174.闇の存在、闇光に包まれる 前編
「どうやって……? レシスを見過ごしたのを覚えていないのか?」
「――まさか、人間の女ごときが黒闇を破壊したというのか!? 絶対防御も無く、光さえも持たない人間が……」
「ほえっ? エンジさん、私って最初から光ってませんでしたっけ?」
すっとぼけのレシスは自分の状態がよく分かっていないようだ。俺はもちろんのこと、少なくとも黒闇空間に閉じ込められていた人たちは、レシスが持つ眩い光には相当勇気づけられた。
彼女の全身から放たれている光は、元々俺がかけた防御魔法によるものだ。ところがレシスの光は、防御魔法の効力が切れても失うことが無かった。
これは憶測だが、ログナの時に勇者ラフナンを吹き飛ばした辺りから光のみを自分の力に変えていた可能性がある。レシスは回復士としての実力は間違いなく本物。
性格や人間性は不思議ではあるものの、光に好かれたからこその輝きなのではないだろうか。
「回復士なんだから光っていたと思うよ」
「で、ですよねぇ~! エンジさんが言うならその通りです!!」
光の原石を持つ俺から防御魔法をかけられたレシスは、闇の影響を受けなくなっている。だからといって、光を使って攻撃に転じることは出来ないのは、彼女に攻撃の意思が無いからだ。
そうなるとサランという闇の存在を打ち消すには、異なる属性が使える者がやるしかない。
「レシス」
「はい?」
「サランは俺だけで倒すよ。君は疲弊しているリウたちを看てやってくれないかな」
「だ、大丈夫ですか? エンジさん、さっきまでかなり弱ってたじゃないですか~。あれ、違うかな? あれ? あれれ?」
黒闇空間で弱っていた様に見えたのは、突進して来た彼女があまりにも元気過ぎたからだ。
サランは人の姿を保ったまま、こちらの出方をうかがったまま動きを見せない。だがうかうかしていると、また同じように黒闇の飛竜を使って闇で俺たちを覆って来るはずだ。
すでにブリグの人たちは各々で退避しているし、レシスをこの場に残すのは最善じゃない。
「いや、俺は一人でも問題無いよ。レシスはリウたち……三人分を回復しなきゃいけないし、俺より大変な目に遭うからね。戦いが始まる前に移動しといた方がいいと思うよ」
正直に言えば光の力は別としてもレシスの回復力には、期待をしてしまう。しかし彼女を傍に置けば、全てを攻撃に回せなくなるはずだ。そうならない為にも、彼女をここから離す必要がある。
「ええぇ? じゃ、じゃあ、リウちゃんたちのところに行きますよ~? いいんですね~?」
「全てが終わったら、ずっと一緒にいられるだろうし……だから今は早く行って!」
「ず、ずっと一緒ぉぉぉぉ!!! すぐ行きます~!」
リウたちはサランがいる所よりも後方に集まっているが、それに構わずすっ飛んで行ってしまった。
あの突進力は捨てがたいものがあったが仕方が無い。
サランもレシスが自分に突っ込んで来るとは思っていなかったようで、視線は常に俺に向けられているままだ。
リウたちに声をかけてやりたかったが、今は我慢をして決着をつけることにする。
「忌々しい魔法士め……」




