がいなければ今が無い。


 出会った時から気になっていたネコの女の子。答えはもちろん――


「俺もリウが好きだよ。リウ、俺とずっと一緒に来てくれるかい?」

「にぅぅ!!!」


 ネコ族だからとか、それは抜きにして俺はリウを選んだ。この子が一緒なら、いつか必ずザーリンに出会えるはず。その為にも最強の冒険者を目指さなければならない。





「おっほん! おほんほん!! エンジさんが決めたのがネコのリウちゃんですか、そうですか! しかーし! エンジさんが決めたのはネコ族。エンジさんはどんな化け物でも、基本は人間であります! つまり、人間枠として愛することが可能なわけです。そうですよね?」


「レ、レシス……!? な、何でここが」


 どうやら気付かれずに後を付けられていたらしい。彼女もここで何度も戦いをしていたし、一人でたどり着くのは難しくなかったようだ。


「私はエンジさんの人間枠でのヨメでありまして~! そういうわけですから、ついて行きましょう! 当然の答えなのです! まぁまぁ、私に気にせずにリウちゃんと抱きしめ合ってください」


「にぁ? シェラがどうしてここにいるにぁ!? わわわわ!!」


 ようやくリウも彼女に気付いたか。ネコ耳が警戒に変わってしまったが、すぐに戻るだろう。


「ええと、リウとレシス。それとルールイが一緒に来てくれるってことだね。レッテは騎士を目指すみたいだから、彼女を応援するだけだし。これからもよろしく頼むよ、リウ、レシス!」

「にぅにぅ!」

「もちろんですとも!! どこまででもついて行きますよぉぉ! エンジさんとの人間同士の挙式が待っているわけですからね!!」


 あてがあるわけでも無いけど、まずは魔法以外でも最強の冒険者を目指す。

 そうすれば、きっとまた助言者の妖精に出会える。


 ――そう信じて、俺はまた旅に出よう。


お読みいただきありがとうございました。


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