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追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました  作者: 遥風 かずら
捌頁:極めの帰結

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178.レシスの里帰り 後編


 レシスに手を引かれて宿屋に来た。

 ここの宿屋は、かつて俺が書記として生計を立てていた冒険者宿だ。


 今では普通の宿になってしまったが、ここを利用する客のほとんどが冒険者なので、何かが大きく変わったわけでも無かったりする。


 違いといえば、子供も気軽に出入り出来るようになったくらい。

 宿の扉を開けて中に入ると、そこにいたのは一人の男の子だ。レシスが来たことで笑顔を浮かべている。


「この子が?」

「そうなんですよ! もう一人の子は宿の手伝いをするみたいでして、この子が代表して道案内をしてくれるんです」

「……いや、レシス。自分の故郷なのに道が分からないの?」

「お恥ずかしながらそのとおりでして……えへへへ」


 いつからログナに来ていたのか分からないが、まさか道案内役で呼んでいたとは。

 妄想だけじゃなく、まさかそこまで間が抜けている子だったなんて。


「…………」

「もしかして間抜けだとか思ってませんか?」

「お、思って無いよ。と、とにかく馬車を借りて行くんだよね? 移動魔法で行かなくてもいいの?」

「いいんです!! 道案内のこの子がいる意味が無いじゃないですか~!」


 思っていることを読まれてしまった。

 男の子は一言も口を開かないまま、馬車がある場所に向かってレシスを誘導し始めた。


 口が利けない子なのかもしれないので、そこは何も言わないことにした。


「エンジさん。お願いがありまして」

「うん?」

「私の故郷についたら、子供たちには笑顔だけ見せてくださいね! それと、属性石で起こる光景についても文句は言わないように!」


 馬車に乗り込んですぐ、レシスが珍しくまともなことを言い出した。

 いつもは妄想暴走した姿を見せてばかりなのに、男の子がいるからか至ってまともだ。


「怒ったりしないし、属性石のことも心配無いよ」


 ログナにいて普段からあまり子供たちに接することは無いが、笑顔を見せるだけなら問題無い。

 レシスに渡した属性石の属性についても同じだ。


 込められている属性の威力は、攻撃性がそこそこあるといっても光の力が強いレシスであれば、攻撃は半減するはず。


 ログナから出発して一時間経ったくらいで、馬車が止まった。

 どうやらレシスの故郷に到着したらしい。


 到着するまでは特に外の様子を見ることは無かったが、外に出て正直驚いた。


「――え? レシス……ここは――」


 そこには、大きな城だけがそびえていた。

 町でも無く村があるわけでもない、何とも寂れたように見える。


「いやぁ~お恥ずかしながら、故郷です」


 ログナからそれほど遠くでも無かったのに、こんな場所があったとは。


「何て国……もしくは町?」

「名前はもう無くてですね、今はお城だけが残っているだけなんですよ。両親もすでにいませんし、ここに隠れ住んでいるのも子供たちだけでして~」

「……まさか、国が亡くなった?」

「跡継ぎが連れて行かれた時点で、そうなる運命だったんだなぁと。私に回復以外の力があれば……なんて思いました」


 回復士レシス・シェラ。

 勇者ラフナンたちのパーティーメンバーだった彼女が、まさかこんな……。


「勇者パーティーか」

「ラフナンさんが悪いわけでも無く、勇者に求められて喜ばない親はいませんからね。しょうがないですよ」

「じゃあご両親は……?」

「ご心配なく! 生きてるはずです! 国として維持出来なかっただけなんですよ~」


 跡継ぎと言っていたが、もしかしてレシスの身分は――

 何となくしんみりしていると、城の中から数十人の子供たちが向かって来た。


 そこから聞こえて来たのは予想してなかった言葉だった。


「シェラ姫さま~!! 待ってたよ~!」

「姫さまだぁ! 見つけて来てくれた~!!」


 ああ、やはり。


「えへへ……エンジさんにはお教えしておきたくてですね~」

「レシス姫……姫様だったのか……驚いたな」

「大したことありませんよぉ~」


 妄想の暴走も何となく納得出来る。

 光の力が強くなるのは予想外だったが。


「ここにいる子供たちは?」

「孤児です。私が城にいた時から面倒を見ていた子でして。私がここに戻って来るまで待っててくれたんですよ」

「な、なるほど」


 孤児というが、身なりはそれほど崩れていない。

 年齢は10歳前後。痩せこけてもいないところを見れば、食べる物は豊富にあったようだ。


「そんなわけでして、エンジさん!」

「は、はい」


 何だか急にお姫さまっぽく見えるから、不思議な気持ちになる。

 何か命令でも下されるのだろうか。ログナの王となったからといっても、意味合いが違う。


 それだけに緊張感が漂っている。


「私と添い遂げる準備は出来ていますか?」


 違った。全く違う答えだった。レシスはやはりレシスだ。


「……まぁ、それは置いといて、子供たちに魔法の凄さを見せるんだよね?」

「な、何ですとぉぉぉ!!! 置かないでくださいよぉぉ! 仕方ありません。お返事はまた後でじっくりたっぷりねっとりと聞かせてもらいます!」


 故郷がログナに近かったことに驚いたが、亡国の姫様だったなんて思わなかった。

 驚くのはこれくらいにして、レシスは息を整えて周辺を見回し始めた。


 そして手元に置いた属性石を使い、子供たちに魔法の凄さを見せつけている。

 魔法を間近で見せることで、もう大丈夫だということを教える狙いがあったようだ。


 魔法のお披露目が終わったところで、レシスが真面目な顔して俺を見ている。


「な、何かな?」

「エンジ様。ログナの王様……。お願いがあります。私を含め、ここにいる子供たちをログナに住まわせてもらえませんか? この子たちはきっと学びたいし、強くなりたいはずなんです。どうかお願いします」


 やはりそういうことだったか。

 改まってお願いされるとは思わなかったが、何も問題は無い。


「もちろん、構わないよ。俺では無く、君さえ良ければね」

「ありがとうございます。エンジさん、お慕い……愛していますよぉぉぉぉ!!」

「ま、まぁまぁ、とにかく子供たちを連れてログナに戻ろうか?」

「はい。お城にお別れをしてから行きますとも!」


 姫様だったレシスとそこに残っていた子供たち。

 悲しみが漂っていてもおかしくなかったのに、レシスの明るさがそうさせなかった。


 ログナに暮らすようになっても、きっと彼女は変わらないだろう。

 彼女がいればきっと……。


 これなら俺の決意も進められそうだ。

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