177.レシスの里帰り 前編
「……よしっと、これが雷を含んだ属性石だよ。光と闇以外は揃ったことになるけど、それをどうするのか聞かせてくれないかな?」
王の間での宣言が終わったところで、後のことをアースキンに任せ一休みをしようとした時だ。
レッテやルールイ、リウは真っ先に城を後にしていなくなり、その場に残っていたのは見事にレシスだけだった。
休むつもりで落ち着ける部屋を探しながら歩いていると、何故か彼女も一緒について来ていた。
「――レシス? 何か俺に用があるのかな?」
「エンジさん! 私の嫁に! じゃなくて、旦那さんとして一緒に里帰りしてくださいっ!!」
「えっ!? 里帰り? しかも旦那……って……」
またしても彼女の妄想が暴走しているかと思っていたら、結構真剣な眼差しで訴えている。
そういえばレシスの故郷はどこだろうか。
彼女との出会いはここログナだったが、故郷を知ることなく気付いたら行動を共にしていた。冷静に考えれば、レシスにだって帰る場所くらいはある。
長い旅が終わったということもあって、帰る気になったと考えるのが筋だろう。
「そうなんですよ! でもその前にですね、エンジさんに作って欲しいものがありまして~」
「……作って欲しい物?」
途中で彫金ギルドに通い詰めたとはいえ、基本的にはコピーか魔法を放つことくらいしか出来ない。
作るという時点で、頼む相手が違うような気がしてならないがどういうことなのか。
「以前にですけど、アースキンさんに作っていたじゃないですか! それを私も欲しくてですね~」
「アースキンに作った……うーん?」
「弱いアースキンさんでも強い魔法が放てるアレです、アレ!」
レシスから見ても強さに物足りなさを感じられているとは、アースキンも大変だ。
彼女が言っていることは恐らく、属性石のことだろう。
「属性石……?」
「そうです!! 聡明なエンジさんでしたらすぐに気付いてくれると思っていましたよ!」
「それを何に使うつもりが?」
「お土産です! 里帰り……私の故郷には将来有望な子供たちが多くいまして、是非ともエンジさんの属性石を使って魔法を見せてあげたいのです! えっへん!」
レシスが威張ることでも無いと思われるが、その様子を見る限りは彼女自身が使う為のようだ。
回復士の彼女は残念ながら、攻撃魔法は使用出来ない。
(レシス自身が体当たりすれば、何でも破壊出来るとも言えるけど……)
しかし回復がメインな彼女にとって、属性魔法はとても魅力的なものになる。それを故郷の子供たちに見せてやりたいという考えも、とてもいつものレシスでは考えられない思い付きだ。
旦那様という妄想は置いといても、属性石で魔法を見せることについては素直に応じるしかない。
「レシスが使うってことで間違いないね?」
「ですです! お願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かった。いいよ、えーと、必要な属性はどれかな?」
「光と闇以外です!!」
光と闇に関しては、実はサランとの戦い以後、上手く使えなくなってしまった。
光は単純に言えば使い過ぎたとも言えるし、闇はあまりにも多く浴び過ぎたというのが原因だ。
体力的なものや魔力消耗によるものが大きいと思われるが、そのうち回復するはずなので心配していない。
「それじゃ、作るよ。ちなみに故郷はここから遠いの?」
「……実は子供たちがログナの宿屋に来てまして、一緒に行く約束をしてるんですよ」
「ログナから? 近くにそんな所があったんだね」
「ええと、馬車を借りて行くです……」
心なしかレシスが寂しそうにしているが、故郷に何か深刻なことでもあるのだろうか。
それはともかく属性石自体は魔法を石に込めるだけの単純作業なので、すぐに取り掛かることにした。
「よし、雷を放って後は――」
「エンジさん、後で杖も作って下さいね」
「あぁ、それはもちろん」
「準備万端!! エンジさん、宿屋に行きましょう!」




